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小さな幸せ3

 陸さんに食事を作るのは、ハワイのあの日についで2度目だ。あのときは和食の調味料が手に入らなくてステーキを焼いただけになってしまったけど、今日はきちんとした料理だ。  少し考えて今日の献立に肉じゃがを追加することにした。そして、ご飯は一人なら普通の白ご飯だけど、陸さんが食べるのなら炊き込みご飯にするのもいいな。五目炊き込みご飯なんていいかもしれない。メインのおかずはあじの開きだ。  まずは炊き込みご飯をしかけて、それから肉じゃがを作る。肉じゃがを作るのは久しぶりだ。1人だと面倒くさく感じて作らない料理の1つだ。でも、実家で作ったときはお父さんもお母さんも美味しいと言ってくれていたから大丈夫だとは思うんだけど。  肉じゃがを煮ながら、卵焼きのために卵を割りほぐしていく。割りほぐした卵液を卵焼き器に入れ焼いていく。僕の焼く卵焼きは甘くないけど大丈夫だろうか。うちの両親が甘い卵焼きが好きじゃなかったので僕も甘いのは焼かなくなった。でも、陸さんはどうなんだろう。訊けば良かった、と今さら思う。卵液を入れてからじゃあ遅すぎる。今後の参考のために後で訊いてみよう。  肉じゃがが煮え、卵焼きが焼けてからあじを魚焼きグリルで焼いていく。1人だと後片付けが面倒でフライパンで焼いたりもしてしまうが、ふっくら焼くにはフライパンよりグリルの方が向いている気がする。  魚を焼いているとご飯が炊き上がる。あじもいい色に焼き上がってから肉じゃがも軽く温め、ダイニングテーブルに配膳していく。よし、これでできあがりだ。陸さんに声をかけよう。  陸さんの部屋のドアをノックしてから声を掛ける。 「陸さん、お待たせしましたが、できました」  そう声を掛けると、ドアが開き陸さんが出てくる。 「お口に合えばいいんですけど」  そう言って陸さんのご飯ををよそう。そしてお茶碗を陸さんの前に置くと、陸さんはいただきますと手を合わせてから肉じゃがから食べていく。どうだろう。最近はあまり作ってなかったから味が心配だ。だから気になって自分の分のご飯をよそうのも後回しにして、つい陸さんの表情を見てしまう。大丈夫だろうか。不味いとか思ってないかな? それでも陸さんは何も言わずに肉じゃがの後は卵焼きを一口、口にしてからあじへとお箸が移っていく。 「あの、味は大丈夫ですか?」  恐る恐る訊くと、 「ああ大丈夫だ。美味い」  美味い! 陸さんが美味いって言ってくれた。でも、卵焼きのことは訊いておこう。 「あの、僕の焼く卵焼きって甘くないんですけど大丈夫ですか?」 「卵焼きは甘いのよりはこういった味の方が好きだから」  良かった! 陸さんは甘い派じゃなかった。それなら、今度から卵を焼くときは普通に焼いて大丈夫だな。  陸さんの言葉にホッとして、やっと自分のご飯をよそう。その間も陸さんは黙々とご飯を食べている。 「ご飯、まだあるのでいっぱい食べてくださいね」  そう声を掛け、僕も肉じゃがから手をつけた。うん、さっき味見したけれど変な味はしてない。いや、陸さんが美味しいと言ってくれてはいたけど。卵焼きもいつもの味だし、あじもふっくら焼けている。うん、及第点だな。でも、これから週末の夜陸さんに作ってあげられるのなら、もっと美味しいご飯を作れるように頑張ろう。  食卓に会話はない。家の中はシンと静まりかえっている。それでも陸さんが僕の作ったご飯を食べてくれているということが嬉しくて、だらしない顔になりそうだ。  自分もご飯を口にしながら、チラチラと陸さんの方を見てしまう。だって、結婚する前に陸さんに食べて欲しくて料理教室に通って、お母さんにも教えて貰ったんだ。だから、その陸さんが食べてくれているというのが嬉しいんだ。 「ごちそうさまでした」  陸さんは食べ終わったようだ。食べた食器をどうしたらいいんだろう、という顔をしていたから声を掛ける。 「僕がやっておきますので、そのままで大丈夫です」 「そうか。ありがとう」  そう言うと陸さんは洗面所へと消えた。  やっぱり陸さんはいい育ちをしたんだなと思う。無駄な話は一切しない。僕との会話は必要最低限しかしない。それでもいただきますとごちそうさまは必ず言うし、ありがとうという感謝の言葉も言う。陸さんのそういうところが好きだと思う。ゆきなお義母様がしつけたんだなと思う。優しい人ではあるけれど、厳しさもある人だから。  明日は日曜日。週末は、だから明日も作っていいんだよね? 明日の夕ご飯は何にしようかな。と、ご飯を食べながら考えた。

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