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永遠の別れ4
「千景くん。この子、本当に愛想ないし可愛げもなくてごめんなさいね」
「いいえ、そんなこと」
千景と話していると母さんが横から口を挟んできた。
愛想がないんじゃなくて人によって使い分けているだけだし、可愛げなんて三十路の男に必要ないだろうと思う。思うけれど、言うと面倒くさいから口をつぐむ。
「本当に千景くんは良い子ね。陸なんかにはもったいないくらい」
「そんな。それに、陸さんは優しいですし」
「そんなこと言うとつけあがるからハッキリ言っちゃっていいのよ?」
「いえ、ほんとに。子供の頃から小さい僕の相手をしてくれましたし、今だってコーヒー持って来てくれたし」
小さい頃遊んでいたことを覚えていたのか。別に優しいから相手をしてたわけじゃない。俺自身子供だったから大人の中にいるよりも子供同士で遊んでいた方が楽しいから遊んでいただけだ。それでも千景には、そんな風に映っていたんだな。
「そう? 千景くんにとって嫌な相手ではない?」
「嫌だなんて、そんな」
「それなら良かったわ」
そう言って母さんは笑う。千景は母さんのお気に入りだ。どちらかというと大人しい方だが、言いたいことはハッキリという。そして物腰が柔らかいので可愛いのだろう。千景のそういうところは友子さんに似ている。
そう母さんと千景が話しているのを皆が目を細めて見ている。皆の中では千景は可愛いのだろう。千景は目上の人に好かれるタイプだ。俺だって婚約者なんかじゃなければこんなにつっけんどんにしたりしない。多分。物心ついた頃には既に婚約者と言われていたからよくわからないけれど。
「でも千景くんが息子になるなんて嬉しいわ。駿はまだしも陸なんて可愛げないもの。その点千景くんは穏やかで優しいし」
べた褒めだ。
可愛げがなくて悪かったな。そう心の中で突っ込む。口に出したら面倒だから言わないけれど。それにしても母さんは昔から千景のことを可愛がっていたから義理とはいえ息子になるのが嬉しいのだろう。
「こんな子だけど、よろしくね」
「いえ。僕の方こそよろしくお願いします」
「今から結婚式が楽しみだわ」
まるで自分が結婚するかのようだ。なんなら父さんと離婚して母さんが千景と結婚すればいい。そう思うのは何度目だろう。いい加減嫌になって、バレないように小さくため息をつく。でも、それが友子さんに気づかれていたようだ。友子さんは母さんに聞こえないように小さな声で言ってきた。
「あの子、男なのにちょっと大人しすぎるかなって思ってるの。だからお相手が陸くんみたいにハッキリした人で良かったわ」
「大丈夫ですよ。必要なときにはきちんと言ってるから」
「そうかしら。ならいいんだけど。でも、ほんとにお相手がよく知っている陸くんで良かったって安心しているのよ」
友子さんは笑顔でそう言うけれど、もし俺が家を捨てて出て行ったらどうするのだろう。俺以外の相手を探して千景の相手にするのだろうか。それとも自由恋愛を許すのだろうか。それが少し気になったけど、まさかそんなこと訊けるわけもなくて。友子さんのことは好きだけど、この結婚に関しては友子さんを悲しませることになるかもしれない。それは申し訳ないなと思いながら笑顔を作った。
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