9 / 106

新婚旅行らしくない新婚旅行2

 式を挙げた後、陸さん側の会社の関係者を招いての披露宴があり、それはそれは盛大なもので僕はなにがなんだかわからないままに終わり、そのままホテルの取ってある部屋に行く。今日はここで一泊し、明日新婚旅行でハワイへと行く。ゆきな伯母様はヨーロッパにでも行けばいいのにと言っていたが、普段仕事で忙しい陸さんにゆっくりして貰いたくて宮村家が所有するコンドミニアムのあるハワイへ行くことにした。ハワイは好きだし、何度行ってもいい。そして陸さんが辛そうだった結婚式のことを癒やすことが出来たらいいと思った。  式が始まる前から披露宴が終わってホテルの部屋に行っても陸さんの顔は晴れない。悲しみに沈んだままだ。顔色だって良くない。  ホテルの部屋はスイートルームで2部屋あったから部屋は別々にした。僕がいない方が休めると思ったから。 「陸さん、お疲れ様でした。お疲れだと思うのでゆっくり休んでくださいね。明日は夜のフライトなのでレイトチェックアウトでいいそうです」 「そうか。お疲れ」  陸さんは短くそう言うとリビング奥のベッドルームに消えて行った。  陸さんを見送ってから僕はリビング左のベッドルームへ入る。シャワーはそれぞれの部屋についているから明日の朝食時まで僕と顔を合わせなくていいので、少しは気も休まるだろうと思う。  部屋に入り窓際の椅子に座る。今日は朝からバタバタとしていたのでさすがに疲れた。結婚ってこんなに疲れるんだな。それが恋愛結婚ならいいのに……。お互いに好きなら精神的に疲れはしないのかもしれない。  でも僕と陸さんは恋愛結婚じゃないから。親同士が決めた結婚だから、そこに愛はない。いや、僕の方にはある。僕は子供の頃から陸さんに憧れていた。格好良くて頭がいい人。そして小さな僕の遊び相手になってくれた優しい人。4歳年が違うから僕みたいなちびっ子の相手をするのなんて楽しくなかったと思うし、もしかしたらそれはゆきな伯母様に言われてだったのかもしれない。それでも小さい僕の相手をしてくれたのだ。僕にはそれが嬉しかった。  僕が小さい頃は夏休みとお正月の年に2回会っていたのが、陸さんが中学生になってからは会うのはお正月のみとなってしまっていた。それでも毎年新年の挨拶に陸さんに会えるのが嬉しかった。  年に一度しか会わない婚約者の僕のことを好きになってなんて貰えない。それはよくわかっていたし、陸さんは陸さんで好きな人がいるだろう。その人とはお付き合いをしているかもしれない。でも、ゆきな伯母様は僕を気に入ってくれているのと、お母さん方が旧子爵の家柄だということで、家柄を重んじるゆきな伯母様が僕と陸さんの結婚を強く望んでいたから婚約解消なんてできなかった。だから陸さんは式の間中悲しげな顔をしていたのだろう。  これから結婚生活を迎えるにあたって、僕は陸さんの重荷になりたくないし、陸さんが少しでも休まる家にしたいと思っている。それはきっと陸さんが好きな人に会いに行くことだってあるかもしれない。それに対して僕はなにも言いたくない。陸さんが帰ってきてくれれば僕は十分だ。僕が結婚生活に望んでいるのはこの一点のみだ。それだけは望んでもいいですか?

ともだちにシェアしよう!