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第一話 船旅
一面の海原、そこに浮かぶ一艘の小さな帆船。それに乗るのは和服を着た青年2人と船を操る船頭1人。
白い髪の青年ハクは、キラキラ煌めく海面と睨めっこし項垂れていた。
そう船酔いだ。山育ちなものだから船など縁は無く、意気揚々と乗った結果がこれである。
その横で、黒に青や黄色いなどの色が混じった長い髪を海風に靡かせながら、アゲハという青年は心配そうにハクの背中をさすっていた。
「…くそっ、いつになったら着くんだよ」
「あともう少しで着くと思うんだけど…我慢できる?」
さすりながらハクの和服の袖が汚れない様にまくってやる。
ハクとアゲハは船に乗ってとある島へと赴こうとしていた。
そこは、願いを叶える神子がいるという噂の島だ。
2人にはある目的があり旅をしていた。
それは鬼になったアゲハを人間に戻す…というものである。
野盗に襲われたことをきっかけに鬼化し暴走したアゲハだが、今は落ち着いている。
鬼化と言っても、常に額に角が生えているわけではない。血を見ると角が生え暴走し人を襲う様になる。
暴走した時は、ハクが名前を呼べばなんとかアゲハは元に戻っている。
…しかし、最近は名前を呼んでも暴走から戻る時間が長くなっている。毎度名前を呼ぶ度に焦るハク。
そんな彼へと、元に戻ったアゲハは優しく笑い、大丈夫だと言ってくれる。
願いを叶えるという噂の神子ならアゲハの鬼化を解けるのではと、一縷の望みをかけ向かっている最中だ。
「白い兄ちゃん、大丈夫かい?顔が真っ青だぞ」
船に揺られていると、帆を操り船を操縦する船頭がハク達に声をかける。
「大丈夫に見えんのか…」
げっそりしながらも応えるハク。
そんなハクの口の悪さを気にする事なく船頭は言う。
「ハッハッハッ!大丈夫そうには見えねえな!
そういや、兄ちゃん達も神子様に願いを叶えてもらいに行くのかい?」
「はい、ちょっと叶えてほしいことがありまして…。やっぱり噂は本当なんですね。あの、僕たち以外にも願いを叶えてもらいにくる方は、多いんですか?」
ハクの背中をさすりながらアゲハは聞く。
「そうだなぁ、俺が船を出しただけでも30人くらいはいたんじゃないか?」
「そんなに。
皆さん、どんな願いを叶えてもらったんですかね」
「さあなあ。どうにもその島は居心地がいいらしくて、殆どの者は戻ってこねえのよ」
戻ってこない…という言葉にハクの胸に不信感が降りる。
しかし、アゲハは、居心地がいいとはどんな場所だろうかと想像しながら呑気に聞いている。
「どんな場所なんでしょう…!食べ物がいっぱいあるとか?」
ヨダレを垂らしながら言うアゲハに、ツッコミたいが気力がないハクはツッコむのを諦める。
船頭は話を続ける。
「俺は島の奥まで行ったことが無いから知らないが…戻ってきた者の話だと、もてなしが素晴らしくどうにも帰りたくなくなるってよ。まあ、そいつは金が欲しいって願いを叶えてもらったんで帰っていったらしいがな…」
そうこう話をしているうちに船は島へと近づいた。
少しばかりの胸騒ぎを感じつつも、ハクは船が桟橋に近づくのを見守る。
この島でアゲハの鬼化が無くなればいいと念じながら…。
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