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小さな幸せ2
陸さんとここで同居するようになって1ヶ月。その間に顔を合わせたのはほぼ週末くらい。平日は、陸さんは夜帰ってくるのは残業なのか会食なのか僕にはわからないけれど帰宅するのは遅いようだ。
そして週末は朝は起きるのは遅いようだ。それでもシリアルとフルーツは食べているみたいだ。昼間は家では食べている様子はしないから外で食べているのか、外出している。夜はコンビニ弁当かスーパーの惣菜を買ってきているらしく、ゴミがある。ずっとコンビニ弁当なんて体を壊してしまう。
対する僕は、朝は陸さんが起きてくる前に簡単に用意する。自分1人だから作る気にもなれなくてパンにヨーグルト、フルーツ、コーヒーで済ませている。陸さんもフルーツを食べるので自分のフルーツを用意するときに陸さんの分も皮を剥いたりカットしたりして用意しておく。コーヒーも同じ。自分の分と陸さんの分と2杯分落としている。
そしてインドアの僕は昼間出かけるのは、個人的なものを買うときは空いている平日に行き、週末に出かけるのは基本急ぎの食材の買い出しくらいだ。そんな感じだからお昼も家で食べているし、なんなら夜も家で食べている。なので夕食を作っているとお弁当を買いに行こうとする陸さんとバッティングしてしまった。
どうしよう。僕は作ろうとしているところだし、陸さんは食べるべく買いにいくし。陸さんが帰って来るまでに作り終えて、食べて後片付けまでなんて出来る気がしない。そして、そこで何を思ったのか僕はひとつ提案してしまった。
「あの……週末の夕食は時間が被ることがあるので、陸さんが嫌でなければですけど、僕に作らせて貰えませんか? いや、僕の作ったのなんて嫌なら無理にとは言いませんけど。でも、ずっとスーパーのお弁当なんて体に良くないので……。それに1人分作るのも2人分作るのも変わらないし」
「……」
「……あの、ごめんなさい。差し出がましいことを言ってごめんなさい」
僕は今から作るし、2人分の食材はあるから陸さんの分も作ることはできる。でも、出過ぎたことを言ってしまったと思って、もう夕食を放って部屋に戻ろうとしたときに陸さんの声が聞こえた。
「お前、料理好きなの?」
「え? 嫌いじゃないです」
「じゃあ週末だけ作って貰ってもいいか。いや、お前が作るときだけでいいから。出かけるときは俺のことは気にしないで出かけて貰って構わないから」
え? 作って貰っていいか? 今、そう言った? まさかそんな言葉が陸さんの口から出てくるなんて思わなくて僕は口をポカンとあけてしまった。きっとすっごく変な顔してるだろう。でも、陸さんがそんなことを言ってくれるなんて思わなかったから。でも、言われたことがとにかく嬉しい。
「はい! じゃあ、早速今日から作ってもいいですか?」
「それは構わないが、2人分の食材なんてあるのか?」
「食材って1人分なんてほぼないです。普通に買いに行けば、2〜3人分になるので冷蔵庫の中もそれくらいあります」
「そうか。じゃあ頼む。面倒なときは作らなくても構わない」
「それは大丈夫です。僕も作らなきゃ食べられないから」
これから週末の夜だけとは言え、陸さんの分を作ることができる嬉しさと、普段顔を合わせてもほとんど会話をしないのに、こんなに話せた! という嬉しさで僕の顔はだらしない顔になってるんじゃないだろうか。とにかく、今日から陸さんの分も作れる。
「あの、じゃあ今から作るので、少し待っててください。出来たら声をかけますから」
「わかった」
そう言って陸さんは部屋に戻って行った。よし! 作るぞ。
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