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新しい生活3

「でも、魅力的かどうかってさ外見だけの問題じゃないだろ。子供の頃ならいざ知らず、もういい大人だからさ内面で好きになるじゃん。そうじゃない? それとも陸さんを好きになったのは格好良いからだけ?」 「陸さんは格好良いのもあるけど一番好きなのは優しいからだよ。小さい頃もそうだし、結婚する前はあまり喋ることはなかったけどちょっとしたことで優しさが見えたから」 「だろ。だからワンチャンあるかもしれないってこと。それに魅力あるって言ったろ」  西賀はそういうけれど、そんなに世の中甘くないと思う。陸さんが今好きな人がいなければ話しは別だけど、いるのならそんなに簡単なことじゃないと思う。  そんなことを話しながらワカモーレを食べているとサラダが来た。レタスの上にスパイシーに味付けした海老、アボカド、2種類のチーズ、トマト、かぼちゃの種というサラダだった。  一口食べると、スパイシーな中に2種類のチーズとアボカドの甘みの組み合わせが美味しかった。このサラダも作れそうだな。ドレッシングだけ再現できれば作れる。 「このスパイシーさがメキシカンって感じだよな」 「うん。このドレッシング、作れるかな?」 「なんとなくだけど出来るんじゃない? そっか天谷、いや宮村、料理できるんだもんな」 「一応料理教室には通ったけど」 「陸さんにさ、食事食べさせてあげたら胃袋掴めるんじゃん?」 「食べて貰うチャンスがあればね」  お互い干渉しない。食事は別々。それで胃袋を掴むのは無理がある気がする。胃袋を掴む掴まないでなく、その前提として一緒に食事ができたらな、とは思う。それは難しいことなのかもしれないけど。 「あまり悲観的にならないの。いつなにがあるかわからないだろ」 「そうかな?」 「そうなの。悪い癖だぞ、悲観的になるの」  悲観的か。単に自分に自信がないというか、そんな感じなんだ。世の中は素敵な人が女も男もたくさんいるから。そう言えば、陸さんが好きな人は女の人なんだろうか。それとも男の人だろうか。もし女の人なら、第一の性別の違う自分では望みは皆無ということになる。 「もう少し自分に自信持てばいいのに」 「そんなの無理だよ。だって素敵な人はたくさんいるんだから」 「その中に自分も入ってるんだぞ。優しくて穏やかって魅力の1つなんだから」 「優しい人なら他にもたくさんいるよ」 「ほんとになぁ」  西賀は呆れてしまったようだ。でも、優しい人ならほんとにたくさんいるんだ。だから僕だけじゃない。それ以上言っても仕方ないので食べることに専念する。うん。サラダ美味しいな。ドレッシングが自信ないけど、今度作ってみよう。  サラダがなくなる頃、メインのファフィータが出てきた。  海老、チキン、ビーフに炙りチーズがトッピングされているものだ。チーズがほどよくとろけていて、海老とチキン、ビーフがいい味がする。うん、これは作れる。こうやってみるとメキシコ料理って意外と家でも作りやすいんだな。 「うん、チーズのとろけ具合がいいな。これ当たりだ」 「この前はなに食べたの?」 「スパイシーチキンエンチラーダ」 「エンチラーダか。それもいいね」 「そっちの方が良かったか?」 「ううん。ファヒータでいいよ。でも今度はエンチラーダがいい」 「おう。じゃ、また来なきゃな」 「うん」  こうやって西賀と気楽に食事できるように、せめて食事だけでも陸さんと一緒に食べられるようになったらな、と小さな願いごとを胸の中で神様にお願いした。  

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