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キャンプ再び

「俺また、キャンプに行ってみたいんだけどなー」  窓枠に肘をついて、空を眺めているのは人間の男。束ねられた髪は色素が薄く、獣耳のついた愛らしいフードを被っている。腰の辺りには箒のような尻尾が揺れており、子どもっぽさがありながらも本人の穏やかな気質とよく合っていた。  ケモ耳フードの男・苺は振り返るとさっきより大きめの声を出す。 「また、キャンプ行きたいなー」 「聞こえてる聞こえてる。二回言わなくても。見てこの大きな耳」  読書を中断し、自身の頭部を指差すのは二足歩行している狼。赤ずきんちゃんを丸呑みできそうな大きな口に、夜の体毛。頭部には狼の耳が生え、窮屈そうに人間の衣服をまとっている。  狼であり苺の彼氏、タクトはいちご型のしおりを挟んで本を置いた。  腰を上げると天井につきそうな背丈。尾を一度振ると、苺のベッドに腰を下ろした。苺は「待ってました」とばかりに、四つん這いで彼に近寄るとその逞しい腕に抱きつく。 「もしかして、『あっち』に帰りたくなったとか?」  狼の手が苺のフード内に差し込まれ、やさしく髪を梳く。  苺は首を振った。 「ううん。ここでの暮らしが幸せ過ぎて、未練とかないかな。でも『こっち』じゃキャンプはできないから」  抱きついたまま見上げると、タクトは顔を逸らした。尾が揺れているので照れているのかな……? 「え? こっちでもキャンプできるよ?」 「うーん。でも、タクト君以外の生き物に、慣れてないから。吸血鬼とか雪男さんとか。ま、まだちょっと怖いし……?」  タクト君の膝上に移動して彼の胸板に埋まるように抱きつく。この世界での、苺の安全地帯。「抱きしめて」と言わなくても、大きな腕が包み込んでくれる。愛情が枯渇していた苺は、ほうっと息をつく。冗談で「ここに住む」とか言ったら、一生膝から下ろしてもらえなさそう。 「ねえ。ダメ?」 「……キャンプ仲間ができるのは、俺としては嬉しいけど。うーん」 「何に悩んでるの? タクト君に迷惑かけたいわけじゃないから、言ってくれれば……」  手のひらを顔に添えられ、肉球にキスしてしまう。黙れという意味なのだろう。  グレーブルーの瞳が苦笑している。 「ベリちゃんが迷惑とかないから。むしろ迷惑かけてほしい」  苺……あだ名がベリ男なので、タクト君からはベリちゃんと呼ばれている。このあだ名つけたの誰だったかな。覚えてないな。  苺はぱちくりと瞬きした。 「迷惑かけてほしいって何? 俺、我が儘言ってると思うんだけど」 「だって。迷惑と対極の位置にいるような性格のベリちゃんに迷惑かけられたら、ときめいちゃう」  ぽっと頬を赤らめている。 「……」  この狼のことは好きだが、たまに何言ってるのかよく分からない。 「タクト君とのキャンプ、楽しかったんだ。ほら俺、友達いないし。あんな体験……」 「そんな暗い目をしないで」 「それにー。急にタクト君がもふもふになったから、最後までキャンプできなかったじゃん? 責任取ってよ」 「可愛いなぁ……。……ハッ! ごめん!」  頭を掴むとタクト君はぷるるるると首を振って怯えた。こんなに大きいのに。苺の何が怖いのか。  そんな可愛い彼に和んでいると、ふかふかの毛で頬ずりされる。 「俺が悩んでるのは、ベリちゃんを外に出したくないなーってとこ」 「?」  人間がこっちの世界に来ると、地球上の生物からその人の記憶は消えてしまうらしい。でも戻ると記憶も戻るという。 (記憶が消えたり戻ったりしちゃうから、かな? 変な影響を与えないようにしているとか……) 「ベリちゃんを外に出したくない! 