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第31話
今日は12月24日、クリスマスイブ。
先週末はりっくんと玲央 と温泉旅行に行ったし、クリスマスは家でゆっくり過ごそうって事になった。
火曜なので普通に学校へ来てるけど、授業中もあまり集中出来ない。
・・・だって、俺、カイにプレゼント用意出来てないし。
至れり尽くせりな日々を送らせてもらっている感謝も込めて、なにか贈りたい。
・・・けど。
「完璧オオカミ獣人になにを贈れば・・・」
だめだ、数ヶ月前まで一般庶民だった俺には思いつかない。
しかも誰かにプレゼントを用意するなんて初めてだし。
「こーなったら、頼ろう、先輩に」
休み時間に玲央へ「相談したい」とメッセを送る。
すぐに「電話する?」と返事が来たので「12時から昼休みだから電話していい?」と返した。
玲央からは、可愛いオオカミがOKと書いた看板を持ったスタンプが送られて来る。
・・・このスタンプ、俺も欲しいな。
今日の昼はランチミーティングがあるからと言って、お弁当を作ってくれたカイ。
手作りのお弁当・・・嬉しい・・・。
気も漫 ろながらなんとか3限を終え、お弁当を食べる前に人気 のない場所を探しに行く。
他の生徒たちは教室や学食、購買に居るので、体育館へ続くピロティは無人だった。
ここでいいかな。
「・・・もしもし、玲央?」
『どうしたちょりと、カイザルさんに虐められて泣いてるのか?』
いきなり揶揄 われた。
「違うよ。ちょっと、聞きたい事あって・・・」
『なに?』
「あ、あの、玲央はさ、クリスマスに、りっくんにプレゼントとか、する?」
『まあ、一応するけど』
ですよね。
「なに、あげるの?」
『ああ、カイザルさんへのクリプレで悩んでんのか』
「・・・そーです。で、なにあげるの?」
『俺は毎年同じモンあげてるよ。璃都 もそれがいいと思う』
「毎年同じ?それって、なに?」
俺、これから買いに行くつもりなんだけど、すぐ手に入る物かな・・・。
今日は午前中授業で、午後は終業式だけだから、カイが迎えに来た時に買い物に連れてってもらうつもりなんだけど。
『リボン』
「・・・え、りぼん?」
リボンって、あのリボン?
なんで・・・?
『リボン買って、自分の首にかければ完成』
「・・・・・・はい?」
え、ちょっと待って、それって・・・。
『俺がプレゼント』
「いや無理!」
そんなの恥ずかし過ぎるし、ナニされるか容易に想像出来て嫌だ!
『明日も学校か?』
「・・・いや、この後終業式で明日から冬休み」
『じゃあ問題ないな。頑張れ』
「もっと他になんかないの?」
『ないよ。カイザルさんが一番欲しがってて喜ぶモノって言ったらちょりと一択だろ。番が首にリボン付けて好きにしてって言うだけで、全財産擲 つぞ』
「そんな馬鹿な・・・」
別に全財産はいらない。
『ちょりと、言っただろ、カイザルさんの言葉は真っ直ぐ聞けって』
カイの言葉を真っ直ぐ・・・。
確かに「俺には璃都が全て」とか言ってるけど、だからって・・・。
『どーせヤるんだし、喜ばせてやれよ。あと、誕プレもこれな。ちょりとはコスプレしても似合いそうだし、更に喜ばれそうだな』
「玲央もコスプレとかすんの?」
『するよ。喜んでくれるからな』
「えっ?」
意外・・・玲央がりっくんのためにコスプレするなんて・・・。
・・・でも・・・そっか。
カイが、喜んでくれるなら、俺も・・・。
「コスプレはしない、けど・・・リボン、買ってみる」
『そうしろ。お互い、明日生きてるといいな』
「不安を煽らないで・・・」
玲央にアドバイスのお礼を言って電話を切る。
とぼとぼと教室に戻りながら、ふと思い出した。
カイが作ってくれたお弁当。
朝から楽しみにしてたんだった。
教室に戻ると、クラスメイトが驚いた顔をして声をかけてくる。
「ルプスくん、今日は番とお昼一緒じゃないの?」
「珍しいな」
