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新しい生活2

 金曜日。  出かけることは陸さんに言う必要ないかとも思ったけれど、もし帰って来るのが僕より早かったら真っ暗で寂しいかなと思って言うことにした。 「あの……僕、今夜出かけます。言う必要ないかと思ったんですけど、帰ってきて部屋が真っ暗だと寂しいかなと思って……」 「わかった」  陸さんはそれだけ言うと会社へと出勤していった。  夕方。仕事終わりの西賀と会社の最寄り駅から2駅離れたターミナル駅で待ち合わせをした。ここは2路線乗り入れていて、僕も家から一本だし西賀ももう一本の路線で一本で帰れる、ちょうど良い駅。  約束の時間よりほんの少し先に着いたので西賀が来るのを待つ。けれど、そんなに待たずに西賀は来た。 「天谷!」 「西賀。お疲れ」 「待った?」 「いや。来たばかりだよ」 「なら良かった。じゃ、行こうぜ。腹減った」  そう言って西賀お勧めのメキシコ料理の店へと行った。お店は駅から歩いて5分ほどで見るからにラテンな外装で楽しくなる。きちんとしたメキシカンを食べたのはいつぶりだろう。結構経つ気がする。  店内は結構混みあってはいたけれど待つこともなくテーブルに案内される。もう少し遅かったら待ったかもしれない。  席に着き、メニューを見る。コースメニューもある本格的なメニューで何にするか迷うけれど、2人でシェアして食べれば色々なものを食べることができる。 「ワカモーレいる?」 「お酒飲むなら必須だろ。ワカモーレとあとはサラダか」 「これよくない? スパイシーシュリンプ&アボカドサラダ」 「いいな、それ。それとメインのファヒータか。チキンとビーフどっちにするか迷うよな」 「じゃあ両方にしようよ」 「そうだな。あ、これ良くないか? 炙りチーズトリオファヒータグランデ。これならチキンもビーフも海老も食べれる」 「いいね。あ、僕デザート食べたいな。フランが好きなんだ」 「じゃあ俺はアイスにするよ。で、飲み物はどうする? 俺はビール。もちろんコロナで」 「僕はどうしようかな。うーん……レモンサワーにするよ」 「よし、決まりだな」  店員さんにテキパキと西賀が注文してくれて、少し経つとアルコールとワカモーレが出てきた。アボカドを混ぜ合わせるだけの簡単さだけど、これとアルコールが合う。 「「乾杯!」」  チップスにワカモーレをつけて食べる。これ、家で今度作ってみよう。陸さんはメキシカンは好きだろうか? と考えて、食事は別々なんだ、と思い至る。 「あ、お土産」  鞄の中からコーヒーとチョコレートを渡す。西賀はコーヒーが好きなので、少し高めだけどコナコーヒーをチョイスした。 「お!コナコーヒーじゃん。ありがとな。明日でも淹れてみるわ」 「うん、そうして」 「コナコーヒーは日本であまり売ってないからな」  フレーバーコーヒーもあったけれど、それは日本でも売っているからちょっとリッチにコナコーヒーの豆を選んだのだ。 「でも天谷が結婚だもんな。あ、もう天谷じゃないんだよな。今は宮村だろ。まさか結婚相手が宮村製菓の御曹司とは思わなかったよ」  西賀には結婚式に出席して貰っている。会社務めの頃、一番仲の良かった同期だから。結婚式はお互いの家族とごく親しい人のみを招いて行われた。そこで僕の側は父母と西賀が出席してくれた。披露宴は学生時代の友人にも来て貰ったけれど、式で招いたのは西賀だけだ。それくらい西賀とは親しい。そして西賀は僕と陸さんが親の決めた相手だと知っている。 「で、ハワイはどうだった? 少しは一緒にいた?」 「ううん。お互いに干渉するのはやめようって言って、一緒に夕食を食べたのは到着日の夜だけだよ」 「そうきたか」 「うん」 「相手は好きな人いるっぽいんだろ?」 「いると思う。携帯いじりながら優しげな顔しているの見たことある」 「そっか。だから干渉するな、っていうことなんだろうな。でも結婚して一緒に住めばワンチャンあるかもだろ?」 「そんなことはないよ。そんなに僕が魅力的だとは思わないし」 「そんなに卑下するなよ。十分魅力あるから」    一緒に住んでもそれはないと思っている。だから僕の気持ちは一生陸さんは知ることがない。それでもいい。だけど、今よりもう少し距離が近くなればいいなとは思う。わがままかもしれないけど。それでも、それだけは願いたい。

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