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第32話

帰宅して、制服から部屋着に着替え、キッチンへ。 「・・・よし、作るぞ!」 「おー」 お揃いの部屋着を着てエプロンをしたカイも、気合いの合いの手を入れてくる。 そう、これからクリスマスケーキ作りに挑戦するのだ! カイを助手に、早速取り掛かろう。 「まずは薄力粉を計量して、ふるっておきます。助手のカイくん、卵とグラニュー糖を湯煎しながらかき混ぜてください」 「はい、璃都(りと)先生」 「それをミキサーで混ぜます・・・もったりするまで・・・って、どれくらい?」 キッチンにあった料理本の中に、お菓子やケーキのレシピ本があったのでそれを見てるんだけど、もったり・・・とは? 「もうちょっと・・・あ、それくらいです璃都先生」 「よし。ではここに、先程ふるった薄力粉を加えながら、粉っぽさがなくなるまでヘラで混ぜ合わせます」 「璃都先生、こんな風に混ぜるといいですよ」 カイが俺の後ろに立ち、ボウルとヘラを持つ俺の手に自分の手を重ねて動かしてみせた。 なるほど・・・。 「・・・こう?」 「うん、上手」 ・・・どっちが先生だかわからなくなってきたな。 完璧オオカミはケーキも作った事あるのか、頼りになる。 「全部混ざったかな」 「バターと蜂蜜を溶かしておきました。ここにその生地を少し加えて、混ぜてください璃都先生」 「はぁい」 生地と蜂蜜バターが混ざったら、それを生地のボウルに入れて、ムラがなくなるまで混ぜる。 「型は準備しておきました」 「ありがとうカイくん。優秀な助手を持って先生は鼻が高いです」 「後でご褒美くださいね」 丸いケーキ型に生地を流し入れ、予熱しておいたオーブンへ。 「えっと・・・25分焼きます」 「その間はなにをしますか?」 「えー・・・っと、あ、苺の下拵(したごし)えをします!」 上に乗せる苺はヘタをとって洗い、中に入れる分はヘタをとって洗ってから、スライスする。 「苺スライスするの、難しい・・・」 「怪我しないでね」 苺を時々つまみ食いしながらスライスし終わる頃、スポンジが焼き上がった。 型から出しながらケーキクーラーの上に乗せて、粗熱を取っておく。 「さあ次は生クリームですっ」 「璃都先生、生クリームにグラニュー糖を加えました」 「ではミキサーしますっ」 レシピ本によると、7分立てってなってるけど・・・それって・・・。 「もうちょっと・・・うん、それくらいかな」 「完璧オオカミは7分立てもわかるんだね」 粗熱の取れたスポンジをカイがスライスして、パレットナイフを使って俺がクリームを薄く塗る。 クリームの上に2人でスライスした苺を敷き詰めて、その上にまたクリームを塗る。 スポンジを重ねて、また同じ工程を繰り返し、更にスポンジを重ねる。 「後は全体にクリームを薄く塗ってから、ナッペしますっ!」 「それがやりたかったんだね」 そう、ナッペやってみたかったの。 パティシエがやってるのテレビで見て、カッコイイなって思って。 「ぉ・・・思ってたより・・・難しい・・・」 「ふふ、上手に出来てるよ」 「もっと綺麗に平らにしたいのにぃ・・・」 「初めてでここまで出来れば才能アリだと思うんだけど・・・璃都は本当に完璧主義だね」 ・・・まあ、手作りだし、こんなもんか。 残りのクリームを絞り袋に入れ、デコレーションに取り掛かる。 縁取るようにクリームを絞っていって、真ん中は苺をたっぷり敷き詰めて・・・。 「璃都先生、仕上げにこちらを」 「うむ・・・って、これどうしたの?可愛い!」 チョコプレートにコルネでMerryChristmasってカイが書いてくれてたのは見てたんだけど、それとは別にオオカミと赤ずきんの人形が。 「これもカイが・・・?」 「さすがにこれは・・・知り合いのパティシエに頼んでおいたんだ。