他のオスの視界に入れたくない! 独り占めしておきたい!」  真面目に悩んだのが馬鹿みたいなんですけど。 「えい。ほっぺ引っ張ってやる」 「ひゃ? にゃんでぇ?」  黒い毛をわしゃわしゃかき混ぜ、ふう満足とベッドの方に座ろうとしたが、膝から下ろしてもらえなかった。しっかり腕で抱きしめられる。 「俺はタクト君を自慢したいけどな。『見て。俺のかっこいい彼氏』みたいにさ」 「……あんまりそういうこと仰ると、加減が。難しくなるんですけど」 「なんで敬語?」  狼の指が太ももを撫でてくる。苺は恥ずかしいような嬉しいような顔で下唇を噛んだ。 「もお。こんな朝から。えっち」  睨んでやると、タクト君が胸を押さえて倒れ込んだ。 「タクト君⁉ ちょ……ミキ君! マキちゃーん」 「俺のクイーンがえっち過ぎる」 「こっちでクイーンとか言わないで。何が? 睨んだだけじゃん」  苺の横を歩くのは、人間にしか見えない男性。スポーツでもしていそうな短髪黒髪に、体操選手のように鍛えられた肉体。背は高いが情けな~いオーラを放っているため圧迫感はない。通り過ぎる人がちらちらと見て行くので、苺は満足げに口角を上げた。「見て。俺のかっこいい彼氏」状態である。  苺と人間形態のタクトは冬服に身を包んでいる。  苺の上着のフードにはケモ耳がついていて可愛い。可愛いが百七十以上ある自分が着るのは抵抗があった。  抗議したのだが…… 『こっちではともかく、あっちでケモ耳フードは勘弁して! タクト君もしばらく地球暮らししていたんだし、分かるでしょ?』 『なんで? 可愛過ぎるから? ベリちゃん自体が可愛いんだし、諦めなよ』  話と心は通じなかった。おかしいな。俺たち、仲良いはずなのに。  タクトは黒いファーのついた上着を一枚羽織っているだけだ。寒さに強い彼はマフラーとか手袋とか邪魔らしい。  苺は小声で話す。 「人間の姿だけど、寒くない?」 「寒いって言ったら抱きついてくれるの?」  左右に揺れる尾の幻覚が見える。何を可愛いこと言ってるの。俺の彼氏は。 「……二人っきりになったら、ね?」  意味ありげに上目遣いをすると、タクト君はやわらかくほほ笑む。ただその両足は小鹿の如く震えていた。 「寒いの⁉」 「ベリちゃんが魔性で辛い」  苺たちが到着したのは初心者のためのキャンプ場。  道具や食材が揃っているため手ぶらでOK。しかも夜は施設内で眠ることもできる。 「また、狼たちが占領してたりしない?」 「……」 「こっち向こう。タクト君」 「あ、ごめん。あいつがいたから」  珍しくタクトが険しい顔をしており、彼の視線を追う。そこには黒髪を一つに束ねた男がいた。タクトや苺とは違う種類の美形であり、気難しそうな表情をしている。  人間に混じっている狼たちより、存在感が違う。  こそっと尋ねる。 「知り合い?」 「俺のお幼馴染」 「!」  タクトと王の座をかけて争っている相手だ。ということは狼男で、タクトと同じくらいの強さと言うことになる。  タクトの手を握ると、彼は安心させるように握り返してくれた。 「大丈夫。人間に手を出すような男じゃないから」  彼の優しさにホッとする場面のはずなのに、苺の口から無機質な「は?」が出そうだった。ち、違うのだ。「彼をよく知ってる」みたいな言い方に、つい悔しいというか、嫉妬というか…… (お、俺だって。タクト君のこと……。詳しく、なっていくんだし!)  タクトが知れば膝から倒れそうな嫉妬に身を焦がしていると、タクトの幼馴染が近づいてきた。  タクトは苺を庇うように一歩前に出る。 「ハガネ。お前もこっちに来てたんだね」 「……その人間は?」  タクトの幼馴染・ハガネは目を滑らし、苺を見つめる。 「俺の。