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永遠の別れ6
病院に着くと医師や看護師さんがバタバタと動き出す。そして俺は廊下でぼうっとしていた。
どれくらいそうしていたんだろう。和真のご両親と思われる人が病院に駆けつけた。救急外来でなにをしているのか、外にいる俺にはわからない。恐らく心臓マッサージをしているんだろう。死なない……よな? 俺を1人にしたりしないよな?
廊下で1人ぼうっとしていると、和真のお母さんと思われる人に声を掛けられた。
「和真のお友達の方ですか?」
「……はい」
「ここまで一緒に来て頂いてありがとうございます。和真は……」
言葉をとぎられて、ダメだったと悟った。和真が俺を置いて逝ってしまった。あまりのショックに涙も出ない。
「あの……葬式は……」
「これからお寺さんと相談して火葬場が開いているときにしたいと思います。参列して頂けますか? お友達に見送って頂けたら和真も喜ぶと思うのですが」
友達、なんかじゃない。恋人だ。そう言えればいいのに言えない。友達のふり。和真が女かオメガだったら言えたのに。第一の性も第二の性も俺たちには優しくなかった。だから、友達のふりをする。
「ぜひ見送らせてください」
「それでは、決まりましたらご連絡しますので、ご連絡先を……」
俺は連絡先を教えて、和真の両親が冷たくなった無言の和真と一緒に帰って行くのを見送った。
3人が帰ったのを見送り、俺も帰宅する。帰宅する足は重い。家を出るときは数日ぶりに和真に会えると思って気持ちも高揚していたのに、今はすっかり消沈している。頭の中にあるのは、もう和真と会えなくなったということ。もう、一緒に笑いあったり、触れたり、キスしたり、セックスしたり。そんなことなにもできない。いや、声を聞くことも顔を見ることもできないんだ。それがとても辛かった。まさか恋人を亡くすなんて思わないだろ。しかも病気でもなく事故で。
家に着いてお手伝いの茜さんになにも言わずに自室に籠もった。そして2人で写った写真や和真1人が写っている写真を見る。そこにはいつもの穏やかな|表情《かお》をした和真がいる。俺に話しかける和真の声が今にも聞こえて来そうだ。だけど、もう聞くことはできない。
たくさんある写真の中から一枚を選び、フォトスタンドに入っているハワイのサンセットの写真を取りだし和真の写真と入れ替える。でもどうなんだろう。こうやって写真を目にする方が辛いんだろうか。身近な人を亡くすのなんて初めてだからわからない。でも、もう会えないから。せめて写真でいいから顔を眺めたい。辛くなったら他の写真と変えればいい。
フォトスタンドの写真を大好きな和真の写真に変え、コーヒーでも飲もうとキッチンに降りていくとダイニングに母さんがいた。
「なんて顔をしているんですか。しゃんとなさい」
なんて顔と言われても。きっと酷い顔をしているんだろう。恋人を亡くした日に笑顔だったらそっちの方が怖い。しゃんとしろと言われても無理だ。でも、何も言わずにお気に入りのマグカップにコーヒーをいれる。
「結婚式は6月に決まったわよ」
ほんとに勝手に決めたんだな。結婚式か……。千景と結婚するのか。なんだか他人事みたいだ。でも、もうどうだっていい。和真がいないなら誰と結婚しようと関係ない。和真以外に愛せる人なんていないのだから。
「わかった」
「……あんなに嫌がってたのに嫌がらないのね。どちらにしても気持ちが変わったのならいいのだけど」
散々反発していた俺に母さんは驚いていたみたいだけど、もうどうでもいいんだ。だってもう和真はいないんだから。それなら誰と一緒になろうと関係ないんだ。
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