チョコで出来てるから食べられるよ」 「カイの交友関係広いよね」 チョコプレートとチョコ人形を飾り、初めて作ったクリスマスケーキが完成。 上出来・・・! スマホで写真を撮る・・・玲央(れお)に見せよう。 ケーキは夕食後に食べるので、カイがケーキカバーをして冷蔵庫にいれてくれてた。 「ちょっと休憩してから、夕食を作ろうか」 「うんっ」 余ったクリームを舐めてたらカイにスマホで盗撮され、使った調理器具を洗ってから、紅茶を淹れて一息つく。 「夕飯のメニューは?」 「ビーフシチュー、シュリンプトースト、ほうれん草と卵のココット」 「じゃ、次は俺が助手役ですね、カイザル先生!」 「ふふ。よろしくね、璃都くん」 ─────── 「・・・お腹・・・いっぱい・・・」 「璃都、いつもよりたくさん食べたね」 2人で作った夕食とケーキ。 美味しく出来てて、嬉しくて、ちょっと食べ過ぎた。 「地下(した)で映画でも観る?」 「んー・・・連れてってくれるなら」 カイに向かって両手を伸ばす。 この頃、抱っこのおねだりを抵抗なく、と言うか頻繁にしてしまってる気がする。 脚が(なま)るし、仕事してきてカイだって疲れてるのにって思うんだけど・・・。 「ふふ、可愛い。いくらでも抱っこしてあげる。このまま一生俺に抱っこされていればいいのに」 カイは抱っこのおねだりされるのが好きみたい。 ・・・俺も、意外と抱っこは嫌いじゃないし。 それからシアタールームで話題のSF超大作を見て、お風呂に入る事にした。 「うゎ・・・いつの間に?」 「ふふ、気に入った?」 バスタブに、いい香りの花びらとキャンドルが浮かべてある。 セレブ感凄い・・・。 洗いっこして、ゆっくりお湯に浸かって、カイを背もたれにまったりしながら、お風呂から出てどうしようか考える。 ・・・リボン、5mで買わされちゃったけど、切っていいのかな。 それとも、そのままぐるぐる巻いてみる? うーん・・・。 「璃都」 「なあに?」 「この後、くれるんだよね?」 「・・・な、なにを?」 振り返ってカイの顔を(うかが)うと、満面の笑み。 ・・・完全に期待されている。 「・・・まあ、リボンも、買いましたし・・・上手に結べるかわかんないけど・・・」 「リボンは切らずに巻いてね」 「・・・ゎかった」 やっぱり、俺からのプレゼントが俺だって事、バレてるな・・・。 お風呂を出て、身体を拭き、部屋着ではなくバスローブを着せられた。 ・・・服は、着るなという事ですかね。 「み、見ないで、ベッド(そこ)で待ってて」 「はい、大人しく待ってます」 ウォークインクローゼットに入り、バスローブを脱いで、チェストの上に置いておいたリボンを手に取る。 ・・・とりあえず、頭とか首とか肩とか、ぐるぐるゆるく巻いて・・・最後に首のあたりで蝶々結びにして・・・と。 「・・・俺、なにやってんだろ・・・恥ずかしぃ・・・」 鏡に映った自分の姿に狼狽しつつ、カイが喜ぶなら、日頃の感謝を伝えられるなら、と覚悟を決めクローゼットを出た。 「・・・か、カイ・・・その・・・」 「────っぐ」 素肌にリボンだけの俺を見て、カイが口元を抑えて唸った。 ・・・やば、恐い。 「・・・はぁ、・・・おいで、璃都」 頭の中ではビービー警報が鳴ってるけど、おいでと言われると身体が勝手にカイの傍に行ってしまう。 「ぁの、い、いつも、ありがと。俺が・・・クリスマス、プレゼント、です・・・」 「好きにしていいの?」 「・・・え?す、好きに・・・?」 「璃都は俺へのプレゼントだから、俺の好きにしていいんだよね?喰い尽くしていいんだよね?」 俺の手を掴むカイの手から、絶対に逃さないって圧を感じる。 ・・・もう、俺に拒否権ないんだから、聞くなよ。 「・・・ぃいよ、カイの好きに、して」 そう言った瞬間、ぐっと引き寄せられキツく抱きしめられながら、首にオオカミの牙が喰い込むのを感じた。

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