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第15話 初恋

 香港、現在——。  アマンダはエレベーターのボタンを押した。ホテルの上の階に向かいながら考える。  ⋯⋯ミスター・リーがSEX中ということはありえるだろうか?  黒い皮のジャケットにミニスカート。編み上げのいかついブーツを履いている。小柄で胸の大きなインド系で、滑らかで美しい褐色の肌をしている。大きな二重の目で2回瞬きをしてから、「ありえない」と呟いた。  レイ・リーはアマンダの雇い主で、色事に関してかなりの潔癖。昼間から誰かと寝ている可能性はまずない。だからアマンダは、別段気を使うこともなく教えられた番号の部屋をやや乱暴に叩いた。  返事はない。  もう一度叩いて、「ミスター・リー。アマンダです、ミスター・ヤンに命じられてむかえに来ました」と声をかけた。それでもやはり返事はない。ヤンに連絡を取ろうかとスマホを取り出しかけたとき、ドアが開いた。見知らぬ男がいきなり目の前に立つ。 「誰?」  アマンダは一歩下がって背中に右手を回した。腰の後ろに小型の銃、ベレッタナノを挟んでいる。 「ミスター・リーは電話中です」  男は穏やかな笑顔で言った。若い。流暢な広東語ではあるけれど、微かに訛る。中国人ではないらしい。アマンダはベレッタナノにすぐ届く位置に右手をホールドしたまま、 「ではお待ちします」  低く平坦な声で言った。 「すぐにいらっしゃいます」と、男は白いシャツのボタンを止めながら言う。チラリとタトゥーが見えた。ジャケットは着ていない。「宮人(みやじん)です」と名乗ったので、アマンダは頷きながら少し緊張を解いた。日本から宮人グループの男たちが来ていることは知っていた。つまりこの若い男は日本のマフィア「YAKUZA」というわけだ。  ⋯⋯殺気ぐらい消せ。  アマンダは思いながら若い男を観察した。190近い体は服の上からもかなり鍛えているのがわかる。日本人にしては彫りが深い顔はなかなかのハンサム。だけど一番の印象は殺気だった。いつでも誰でもすぐに殺せる、と男の全身が言っている。 「おまえ、ジャケットは?」  かすれた声が聞こえてレイ・リーが現れた。動く人形、と陰で呼ばれているほど容姿の整った男だ。夢に見たら心臓が止まる、とも噂されているほど性格は凶暴。そしてたいていいつも機嫌が悪い。だけど今日は、 「ヤンの指示か? おまえもこき使われるな」  と笑顔を見せた。赤い唇が形よく上がって、女好きのアマンダですらもドキリとする色気のある白く小さな顔。 「忘れてた」とジャケットを取りに日本人が部屋に戻る。  アマンダはレイ・リーに「二人で何をしてたんですか?」と聞いてみた。パートタイムで働いている関係だ。マフィアの組織に入っているわけではないので、元々あまり遠慮はしない。  レイ・リーはにこやかに、 「記憶媒体の上書き」  と答えた。 「あの日本人はITの専門家なんですか?」 「は?」 「⋯⋯いえ、なんでもありません」  余計なことには首を突っ込まない。アマンダの3つある信条のうちの1つだ。だからそれ以上は口を開かずにレイ・リーの完璧な後ろ姿を見ながら廊下を歩く。GUCCIの黒いスーツに皺が入っていた。まるでそのまま寝たかのように⋯⋯。  後ろから日本人が来たので、「私、早く来すぎましたか?」と聞いてみた。若い男は短い髪を撫で上げながら、 「タイミングは最悪でしたね」  と苦笑しながらレイ・リーの後ろ姿を見つめる。その視線に欲情がある。  アマンダの褐色の顔がわずかに笑った。  ⋯⋯レイ・リーが男と寝ている。  手帳に書いておかねば、と思った。 *  レイ・リーはコーヒーに砂糖を三杯も入れ、スプーンでくるくると黒い液体をかき混ぜた。嬉しくて仕方がない。記憶の書き換えはうまくいった気がする。これでもうあんな夢は見なくなるだろう。見知らぬ男に突き上げられる夢。うんざりするほど欲情してしまうあの夢。 「入れすぎですよ、若」  側近のヤン・ジェンユー(楊振宇)がレトロな銀縁の丸メガネの向こうで目を細めた。