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第10話 ※Rシーンあり
あれよあれよという間に、6月下旬になった。
「僕、明日誕生日なんだよね」
金曜日のランチタイム。自席で弁当を食べながら竜岡がつぶやいた。俺は竜岡を叱った。
「どうしてもっと早く言わないんだ! プレゼントを用意できなかったじゃないか」
「祝ってほしいってアピールするのは図々しいかなって思ってさ」
「俺とおまえの仲だろう。遠慮なんてするな」
「……僕と虎ノ瀬さんの仲って何? ただの同僚でしょ?」
俺は沈黙した。
兜合わせまでしておいて、ただの同僚ということはないだろう。でも、オフィスにいるので反論はしなかった。
「竜岡さん。明日は家に行くから」
「来てくれるの?」
「何が食べたい」
「ピザ!」
「分かった。奢るよ」
俺は決意した。
竜岡に分からせてやらないといけない。自分がどれだけ俺に愛されているかということを。
俺は帰り道、ドラッグストアに寄った。
ローションとゴムを購入する。
俺は茶色い紙袋に入った秘密の品々を抱えて、アパートに戻った。そしてスマホで男同士のやり方について調べた。
エロ広告のポップアップを消しながら情報を探す。
ゲイの当事者だという方のブログに、アヌスの清め方が載っていた。そんな風にシャワーを使うのか。勉強にはなったが、実践できるだろうか。
俺が……抱かれる方でいいんだよな?
とりあえず、自宅のバスルームで洗浄の練習をしてみる。こんな器官に竜岡は触れてくれるだろうか。
期待と不安に胸を膨らませながら、俺は眠りについた。
◆◆◆
夕方、俺は竜岡のアパートを訪ねた。
「本当に来てくれたんやね」
「……だって、年に一回しかない誕生日だぞ。祝いたいに決まってるじゃないか」
「虎ノ瀬さん、僕のこと結構好きなんだ?」
「分からせてやろうか」
竜岡の唇を塞ぐ。
ちろちろと緩急をつけながら竜岡の口蓋を舐めていると、舌の根をきつく吸われた。竜岡にリードを奪われる。俺たちはベッドに雪崩れ込んで、互いの唇を貪った。
「ピザを頼むんじゃなかったのか」
「そうだった」
竜岡がスマホを操作する。
ピザを待つあいだ、俺たちはベッドの上で抱き合った。エアコンの稼働音が聞こえる。今日は湿度が高く蒸し暑い。でも、体を離すという選択肢はなかった。竜岡の懐に頭を委ねる。
「虎ノ瀬さんがこんな風に甘えてくれるだなんて。僕、前世で徳を積んだのかな」
「竜岡さん。好きだ……」
「僕の方がもっと、あんたのことを好きやで」
やがてピザが届いた。
俺たちはチーズたっぷりのピザを分け合った。
「おいしいね」
「ああ」
食後、洗面所で歯を磨いた。竜岡が俺のためのコップと歯ブラシを準備してくれていた。まるで半同棲をしているようでドキドキする。
オーラルケアを終えた俺たちは再び、ベッドの上で抱き合った。
「竜岡さん。今夜は俺、帰らないからな」
「えっ、それって……そういう意味?」
「もちろんだ。覚悟を決めてきた」
竜岡が真剣な表情になる。俺の両肩に手を置きながら、竜岡が言った。
「同情だとしたら、やめてくれ」
「そんなんじゃねぇよ。俺はおまえが欲しい」
「……永遠なんて誓わなくていいから。虎ノ瀬さんが飽きるまで、俺と一緒にいて」
「あいにく、俺は本気だ。この先ずっと、竜岡さんといたい」
「虎ノ瀬さん……」
俺たちはキスを交わした。
ちゅくちゅくと艶かしい音が耳を撫でていく。竜岡が苦しげに眉根を寄せた。
「シャワー浴びてきていい?」
「どうぞ」
「逃げるなら今のうちやで?」
「竜岡さん、なんでそんなに自信がないんだ。もっと愛されてる自覚を持て」
「だって虎ノ瀬さん、ずっと僕の気持ちに気づかなかったやんか。それがいきなりベッドインOKって言われたら、夢かと思うやろ」
「いっぱい傷つけてしまってごめん。今夜、埋め合わせをするから。許してほしい」
竜岡は両手で顔を覆った。
「虎ノ瀬さん、反則や。素敵なお顔に、男前なセリフ……」
ひとしきり身悶えしたあと、竜岡はバスルームに消えていった。
俺はベッドの上で竜岡の帰りを待った。
これから起きることを想像して、体の芯がカッと熱くなる。竜岡はベッドでも優しいのだろうか? それともドSなのだろうか。
俺はリュックサックからローションとゴムが入った紙袋を取り出した。大人の恋なのだから、こういった道具に頼るのはおかしなことではない。でも、準備万端な自分を浅ましく感じてしまった。
「お待たせ」
竜岡が腰にタオルを巻いただけの姿で部屋に戻ってきた。均整のとれた体に思わず見惚れてしまう。
「それじゃあ、行ってくる」
俺はバスルームを借りた。
ボディソープを泡立てて、全身を清める。不慣れではあるが、後ろの洗浄も済ませた。竜岡はこんな場所に触れてくれるのだろうか?