「うん、ランチミーティングあるんだって。お弁当持たされた」
「どこ行ってたんだ?」
「ちょっと電話しに・・・」
座席に座って鞄からお弁当を取り出し、包みを開く。
お弁当箱の蓋を開けると、見事なネコちゃん弁当だった。
シャケを混ぜ込んだご飯を海苔で巻いて黒ネコにしてあり、黄色が綺麗な卵焼き、魚の形のミニハンバーグ、ほうれん草とコーンのバター炒め、プチトマト・・・完璧なお弁当。
・・・それにしても、オオカミの癖にほんとネコ好きだな。
「すっごい可愛い!」
「それ、まさか番が作ってくれたの?」
「すげー、さすが獣人・・・料理も出来るんだな」
「はは・・・」
なんか、見られてると食べにくいんだけど・・・。
周囲の反応は鬱陶しいけど、お弁当は見た目だけでなく味も完璧だった。
・・・これ、早起きして、作ってくれてたんだよな。
「うん。リボン買って帰ろ」
コスプレは・・・ハロウィンにしたし、今回はなしで。
───────
「お帰り璃都」
「ただいまっ」
終業式を終え、迎えに来てたカイに飛び付く。
「ご機嫌だね。良い事あった?」
「お弁当が美味しかった!」
「ふふ、それは良かった」
車に乗り込み、カイにいつものようにシートベルトをしてもらいながら、頼まなきゃいけなかった事を思い出した。
「ねえ、ちょっと買い物行きたいんだけど」
「いいよ。何が欲しいの?」
「ちょっとね。えっと、手芸洋品店に行きたくて」
「手芸洋品店?シグマ、近くにあったか?」
「ご自宅とは逆方向ですが、5分程の所にございます」
良かった、リボン買えそう。
リボンなんて、わざわざ手芸洋品店なんて行かなくても買えるだろうけど、電話の後に玲央からメッセが来てて「リボンはシルク生地にしろ」と指示があったから。
店に着いて車から降りると、当然のようにカイが付いて来ようとした。
リボン買うの見られたら、何に使うのって聞かれそうで困るな・・・。
「すぐ済むから、車で待ってていいよ」
「璃都を独りでは行かせられない」
「えー・・・じゃあ何買うか、見ないで」
「難しい事言うね。で、何買うの?」
聞くんだ。
これ、言わないと買い物させてもらえないやつだな・・・。
「・・・リボン」
「リボン?」
「用途についての質問は受け付けません。その代わり、色を選ばせてあげます」
「いいの?何色にしようかなあ」
結局、カイに手を引かれて入店。
大きな専門店なので、リボンだけで凄い種類が置いてある。
「これは・・・悩む・・・」
「色はピンクがいいな・・・生地はシルク・・・シルクシフォンにしよう・・・この色は?・・・うん、璃都によく似合う・・・幅は38mmか50mm・・・38mmの方が可愛いね」
「まるで用途を知っているかのような選びっぷりだな」
これ、俺が着けるってバレてる気がする・・・。
しかも、すっごい嬉しそうに選ぶじゃん。
喜んで、くれそうで・・・良かった、と言うべきなんだろうか・・・。
「何m買うの?」
「え、1mもあればいいんじゃ・・・」
「念の為5m買っておこうか」
「いや、余るって」
首か頭に巻いて蝶々結びにでもしようと思ってただけなのに・・・。
あ、しかも勝手に会計しようとしてるし。
「待って、それは俺が買うの」
「いいの?」
「俺が使うんだから、いいのっ」
カイへのプレゼント・・・の一部なのに、カイに買ってもらったらだめじゃん。
あ、久しぶりに自分の財布からお金出したな・・・。
「ああ、楽しみだなあ・・・ねえ璃都、急いで帰ろう?」
「お、落ち着いてよ。リボン買っただけだよ。冬休みの宿題に使うとかだったらどーすんの?」
「暴れる」
「わかった、ごめん、ちゃんと期待に応えられるよう努力するから・・・」
うっきうきだったのに、スンって恐い顔になるのやめて・・・。
大丈夫、たぶんカイの予想は当たってるから・・・。
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