お前だから視界に入れることは許すけど、触れるなよ」  聞いたことのないタクトの低い声に、苺は彼の横顔に魅入ってしまう。  視力が良くないのか、ハガネは見えづらそうに目を細める。 「男に見えるが?」 「男だよ。可愛いけど」  やめて恥ずかしい。  ぽこんと彼の背中を小突いておく。  ハガネはどこか驚いたようにタクトの顔を見る。 「お前は男でも平気なのか?」 「あれ? 言ってないっけ? 俺の母ちゃんを見れば分かると思って」  タクトの母親は、複数の「嫁さん」を持つイケメン女性だ。同性を好きになってもおかしくない血筋だと笑ってたっけ。 「……そう、なのか」 (ハガネ、さん?)  苺は首を傾げる。なんだかよろけた彼が絶望したように見えたからだ。  ハガネは二人の横を通り過ぎる。 「お前たちの邪魔はしない」  それだけを言って森の方へふらふらと歩いていく。  タクトは「具合悪いのか?」と不思議そうにしていたが、苺には分かってしまった。 (ハ、ハガネさん。もしかしてタクト君のこと――)  理解してしまった。だって自分と、苺と同じ目をしていたから。タクトを好きなひとがする目を。  あれは苺だ。タクトに、選ばれなかった苺。 「……」  その背を凝視していると、タクトはハガネと苺を交互に見てくる。  ひょいっと苺を抱き上げた。 「ベリちゃん? まさかとは思うけど、あいつに見惚れてな――」  少しムッとしたタクトだが、苺の顔は真っ青だった。唇もわなわなと震えていた。 「ひえっ⁉ どうしたの? あ、大丈夫だよ。あいつ、顔怖いけど、優しいんだ。誤解されやすいだけで。怖がらなくて大丈夫だよ」  抱きしめてくれる。  この優しさを独り占めできるのは。選んでもらえたのは自分なのに。  苺の性格上、ちっとも喜べなかった。  苺は清流を見ながら膝を抱えていた。タクトは心配したようにその隣に座り、背を摩ってくれている。  せっかくキャンプ場にきたのに、ひたすら川の流れを見つめている。  タクトは苺がいればどんな場所でも天国なのか、急かしてもこなければ無理に聞き出そうともしてこない。  そのあたたかさにもたれかかる。 「ごめん。キャンプに行きたいって我が儘言ったのは俺なのに」 「そんなことより、ベリちゃんに笑顔がない方が問題だよ。大丈夫。こっちでもあっちでも、ベリちゃんは俺が守ったげる。こう見えて、俺って強いんだよー」  場を明るくするようにえっへんと胸を張る。  彼の服を握りしめた。 「……うん。俺だって。タクト君は、俺が守るよ。誰にも渡さない」 「べ、べ、ベリちゃん? なぜ男前な台詞を……。いや、ベリちゃんは、中身は男前なのは知ってるけど」  なんだかタクトの心臓の音がやけに大きく聞こえる。  その音に耳を傾けていると落ち着いてきた。 「タクト君と一緒にいると、安心するな」 「お、おう? そ、そうかな? う、嬉しいや」  目を泳がせまくっている。  くすっと笑う。 (かわいい)  膝立ちになると、両手でタクトの顔を挟み込んだ。 「へ?」  むぎゅっと頬が潰れた彼の顔を自分の方へ向けさせる。  唇を重ねた。  他に人もいるのですぐに離したが。 「べ、ベリちゃん?」 「タクト君だって可愛いじゃん」  ぷいっと顔を背ける。  タクトは何が起こったのか分からない様子であたふた挙動不審になっていた。  それはそうと、人間形態タクトは自分と同じ形をしているので物凄くキスしやすい。  複雑な心境になったが、苺はタクトを諦めたり譲ったりする気持ちはなかった。 「お肉焼いていくよ~」  満面の笑みのタクトが網にお肉を乗っけていく。  ジュウウッといい音がする。 「今回は、す、ミニフライパン使わないの?」 