俺の体で少しでも竜岡を愉しませることができればいいのだが。祈りを込めながら俺はシャワーを浴びた。
腰にタオルという格好で竜岡が待つベッドに近づくと、腰を抱き寄せられた。竜岡の指先が俺の乳頭を狙う。
くりくりと小さな突起をいじられているうちに、俺の体は熱を帯びていった。竜岡はもう片方の乳首をつまむと、俺の唇を吸った。胸の粒から生じた性感が全身を炙っていく。喘ぎ声を上げようにも口を塞がれている。俺の肌は上気していった。
「虎ノ井さんの体、あんまり綺麗だから、手加減できんわ」
竜岡は俺の胸の尖りをねろりと舐めた。緩慢だった舌の動きが忙しなくなる。まさか乳首ばかり執拗に責められるとは思わなくて、俺は窮地に追い込まれた。
下腹部が兆してしまう。
俺の雄芯を手のひらで包み込むと、竜岡は感じやすい肉棒を上下に扱いた。俺の息が上がっていく。竜岡のアパートは壁が薄いので声を抑えなければいけない。涙目になりながら口元を手で覆う。
竜岡が俺の耳元で囁いた。
「最高にエロい。虎ノ瀬さん、僕を殺す気?」
「俺の体で満足できそうか?」
俺の問いかけに言葉では答えずに、竜岡は俺の屹立したモノを舐めた。敏感な部分をちろちろと刺激されて、俺の先端からカウパーが滲み出た。竜岡に愛を伝えるはずが、これでは俺ばかり気持ちよくなっている。
「竜岡さん……。竜岡さんのも、触らせてくれ」
ガチガチに硬くなった竜岡の男らしい部分に、俺は頬擦りをした。これまでの人生において、同性に欲情したことはない。でも、竜岡は別だ。竜岡に気持ちよくなってもらえるのならば、いくらでもペニスに奉仕できる。
俺が亀頭にキスをすると、竜岡が慌てた。
「そ、それは今度でいいから」
「よすぎて、おかしくなりそうか?」
「虎ノ瀬さん、煽るとこうやで?」
竜岡が俺のへその下に頭をもぐり込ませた。へそに届きそうなほどにそそり立ったモノをちゅぱちゅぱと吸われる。俺はたまらず喘ぎ声を漏らした。
「ごめんっ……! お隣さん、部屋にいるよな」
「追い込まれた虎ノ瀬さんも可愛いね」
「意地悪だな」
「僕しか知らないあんたを見せて」
「あっ、んんっ……」
ペニスを喉奥まで飲み込まれる。温かくて湿った口内の感触に、俺の肉棒はピクピクと震えた。竜岡の口淫をねだるように腰が揺れてしまう。あまりにも気持ちよすぎて、俺は抵抗することを忘れた。
「出るっ、出ちゃうっ!」
腰の奥から快感がせり上がってきて、俺の性器は放熱の時を迎えた。ぴゅんと飛び出た白濁が竜岡の口元を濡らす。竜岡は俺の精液をためらうことなく嚥下した。
「おい! 飲んだのか?」
「恥じらう虎ノ瀬さん、たまらんわ」
「俺だって、おまえを味わってやる!」
フェラチオをしようとすると、竜岡にやんわりと拒まれた。俺は体を裏返しにされた。尻が丸見えになる。
竜岡は俺の臀部を撫で回した。
「……ローションとゴムなら、紙袋の中に入ってる」
「虎ノ瀬さん、準備してくれたんだ」
「引くか? 抱かれる気満々すぎて」
「嬉しいよ」
俺の尻たぶにキスを落とすと、竜岡はローションに手を伸ばした。ローションがボトルから垂れる、ぷちゅんという音が響いた。
竜岡の濡れた指先が俺のアヌスに触れた。
どくんと鼓動が跳ね上がる。
「ナカ、ほぐしてもいい?」
「……ああ」
「痛かったら言って」
ぬるりとした指が、俺の内側に分け入った。はじめは異物感が強かったが、だんだんと体の芯が溶けていくような心地に見舞われた。竜岡が俺の肉筒を暴いている。恥ずかしいけど嬉しくてたまらない。
「虎ノ瀬さん、苦しくない?」
「大丈夫だ……」
ぐちゅぐちゅという水音が耳に絡みついてくる。俺は竜岡に尻を突き出したまま、枕に顔を埋めた。
時折、竜岡の硬くなったペニスが俺の尻に当たった。こんなに立派なモノを俺は受け入れることができるだろうか?