細身のスリーピースをきっちりと着こなしている。  レイは本社ビルの豪華な応接室にいる。レイの隣にはヤンが座っている。向かい側には良二が、無表情にコーヒーを飲んでいる。  さっきホテルで、良二がレイの下半身を脱がそうとした瞬間にアマンダがドアを叩いた。最高のタイミングだった。レイはイったけれど良二はまだだ。なぜか自分が勝ったような気がした。  良二の横で「李家のおかげで、全てが順調です」と、大陸から香港に戻ってきた真っ白な髪の村上が笑う。地味なスーツ姿で得体の知れない裏社会っぽい男だったけれど、こうやって笑顔になると人好きのする顔になった。  今日は隣にもう一人の日本人を連れてきていた。事務方を一気に仕切っているらしい坂口という男だ。年は村上と同じ40代。チャコールグレイのスーツで会社員風の地味な男だったけれど、両手の小指の先がなかった。  坂口が、「先程の話に戻りますが、つまり李長老の印がないと、この契約は正式には締結しないわけですね。法的には完璧でもそちら側ではまだ未決状態という理解でよろしいのでしょうか?」とコーヒーカップを手に取る。途中でぶつりと切り取られた坂口の小指を見つめながら、レイは、 「形だけです。父はもうすでに引退しています」 「いつ頂けますか?」 「いつでも」 「では、今すぐに?」  坂口の口調には遠慮がなかった。地味に装ってはいるけれど、よく見ると切長の目の奥に嫌な光が時々見える。  ⋯⋯両手の小指のないヤクザ。  日本のヤクザが小指を切り取る意味を考えながら、レイは「では、今から父の所に行きましょうか?」と立ち上がった。今日は本当に気分がいい。あの父親に会うことすら気にならないほど、いい。 *  レイの父親はいくつもの名前を持っていて、お抱えの風水師にしたがって毎年のように呼び名を変えていた。最近は急に李天翔(リ・ティエンシャン)と名乗り出している。香港の西の高台全てを所有していて、そこに住んでいる。屋敷に最新の派手さはなく、清時代を模した巨大な門からは車は入れない。その門の前に、大型の高級車が止まった。まずレイが下りてくる。古風な着物姿の門弟たちが集まって頭を下げるのを無視して、門をくぐる。  後ろから良二が、 「ひどいな」  と呟いた。 「何が?」 「あなたはすっきりしたかもしれないけど、俺は中途半端すぎて」 「若いと大変だな」レイは笑う。 「今夜、付き合って貰えますよね?」 「ふざけんな」  ヤンが横にきて、「なんの話です?」と聞いてきた。 「記憶媒体」 「え?」 「そんなことより、先に親父のところに行ってろ。俺は兄貴の顔を見てくる」  村上と坂口をヤンに任せて、レイは離れに向かった。敷地内は広く、本家といつくかの別邸がある。低木の間の小道を抜けていると、後ろから良二もついてきた。 「ついてくんな」 「弟さんが二人だと思ってました」 「まあな」とレイは肩をすくめた。シワだらけだったスーツは着替えている。やはりGUCCI。新作で腰のあたりがギリギリまでシェイプされている。男にしては細すぎる腰によく似合っている。 「お兄さんもいたんですね」と、良二が体を寄せてくるのをキツイ視線で追いやり、「世間的には弟だ」と教えた。 「どういう意味ですか?」 「愛人の子が嫁より先に息子を産んだから、3年ほど公表を遅らせた。俺より2つ上だけど、1つ下の弟ってことになってる」 「複雑ですね」 「だろ?」振り向くと、良二の厚い胸がすぐ目の前にあった。さっきまでこの胸に顔を埋めて、見事な龍の彫り物に見惚れていた。急に下半身に熱を感じそうになってレイは急いで歩き出す。こじんまりとした別邸の前には池があり、そばに人影が見えた。 「ラン」  声をかけると、 「レイ!」  子供のような甲高い声が答える。姿も子供のようだった。車椅子に座っている。フワフワとした薄茶色の髪に、同じような薄茶色の目をしている。李嵐(ラン・リー)だ。レイの弟であり兄でもある男。かなりの小柄で、地味な色味の中国服を着ていた。 「珍しいね、ここに来るなんて」 「親父の印がいる」 「ああ、なるほど」とレイの後ろを見て、「誰?」