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第1話『prologue』

窓から覗く空はあいにくの曇り空で、外はかなり寒いのだろう。 風が窓を打ちつけて、格子がカタカタと音を鳴らした。 ベッドから少し体を起こして見える窓の外は、木々の細い枝葉が風で揺れている。 木の枝に留まって羽を休めている鳥は、寒さと風に必死に耐えているように見えた。 (あの鳥の名前はなんて言ったかな) 昔、名前を教えてもらったことがあった気もする。 でも今はどうにも気だるく、思い出せそうになかった。 (今、何時なんだろう……) ここには時計がないので、自分ではわからない。 曇り空ではあるが、外は少し明るいので、恐らく午前中なのだろう。 この部屋の壁は白く、シミや汚れもない。 建物自体が比較的新しく、いつでも徹底的に清掃されている。 そのせいで殺風景でもあるけれど、今の自分にはその無機質さが、むしろありがたい。 微かに足音が聞こえてきた。 その足音はいつもほとんど同じ時間に聞こえてくる。 その足音を聞くことで、時間を把握するのが自分の日課になっていた。 足音の主を表すような、いつも淡々として、きっちりとした乱れることのないリズム。 その単調なリズムを聞いているうちに、ゆっくりと瞼が重くなってくる。 とろりと蜜に溶けていくようなその誘惑には、とても抗えそうにない。 でもどうしてだが、それでいい気もするから不思議だった。 これから人が来るというのにおかしな話だ。 来訪者の到着を前に、甘い蜜にとろけて意識を手放した。
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