竜岡は根気強く俺のナカをほぐしていった。
「そろそろ二本目、挿れてもいい?」
「うん……、っぅ!」
二本の指を飲み込んだ瞬間、俺の視界が白んだ。竜岡の指が、俺のとある箇所をこするたび、目の前で星が瞬いた。俺は「あっ」と小さく声を上げながら、尻を揺らした。竜岡は俺の悦点を把握したらしく、そこばかり責め始めた。
「だめだっ! イくっ、イっちゃう……っ!」
「ここが虎ノ瀬さんのイイところなんだ」
「あっ、それ……っ、もう、……あっ! あぁっ!」
俺は大きく背を反らした。
顔を真っ赤に染めて、尻を振っている俺の姿に竜岡は幻滅したかもしれない。恐るおそる振り返れば、双眸に情欲の炎が灯った竜岡の姿が視界に映った。
「虎ノ瀬さん、エロすぎ」
「そっちだって、しつこいんだよ! んっ、ぅっ、ひゃ、あぁっ……!」
「三本目もいけそうやね」
「好きに、しろ……」
俺は枕に突っ伏した。
三本の指を咥え込んだアヌスが、みちみちと拡げられる。本来ならば男を受け入れる場所ではない器官が竜岡の手によって開発されていく。俺は深呼吸を繰り返した。腹部の膨満感は竜岡の三本の指によるものだと思うと、恍惚のあまり力が抜けていく。
俺は涙を滲ませながら、「好きだ……」と囁いた。
「虎ノ瀬さん。僕もあんたが大好きや」
「竜岡さん……来てくれ」
「うん」
竜岡がゴムを装着した。
そして、ぴとりと俺のアヌスに竜岡の先端があてがわれる。
「行くよ」
優しい声とはかけ離れた、獰猛なモノが俺のナカに入ってきた。指とは比べ物にならない存在感を持った肉棒が俺の奥へと向かっていく。途中、悦点をこすられれば、俺の口から甘えた声が漏れ出た。
竜岡はすべてを俺の肉筒に収めると、緩やかにピストン運動を開始した。
「あんっ! あぁっ!」
「虎ノ瀬さんのナカ、うねってる……」
「……竜岡さんっ」
「おしゃぶりが上手やなぁ」
「……やっ! は……ぁあっ、ち×ぽ……いいっ!」
「そろそろ体位変えようか」
一旦、雄々しいモノを引き抜くと、竜岡は俺を仰向けにさせた。そして、腰の裏に枕を入れた。俺は両の膝をできるだけ離した。好きな男のためならば淫らなポーズをとることも厭わなかった。
竜岡が俺のナカにみずからを埋 める。
挿入の角度が変わった。俺の内壁がきゅうきゅうと収縮して、竜岡のペニスをねぶる。
竜岡は俺と唇を合わせた。
キスをしながら交わっていると、身も心もひとつになったような気持ちになった。俺は竜岡の背中に腕を回し、夢中でしがみついた。竜岡のペニスがどくどくと脈打っている。
「竜岡さん……っ、好きだっ」
「僕もやで」
竜岡がゆるゆると前後運動を始めた。
俺は竜岡の動きに合わせて、腰をくねらせた。初めてだとか、男同士だとか、そんなことはもはや、どうでもよかった。竜岡を独り占めしている。その事実が恍惚を誘った。
「あぁっ、あぁ……っ」
「虎ノ瀬さん、愛してる」
甘い囁きのあと、竜岡は腰を震わせた。
そして大人しくなった肉棒を引き抜き、ゴムを取り去って口を縛った。俺は竜岡の汗ばんだ体に腕を巻きつけた。
「どうしよう……。おまえのことがどんどん好きになる」
「僕の方が愛が重いから大丈夫や」
「竜岡さん。これからも一緒にいよう」
「うん」
俺たちはベッドの上で四肢を絡ませ合った。
「竜岡さんの誕生日なのに、俺の方が贈り物をもらってしまったな」
「いや。体の負担が大きいのは虎ノ瀬さんの方や。僕こそ感謝せなあかん」
「その……気持ちよかったか?」
竜岡は俺の唇にキスをした。
「誰にも渡したくない。虎ノ瀬さんは僕のもんや」
「ありがとう……」
じゃれ合っているうちにまどろみがやって来た。
俺は愛しい人と、眠りについた。
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