と聞く。 「日本人」 「で?」 「だから、日本人」 「あいかわらずだね⋯⋯。ラン・リーです」 「宮人良二です」 「でかい人だね」 「だろ?」レイが肩をすくめた。 「鯉に餌をやってたんだけど、この鯉って日本からきたんですよ、ミスター・宮人」  良二が「へえ」と池を覗き込むので、「落ちるなよ」と軽く背中を押した。びくともしない。レイが舌打ちすると良二とランが顔を見合わせて笑った。小さな池だったけれど、赤や黄色の模様がついた大きな鯉が何匹も泳いでいて、日差しに鱗が光っている。値が張る鯉ばかりで、中には数千万の鯉もいた。ランの唯一の趣味だ。レイはしばらく黙って、ランと一緒に鯉に餌を投げ続け、 「じゃあな」  と軽く手を振って別邸を離れた。良二が何か聞きたそうな顔をしているので、「俺のお袋が毒を盛ったせいで成長しなかったらしい。それとも生まれつきかもしれないけど⋯⋯どっちだろうな」と教えた。 「毒が好きな一族なんですね」良二が眉を寄せる。 「おまえさ、俺たちの一族のこと調べたんだろ?」 「まあ、少しは」 「毒殺の技術で帝に支えてきた一族、ふざけた話だ」とレイはやはりかなり機嫌が良かったので、「毒のコレクション、見せてやろうか?」と良二を誘った。 *  屋敷は清時代の様式の作りで、風通しはいいが無駄に広い。北の奥に図書室があり、そのまた奥に「毒薬部屋」があった。茶色くなった古書が山のように積んである部屋を抜け、レイは扉を開ける。 「息をするなよ、死ぬぞ」と言いながら入ろうとすると、「ストップ!」と良二が腕をつかんで引き留めた。 「嘘だよ、そんなわけないだろ?」  笑いながら良二の腕を振り払う。 「本気にしたじゃないですか」 「バカかおまえ」 「どうせ俺はあなたほど頭はよくありませんから」  壁ぞいの棚に陶器の小壺やガラスの小瓶がずらりと百ほど並んでいる。 「これ、全て毒ですか?」 「そういうことになってるけど、もしかしたらただの腐った水かもな。触るなよ」 「触りませんよ」  良二は興味を持ったらしい。棚に並ぶ小瓶を見つめている。後ろから見ても本当に見事な体格の男だった。  ⋯⋯確か、背中のあのあたりにも竜がいた。  胸の龍とは見つめあったけれど、背中の龍とはまだだ。背中の龍の視線も追いかけてくるように動くのだろうか、考えながら思わず良二の背中に手のひらで触れてしまった。 「レイジさん?」と、良二が笑顔で振り向く。 「レイジ?」レイが聞き返すとすぐに、良二の顔から笑みが消えた。一瞬で消えてその後に、言いようのないほど暗い顔が残った。 「間違えました⋯⋯」 「誰と?」  廊下から「若?」とヤンが呼ぶ。 「行きましょう、ミスター・リー。ここは薄気味悪い」  気分が悪そうな顔をして良二は毒薬部屋を出て行った。 「初めまして、日本の皆様」  李天翔(リ・ティエンシャン)は日本語で挨拶をした。久しぶりに会う父親は少し太ったように見える。70代後半。黒々とした豊かな髪を後ろに撫でつけている。眠そうな目をしているけれど、これが癖で、時々ギロッとこの目を開く。武道家風の黒い中華服姿だ。  清朝時代のアンティークの食台に伝統的な中国菓子が並んでいた。茯苓餅(ぶくりょうもち)もある。ヤンが「清王朝のお菓子です、西太后も好きだったらしいですよ」と説明する。日本人たちは手を伸ばしたが、レイはお茶にすら手を出さなかった。この家で何か食べることはまずない。全てが古く、茶器にすら毒が染み込んでいるような気がして、たとえヤンが毒見をしたとしても食べたり飲んだりする気にはなれなかった。  和やかな中国風のお茶の時間が過ぎると、やたらもったいぶった、儀式のような雰囲気で父親は印を持ってきた。レイは、諦めが悪い⋯⋯と冷めた気持ちで書類に印を押す父親を見つめた。引退したと言いながらも実権の端っこを握っていたいのだろう。最後に眠そうだった目を開いて、 「両家の繁栄が続くことを祈って」  と呟いたのも面白くもない茶番に見えた。大きな印が押された書類をさっさと取って、一枚をヤンに一枚を坂口に渡すと、 「お元気で」  一礼をして父親の目も見ずに部屋を出た。