「スキレット? ああうん。そうだよ。ここはバーベキューセットがあるからね」  そうだ。スキレットだ。俺が一生名前覚えられないミニフライパン。 「タクト君の手作りのキャンプ飯じゃないんだ」 「……」  タクトの手が止まる。  言ってから、ハッと自分の迂闊さに気づく。  慌てて言い募った。 「バーベキューが嫌なんじゃないよ? タクト君の……手料理っていうか……。ごめん。変なこと言って。お肉焼いてもらってるのに」 「最近、ベリちゃんが心臓殴ってくる」 「どういうこと⁉」  そんな妙な場所を殴った覚えはない。  苺はタクトの顔を覗き込む。 「怒った?」 「何に? いやいや……。俺の手作りの方が良いとか言われたら、さ。に、にやける、口が」  顔を見ると確かににやけている。可愛いなぁ。 「缶詰とか使って、手際よく調理してる姿がかっこよかったんだ」 「あんまし褒めないで。震える、手が」 「なんでだよ」  肉を焼こうとするタクトの手がガクガク震えている。おかげで肉が左右に揺れまくっていた。 「タクト君はよく俺のこと褒めてくれるくせに」 「俺はいいの。でも、ベリちゃんから褒められると、動悸息切れが」  苺は不安になって席を立った。のんきに見学している場合ではない、と。 「俺が肉焼こうか?」 「あ、大丈夫っす」  小学生カップルに化けたミキマキたちがほほ笑ましそうに眺めてくる。彼らもバーベキューを楽しんでいる。  トングで、焼けた肉やとうもろこしを紙皿に置いてくれた。  苺はにっこりと微笑む。 「ありがとう。タクト君」 「はぁー。お肉焼いただけでこんなすてきな笑顔見せてくれるんだもんなぁー」 「……ちょ」  そんな初日の出見たような声で言わないで。  苺のように赤くなり目を逸らす。 「どんどん食べてね」  タクト君の笑顔に圧がある。もしかして俺の髪の毛(幼少期の栄養不足)のことを気にしてくれているんだろうか。  そうだとしたら、嬉しいな。 「タクト君、焼きっぱなしだと大変でしょ? 交代しようよ」  トングを奪おうとするも、手を頭上に掲げられると届かなくなる。 「寄こせ」 「やだ」 「なんで?」 「ベリちゃんの食べてる姿がかわっ……っ俺の焼いたお肉食べてほしいからです」 「んもぉ」  割り箸でお肉を掴み、ふうふうと息を吹きかける。  ぱくっと一口。  それをやり遂げたような顔で見ている彼氏。 「わあ。美味しい」 「よかった」 「タクト君って働き者だよね」 「家だと未オス(未成年のオスたち)に任せっきりだからな。でもあれも、あいつらの仕事だから奪うわけにもいかないし。ベリちゃんにいいところ見せられないなぁ」  考え事をしながらも手はテキパキと動いている。  煙すごいけどいい香りだ。 「んふふっ。タクト君とまたこうして、キャンプに来られて嬉しい。定期的にキャンプしようよ」  タクトはぶんぶんと尾を振るが、 「『あっち』でしない?」  こちらはお気に召さない様子。 「タクト君。『こっち』嫌いなの? もしかして」  焼けた肉を紙皿に山積みしていく。食べさせようとする気持ちは嬉しいんだが、こんなに食べられないのであとで「あーん」してあげよう。 「ベリちゃんはまあ、絶対気付いてないだろうけど。外歩くたびに人間たちが、俺のベリちゃんを見てくるのが嫌なんだよ。一人ずつぶん投げたくなる」  そいつは大変だ。 「あっちだったらさ。俺みたいに人間に興味ある個体以外は、人間に関心ないから。まだ安心できる」  俺ってそんなに見られてるのかなぁ? フード被ってるんだけど。ケモ耳フードが目立つだけじゃないのか? と言おうとしたが、グレーブルーの瞳は苺をしっかりと映していた。 「あっちでもキャンプできるの?」 「もちろん。