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[おまけ] Tシャツ〈黒/М〉780円(税込)

「あれ、八尋さん、そのTシャツって……」  風呂を済ませた八尋が頭を拭きつつソファに座った時、隣で望が驚いたように声を掛けてきた。 「ん?」 「それ、僕が破いちゃったヤツですよね? 買いなおしたんですか?」 「ああ、これか。三枚まとめて買ったからあと二枚あるんだよ。なあ、これいくらだと思う?」  八尋は胸を張り黒の無地Tシャツを自慢げに望に見せた。 「え……高かったんですか? すみません、まだ弁償してなかったですね」 「逆、逆! これ、一枚七八〇円だったんだ」 「ええっ! 七八〇円で買えるTシャツがあるんですか?!」 「あはは! 保険屋のCMかよ」  さすが大賀峰家のお坊ちゃま。下着でも千円以下なんて有り得ないのだろうなと八尋が思い笑っていると望が真剣な目を向けてきた。 「や、八尋さん。そのTシャツ、僕に売ってもらえませんか。この前破いたのも合わせて払いますので」 「え? 望も着る? でもこれМサイズだし、お前だとピチピチになるだろ。ネット通販だから注文してやるよ」  まだ同じものが売っているか調べようとテーブルに置かれたスマホを取ろうした時、望が八尋に身を寄せてきた。 「いえ、今着ているこれをください」  望はそう言いつつ、八尋のTシャツの裾に軽く触れた。脇腹を掠める望の指先。望の意図はわからないが、たかだか七八〇円のTシャツにそれ程のこだわりも無い。 「べつにかまわんが……」  八尋がそう応えると望は黒い目を輝かせ、「では」と呟き八尋に覆いかぶさるようにのしかかってきた。 「へ?」  そして望は戸惑う八尋の胸元を両手で掴むと、その手に力を込めた。 「ちょっ! ちょっと待てぇぇぇっ! き、貴様、何をする気だっ!!」  八尋は慌てて望の手を掴んだ。 「お願いします! お金払いますからっ、破かせてくださいっ!」 「や、破くって! 金の問題かっ!」  至近距離で互いに怒鳴り合う。  八尋にのしかかり迫る望のその目は飢えた肉食獣のようにギラギラしていた。 「あの時のっ、八尋さんのTシャツを破ってしまったあの時の光景が、ずっと脳裏に焼き付い離れないんです! 黒いTシャツから覗いた八尋さんの滑らかな白い肌が本当に眩しくて……。それに……ち、乳首、凄くピンクで……綺麗で……」  鼻息を荒くしあの時の状況を語る望。 「や、やめろっ! いやらしい言い方すんなっ」  八尋が抗議するが望の熱い視線は変わらない。今の八尋を通して一ヶ月前のあの夜の記憶をなぞっている。 「ぼ、僕、偉かったですよね?! あの状況でよく耐えられたと今でも思いますっ! でも、でも……あの時の八尋さんの……八尋さんのおっぱいが吸いた過ぎて、もう生霊になりそうですっ!」 「い、意味がわからないっ!」 「八尋さぁぁん! お願いしますっ! 成仏させてくださいっ!」  望は半泣きで八尋の首筋に顔を埋めてきた。 「このままじゃ本当に生霊になって、夜な夜な八尋のおっぱい吸いに行っちゃいますよぉぉ〜!」 (……それって、今と変わらんだろ)  八尋は呆れつつもこの大型犬のような年下の恋人に弱いという自覚もあった。首元に埋まる望の頭を撫でてやりながら溜め息混じりに告げた。 「……わかった。いいよ、Tシャツやるよ」  その言葉を聞いた望が少し顔を上げて八尋を見つめる。 「いいんですか……?」 「……ん。中身もとっくにお前のもんだしな」  そう言いながら八尋は望の頬を手の甲で撫でた。 「や、八尋さんっ!」  望は身を起こし八尋を見下ろす。 「ああ、八尋さんがそんなふうに言ってくれるなんて……!」  望はそう言葉を漏らしつつ、八尋の黒いTシャツの生地を撫でた。わざとか、わざとでないのかはわからないが、望のその指が八尋の乳輪あたりを掠め、八尋の身体がビクリと震えた。  そして望は「では……」と囁やくと両手でTシャツの安い生地を掴み、その映画俳優のように均整が取れた顔を八尋に向けて言い放った。 「いただきますっ!」  完

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