帰りの車の中で、アマンダからスマホに電話が入った。大型高級車の後部座席は応接室ばりに広い。隣にはヤンが、向かい側には三人の日本人が座っている。 「どうした?」とアマンダに聞くと、女にしては低すぎるほど低くい小声が、「ちょっとご相談したい件が⋯⋯」言葉尻を濁す。レイはチラリとヤンを見た。ヤンは日本人たちと日本食レストランについて話している最中だ。メールに切り替えるとすぐに、  ⋯⋯墓に埋めたあっちの若様の件  の文字。 シャオ家の跡取り息子を拉致して墓にでも埋めろ、とレイは以前、アマンダに命じたのだ。ヤンに知れるとヤバい事案だ。誤魔化す方法を考えながら、 「ヤン」 「はい?」 「良二さんを香港観光にお連れしようと思う」と言うと、ヤン、村上、そして坂口までもが「若い二人が仲がいいのは良いことですね」とにこやかな顔をしながらレイと良二を見た。  良二が、 「アイスでも食べましょうか?」  とニコニコと笑う。  作り笑いを浮かべたレイは、 「アイス...。いいですね」  と、香港の街中で車を下りた。 *  アマンダの愛車はゴツいホンダのSUVだ。黒いその車の後部座席に乗り込むと、良二もついてきた。車はビクトリア湾の南を抜けて下町へ向かう。 「子連れですか?」運転しながらアマンダが、バックミラーで良二をチラリと見ると、低く平坦な声で聞いてきた。 「まあな。で?」 「話していいんですか?」 「こいつのことは気にするな」 「墓に埋めるまではうまく行ったんですが、若い奴らが寝返りました」 「どういう意味だ?」苛立ってきたので、後ろから座席を蹴った。  アマンダがインド系独特の大きな二重で睨んでくる。「買ったばかりの新車なんですけど」 「どういう意味だと聞いてんだろ?」 「シャオ家が売春宿を持ってるんですけど、二人の坊やたちは、どうやらそこで働き出したようです」 「は?」  レイはうんざりして綺麗な目を閉じた。長いまつ毛が白い頬に影を落としてますます人形めいてくる。目を閉じたまま、 「ほっとけ」と言うと、 「あの坊やたちはミスター・ヤンの知人の紹介でうちの組織に入ったようです」 「だから?」 「ミスター・ヤンの耳に近いうちに入ります」 「⋯⋯ったく」  ヤンはグループの健全化に力を入れている。特に未成年の売春や薬には厳しかった。 「どうします?」 「おまえが行って、連れ戻してこい」 「女は入れません」 「どうして?」 「男同士専門の売春宿ですから」  アマンダが肩をすくめて、車を止めた。あたりは古いビル街で、シャオ家のシマ。巨大資本が入った開発の噂が長年あるがなかなか進まない地域だ。 「俺に行けと?」 「さあ⋯⋯。私は知りません」  この女、いつか殺す。そう思いながらレイは車を下りた。 「ここで待ちますか、ミスター・リー?」 「当たり前だろ!」 「面白い女性ですね」笑いならが良二もついてくる。 「おまえは消えろ、勝手に香港観光でもしてろ」 「男娼館か、へえ⋯⋯」  良二がビルを見上げた。  古いビルだった。隣のビルは壊れかけている。ドアの前にいたでかい男はレイの顔を見ると、さっと横に動いて青い顔をした。良二がドアを開けてレイを通した。中は薄暗く、得体の知れない甘い香りがしていた。一種の媚薬で、吸い込みすぎるとあれがエレクトする。レイは少々の毒には体が慣れていた。このぐらいの香りならレイにとっては無毒だ。だけど良二にはたぶん効く。 「あまり吸い込むな」 「なぜです?」 「さあな⋯⋯」  説明するのが面倒くさくなって肩をすくめた。顔見知りの下っ端が、「李家の若様、なにか御用ですか?」と慌てた様子で薄暗い廊下を走ってきた。 「うちの若いのが二人、ここで働き出しただろう? 連れてこい」 「誰のことか、ちょっとわかりませんが⋯⋯」 「俺もシャオも、事を大きくしたくないのは一緒だ。ガキどもを連れてきたら、すぐに帰る」 「⋯⋯わかりました」  レイとシャオは頻繁にもめていた。二人がめちゃくちゃな行動を取り続けて一番困るのは、こうした下っ端連中だった。