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永遠の別れ3

「明けましておめでとうございます」  新年3日。婚約者家族が新年の挨拶に来た。兄さんと義姉さんを含めた俺の家族5人と婚約者家族3人の計8人もいると32畳もの広さがあるリビングも広くは感じない。  俺の婚約者は、愛想もよく和やかに母さんに挨拶をし、母さんは機嫌が良さそうだ。とはいえ俺も友子さんと友子さんの旦那さんである純一さんにはきちんと挨拶をする。許嫁云々を抜きにすれば友子さんも純一さんも俺は好きだ。特に友子さんは母さんと違って比較的大人しい、お淑やかと言える人で好感が持てる。純一さんはサラリーマンではあるものの、某大手ドイツ系企業の専務取締役をしているので成功していると言える。それでも穏やかでやはり好感が持てる。婚約者である千景は小さい頃は遊び相手になった記憶がある。もっとも千景が覚えているかわからないけれど。  ほんとに友子さん家族は俺は好感を持っているから千景が許嫁なんかでなければいいのにと思う。俺と千景が婚約者になったのは母さんが友子さんに話したんだろうけど、なんで友子さんも了承しちゃったかな。友子さんも母さんみたいに家柄が、とか言う人なんだろうか。友子さんがNOと言ってくれたら千景との婚約もなくなりそうなのにな、なんて考えてしまう。  いや、でも母さんのことだからもし友子さんがNOと言ったら学校のOB会から探すんだろうなと思う。兄さんの結婚がそうだ。義姉さんは学校の女子科の卒業生で楓会から探した女性オメガの人だ。兄さんもよく黙って結婚したなと思う。でもそんな2人だけど夫婦仲はいい。だから兄さんは「結婚してみたら意外と良かったと思うこともあるから、お前も千景くんと結婚してみたらいいのに」と言う。でも俺には和真がいる。和真以外の人と生涯を共にしたいと思う人はいない。和真だけなんだ。  俺を抜かした両家7人は穏やかに談笑している。その中には千景もいる。輪に入っていないのは俺だけだ。何がそんなに楽しいんだか。自分の部屋に戻りたいけれど、さすがにそれはできないので我慢している。 「陸さん、明けましておめでとうございます」  千景は皆の輪から抜け、俺に声をかけてくる。無視したいところだけどそうもいかないので小さく返事を返す。 「おめでと」  仏頂面で言ったにも関わらず千景は嬉しそうに笑う。  お前はなんで勝手に婚約者なんて決められても笑っていられるんだよ。千景といい兄さんといい俺には気持ちが理解できない。 「お仕事はどうですか? 相変わらず忙しいのですか?」  休みの日になんで仕事の話しなんてしないといけないかな。と思うけれど千景にしたらそれくらいしか話題にできないんだろうな。それ以外の話題としたら今年と言われた結婚式のことくらいだからな。 「お前、結婚なんて言ったら仕事どうするの」 「結婚したら仕事はやめるつもりです」 「そんなことよく簡単に言えるな。仕事は腰掛け?」  意地悪でそう言うと千景は眉を垂らして笑う。 「そういう訳ではないけど、まずは家庭をしっかり守ることが僕の役目だと思うので。それに、子供も……」  そうなんだよな。結婚した先にあるのは子供だ。兄さん夫婦が既に結婚しているのだから、お互いに身体的問題がなければ、遅かれ早かれ子供はできるだろう。それだけじゃダメなんだろうか。俺まで結婚して子供を作る必要なんてあるんだろうか。この問題はずっと考えていることだ。もう、考えるとため息しかでない。  見ると俺のカップはもう空で、チラリと目をやると千景の手元のカップもコーヒーは空になっている。 「コーヒー淹れてくるからカップ貸して」  そう言って千景のカップも手にすると千景は「ありがとうございます」と嬉しそうに笑う。  キッチンへ行くとお手伝いの茜さんが淹れてくれたコーヒーはまだ余っていたので、それをそのまま入れ席に戻る。 「はい」 「ありがとうございます」  千景の前にカップを置くと千景はさらに嬉しそうに笑う。こいつはいつもそうだ。俺が話しかけると嬉しそうに笑う。いや、誰にでもこうなのかもしれない。小さい頃からよく笑う子供だったから。そんな千景を見ながら、バレないように小さくため息をついた。
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