キャンプセット一通りあるし。吸血鬼やらが怖いなら、俺の縄張り内ですればいいよ」 「そうだったんだ。あっちに地球の道具は無いのかと勝手に思ってた」 「……。そ、それは。ベリちゃんを閉じ込めてた俺が悪いんですけど。一応、あっちも地球だからね?」  幻覚耳を「くぅん」と伏せる男の頭を撫でる。 「落ち込まないでよ。あっちの方が星空きれいだし。タクト君が落ち着くなら縄張り? 内でやろうよ」 「うんっ」  ピンと耳が立つ。「やったぞ。もっとベリちゃんを独り占めできる」と独占欲丸出しの独り言が聞こえた。    ようやく「テント内にて寝袋で寝る」を達成できた苺は、帰る前に少しぶらついていた。  顔だけ出して寝る、というのは不思議な感覚なんだろうなと思っていたが、ベッドで眠るときも頭だけ出して寝てるな気づいてしまう。寝袋は予想より温かく、テント内はランタンの明かりのみ。隣で爆睡している彼氏の寝息を聞いているうちに朝になった。  上機嫌な苺に、護衛のようにタクトがついてくる。 「ベリちゃん。何か買うの? もう帰らない?」 「マクード(ファストフード店)の冬季限定を。向こうに帰る前に食べておきたくって……。え、なんか、急いで帰らないといけないの? 門限とかあった?」  車道側を歩いていたタクトが手を握ってくる。「人前で……」と思ったが、記憶が消えることを思い出し、苺も握り返した。 「いや。あっちに通じるゲートは通れる場所と時間が決まってるから。いまならすんなり帰れるよーって、思って」  苺はんがっと口を開ける。 「そ、そうなの? いつでも自由に……って思ってた」  タクトは苦笑して頬を掻く。 「いまあっちは王が決まっていなくて、不安定だからね。電車の時刻表みたいに決まった時間しか潜れなくって」 「王様がいると安定するの?」 「王ってただの称号じゃないんだ。あっちの世界限定で、かなり干渉できる。ゲートの設定も好きに出来るよ。ベリちゃんだけ通さない、とかね」 「今なんか怖いこと言ったね?」  やれやれと、タクトの腕に抱きつく。制服を着た学生たちがきゃあきゃあとはしゃいで通り過ぎて行った。制服が懐かしく感じる。  抱きつかれていない方の手で、タクトが苺の頬を撫でた。愛おしむように。通勤途中のサラリーマンが驚いた顔で見てくる。 「ベリちゃん。マクード行きたいの?」 「ハンバーガーを、人生で一度も食べたことがなくって。一回くらい……」 「俺がなんでも買ってあげるよ」  財布を取り出し、涙を拭っている。 「でもゲートの時間が。いいの?」 「田舎のバスみたいに一日一本とかじゃないから。それよりベリちゃんにハンバーガーを食べさせてあげたい! あんなに美味しいのに食べたことないなんて」  ぐいぐいと、大型犬の散歩のように引っ張って行かれる。 (タクト君。俺に何か食べさせようとする熱意がすごいな)  彼のおかげで、結構肉がついてきたと思うんだけど(当社比)。  会社に向かう車が多いなか、苺は不審なトラックが目についた。 「は……」  青信号の横断歩道。渡っている人が多いのに、近づいてくるトラックはまったく速度を落とさない。 「え」 「なんかやばくない?」  周囲の人もそれに気づく。  苺の目がトラックの運転席に向けられる。運転手はハンドルに突っ伏すように倒れていた。 「ベリちゃん?」  彼の手を振り払って駆け出す。  横断歩道では、ランドセルを背負った小学生が早く渡り切ろうと早歩きしている。  トラックは速度を上げたままそれに突っ込んだ。  オフィスビルの窓ガラスが震えるほどの音が響き、赤い飛沫が舞う。

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