若様たちのお遊びに付き合った挙句に命を失うなんて、誰もが嫌だろう。 「こいつらです」  下っ端が連れてきた二人は、まだ子供のような可愛い顔をしていた。派手な赤地の着物をだらしなく羽織っている。今まで客の相手をしていたのか、二人とも顔が火照っている。レイを見ると、オドオドとした表情で、 「俺たちここにいたいんです」  と呟いた。 「⋯⋯これでも一応、助けにきたつもりだが」  レイは眉を寄せた。 「ここの仕事、すっごく楽しいんです」 「売春だろ?」 「はい、めっちゃ楽しいです」ニコニコと笑う。 「へえ⋯⋯」 「お金いっぱいもらえて、すっごく気持ちいいことしてもらって。あの、俺、上手らしいです」 「俺も! 舌の動きがイイって⋯⋯」 「もう、いい」と白い手を振って止めた。小さくため息をついて、踵を返した。出口に向かおうとすると、良二が腕に手をかけてくる。 「どうした?」 「俺、ヤバいです」 「何が?」 「アレが破裂しそうなんです」  痛そうに顔を顰めて体を前に折った。 「ああ、なるほど」  どうやら香りが効いて股間が大変なことになっているらしい。 「そのへんで勝手にやってこい」と言うと、 「一人にしないでください」子供みたいな口調になって腕にしがみついてくる。  少年たちが笑いならがら、「この部屋、空いてます」と扉を開けた。「俺たち、お手伝いしましょうか? お兄さん、すっごいハンサム」と良二を部屋に連れて行こうとする。レイは止めた。 「おまえら、消えろ」  ため息をついて、良二と一緒に娼館の小部屋に入った。 *  いかにも娼館らしい部屋で、安っぽく派手な寝具に偽物のアンティーク家具。 「趣味が悪すぎる」  呟きならが、レイはエセ中華趣味の部屋を見回す。どこかに隠しカメラがあるはずだった。盗撮はシャオの趣味だ。カメラを探しながら、 「さっさと済ませろ」  と、良二に言う。  良二はベッドに座り、「⋯⋯ッ」と顔を顰めながらジッパーを下ろして自分自身を解放すると、大きく息を吐いた。飛び出すように龍の彫り物が描かれたペニスが現れる。レイは花瓶の後ろにカメラを見つけて、床に落として足で踏み壊した。 「何をしてるんですか、ミスター・リー?」 「カメラだよ。そんなことよりさっさと終わらせろ」 「手伝ってください」 「⋯⋯バカか」 「その方がはやいと思うんですけど」 「ふざけるな」と言いながら、壁にかかった絵画の横から小型カメラを取ると、これも下に落として足で踏んで割った。ポケットから飛び出しナイフを出し、カチリと押して鋭い刃先を出した。  レイは良二の隣に座った。大きく立ち上がっている龍の頭をナイフでそっと撫でた。 「怖いな」良二が呟く。 「だろ?」レイは冷たく笑った。 「あなたの白い手の方がいいな」 「こっちの方が面白い」 「萎えそうです」 「ウソ言え、先から透明の液が出てきた」  ナイフでそっと撫で上げると、良二のペニスがピクリと動いた。 「もういいです、自分でしますから」たまらなくなったのか、良二が手で擦り始めた。レイはナイフをくるくると回しながらじっと見つめた。 「気持ちいいか?」 「⋯⋯はい」 「イきそうか?」 「⋯⋯はい」  最後は激しく擦って、良二は果てた。龍が空に上がる瞬間のように、大きなペニスがビクビクと動く。見惚れてじっと、レイは見つめ続けた。白い液体が飛び出して、レイの頬に飛ぶ。 「ざけんな⋯⋯」  と、眉をしかめた。レイの滑らかな頬を滑り落ちて、赤い唇に白く粘った液体が垂れ落ちる。 「ざけんな、殺す⋯⋯」  呟いて、レイは舌で良二の精液を舐め取り、ふと、  ——これが恋か?  と思った。 『恋する惑星』 終わり ※大幅加筆で電子書籍化しました! Amazonで『恋する惑星・仁科カレン』で検索して頂けたら嬉しいです!!   この後の展開は、レイが誘拐されて強姦されたり色々とハードなシーンもあり、ふたりのキュンキュンあり、ドキドキシリアスもあり!そして涙のハピエンです!!  もしよかったら読んでみてください!!

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