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第五話 村の散策
夢から覚め目を見開くハク。すると目の前にはアゲハの顔があり、それに驚き飛び起きる
「っ…!!」
「痛っ…!!」
アゲハの額とぶつかり共に悶絶する。
「いたた…。ハクちゃん、急に飛び起きるからびっくりしたよ」
額を押さえながら言うアゲハに、ハクも同様に痛む額を押さえて言う。
「お前が近えのが悪いんだろ」
文句を言いつつ夢の内容を思い出す。先程の夢は実際に合った出来事が大半だが、後半に関して言えばハク自身の欲望が出たのだろうか。
夢の中で言いそうになった言葉の続きを思い顔が赤くなるハク。
「ほら、また赤くなってる。どこか具合悪い?」
「…別にどこも悪くねえよ」
「でも、さっきも起こそうとしたら顔が赤かったから、熱でもあるのかと思って。おでこをくっつけて確かめようとしたらぶつかっちゃたんだよ」
「そういうことかよ。別に熱はねえよ…気にすんな」
「それならいいけど…具合が悪かったらいつでも言ってね?」
「おう」
心配するアゲハに軽く返事をする。
夢の内容は絶対に言えない。…親友に恋をしてるだなんて誰が言えるだろうか。この思いは墓場まで持っていくと決めているハクは悟られない様に日々振る舞っている。
のんびりしたアゲハのことだから気づいてはいない様だが…。
「…で。何か用があったんじゃねえのか?」
気を取り直してハクは言う。
「あ、そうそう、ヨウさんが朝ごはんができたって。だからハクちゃんを起こしに来たんだ」
「なるほど…ま、起こそうとしてくれてありがとな。じゃあ行くか」
ハクは立ち上がり、アゲハと共にヨウじいのいる居間に向かった。
居間に入ると、そこには背の低い円卓の上の真ん中に粥の入った大きい土鍋が置いてあった。
「おはよう。白いのも起きたか」
「おはようさん。飯、作ってくれたらしいな」
「ただの白粥だがな。良ければ食っていけ」
「おう、腹減ってるから食わせてもらうわ」
ハクとアゲハはそれぞれ座布団に座り、置いてあった茶碗に粥を盛る。そして3人で手を合わせて食べ始めた。
粥を食べ終えた2人にヨウじいが聞く。
「お前さん達は神子様に会いに来たんだよな」
「ああ、神子に会えばパパッと叶えてくれるもんなのか?」
「いや、今暫くは会いに来る人が多くて神子様の手が空いてないそうでな。だが、今日の昼から願いの儀を行う様だから、見るだけでも見ていくといい」
「楽しみですね…!どういう風に叶えてくれるんでしょう?不思議な力で、えいや!とか?」
身振り手ぶりを交えて言うアゲハに、ハクは呆れる。同じく、ヨウじいも呆れているのか何も言わない
少しの間を置き、ヨウじいは2人に言う。
「まあ、願いの儀まで村を見て周るといい。そう珍しい物は無いが、食い物の屋台ぐらいはあるからな」
2人はヨウじいに礼を言い、村の市場へと行くことに決めた。
村の市場へと来た2人。連なる店先には野菜や果物、干し肉や魚まである。歩くには困らないが、人も多く賑わっている。
店によっては握り飯や弁当のご飯類、団子や和菓子などの菓子類も置いてあり、食べるのが好きなアゲハは目を輝かせている。
「いっぱいあるね…!どれも美味しそう!」
「さっき粥を食ったのにまだ食えるのかよ…」
少食な方であるハクは呆れて言う。
「うん!食べれるよ!どれにしようかな」
自信満々に言い、とある和菓子屋の前で止まるアゲハ。ハクも隣に並び、悩むアゲハを見守る。すると、ハクとアゲハを押し退け陣取る者が現れた。
「どけ、貧乏人!ワシが通れないでは無いか!」
ハクが不満気に見ると、そこには上等な着物を着た恰幅の良い年配の男がいた。
ハクが何かを言う前に、男はお付きの者らしい神経質そうな男に声をかけ、店の菓子を全て買うと言い出した。
「おい、じいさん。先に並んでたのはこっちだろ…!割り込むなよ!」
「なんだ?貧乏人風情がワシに意見するとは。ワシくらい金が払える様になってから吠えるんだな」
「なんだと…」
「ちょっとお客さん!喧嘩は困りますよ…!」
尚も言い返そうとしたハクを店の人間が止める。どうやら態度を見るに、この恰幅のいい男に逆らえない様だ。
アゲハも何か言いたげだったが、ハクに目配せしこの場は立ち去る事にした。
少し歩き和菓子屋を離れた。ハクは怒りが収まらない様で尚も文句を言っている。
「くそっ、何なんださっきのじいさん…!割り込んできやがって…!!」
「まあまあ、落ち着いてよハクちゃん。別にさっきのところじゃなくても、お店はあるんだし」
「ちっ…」
ハクはまだ文句を言いたかったが、アゲハが気にしていない様なので気持ちを沈めようとする。
すると…。
ポンポン
ハクは肩を後ろから軽く叩かれ振り向く。アゲハもなんだろうとそちらを向く。そこにはハクと同じ短い白髪の青年が立っていた。
「なんだ?あんた、何か用かよ」
「……!」
青年はパクパクと口を開き、両手を差し出す。その手には紙に包まれた一つの和菓子があった。
青年は尚も口を動かしているが声は聞こえない。彼は喋れない様だ。
青年は先程の菓子屋の方とハクの方を交互に見た。どうやら先程のやりとりを見ていたらしい。
「なんだ…くれるのか?でも、それはあんたのだろ?」
ハクの言葉に、構わないといった風な表情で首を振る青年。
「それならこいつに渡してやってくれ。食いたがってたのはこいつだしな」
青年はそう言われ、アゲハに向かって和菓子を差し出す。
「ありがとう。大事にいただくよ」
アゲハは優しく微笑み素直に受け取り、青年は満足気に笑いながら頷いた。
突然、遠くの方から誰かを呼ぶ声が聞こえた。
青年はその声に慌てだし、2人に手を振るとどこかへ行ってしまった。
「なんか慌ただしいな」
「でも、悪い人じゃなかったね。それに髪の毛が白かったせいか、雰囲気も何となくハクちゃんに似てたね」
「そうか?まあ、珍しい髪色だが…雰囲気は似てねえだろ」
アゲハとハクは貰った和菓子を半分こしながら、先程の不思議な青年の話をしたのだった。
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