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小さな幸せ6
まずは棒々鶏を作るのにお酒を少し入れたお湯で鶏肉を湯がき、冷ます。その間にきゅうりを千切りに、トマトは輪切りにし、お皿に敷く。そして鶏肉の熱が冷めたところで繊維に沿って裂いていく。最後にタレを作るのにしょうゆ、味噌、みりん、砂糖、すりごま、ごま油を混ぜ合わせてかけて終わり。
次に麻婆茄子を作る。茄子を炒め、炒まったところで取りだし、挽肉、にんにく、生姜を炒め、豆板醤を加えて混ぜる。挽肉に火が通ったら水、酒、みりん、甜麺醤、鶏がらスープの素を加えてよく混ぜる。ふつふつとしてきたら塩で味を調えてから片栗粉でとろみをつけていく。とろみがついたらごま油を加えて出来上がり。
最後に炒飯を作る。焼き豚を細かく切り、卵をほぐす。次にご飯を油を少々加えて混ぜ合わせて、卵にも混ぜる。混ぜ合わせたらフライパンに広げ、ご飯を炒める。ご飯がパラパラしてきたら焼豚を入れて炒める。最後にしょうゆを加えて、しょうゆがジュッと言ったら全体を混ぜ合わせて、塩、こしょうで味を調えて終わり。
時計を見たら18時30分を少し回ったところなので、そろそろ陸さんも帰ってくるかな? そう思ったときに玄関が開き、陸さんが帰ってきた。
「お帰りなさい」
そう言うけれど、陸さんは何も言わない。これはいつものことだ。
「夕食出来てるので、食べましょう」
そう言うと、陸さんは洗面所へ行ってからダイニングテーブルに座る。
「今日は中華にしてみました」
炒飯をお皿に盛り、麻婆茄子も取り分け、真ん中に棒々鶏を置く。そうしたところで陸さんがいただきますと言ってから棒々鶏を食べ、炒飯、麻婆茄子と食べ進めていく。陸さんと暮らすようになってから麻婆茄子を作るのは初めてだ。
市販の素を使わずに作ったけれど大丈夫だろうか。それが気になって陸さんの方をチラチラと見てしまう。すると僕の視線に気づいたのか、陸さんは美味いよと一言くれた。
美味い! その一言でホッとして自分も食べ進めていく。陸さんにそう言われると魔法にかかったかのように、さっきよりも味が美味しくなるのは気のせいじゃないはずだ。陸さんに褒められると、料理教室に通ったのは無駄じゃなかったと思う。正直、料理なんて興味もなかった。でも、お母さんが結婚するなら簡単なものだけでも作れるようになった方がいいと言って料理教室を申し込まれ、通うことになったのだ。面倒くさいと思いもした。でも、お母さんの陸さんに食べて欲しくないの? という一言に負けた。お母さんは僕が陸さんに憧れているのを知っているから。だから、今こうやって作って、美味いと言って貰えるのが本当に嬉しいんだ。だから料理教室を勧めてくれたお母さんに感謝だ。
食卓に会話はないけれど、陸さんが美味しいと言って食べてくれているだけで僕は十分だ。
最初に、お互いに干渉しない、と言われたから、こうやって食べて貰えるようになるなんて無理かと、正直ちょっと凹んでもいた。それがこうやって食べて貰えているんだから、今の僕はこれ以上を望んだらいけない気がする。でも、週末のお昼は一緒に食べたいな、と思ってしまう。だから、勇気を出して訊いてみた。
「あの……週末のお昼ってどうしていますか?」
「適当に食べに出がけたりしている。そしてたまに学生時代の友人と会ったりもしているが」
「それなら、あの……お昼も用意していいですか? ご友人と会ったりするときは別ですけど。なんだか僕がいると陸さんがキッチンに入れないかなと思って」
「お前がいなくてもキッチンには入らない。料理はできないから」
そうだよね。陸さんの家なら茜さんがいるから料理なんて作る必要なんてなかったものね。
「干渉しない、って言ってるのに差し出がましいことを言ってごめんなさい。でも……」
そう言うと、陸さんはしばらく黙った。あぁ、やっぱりダメだったか。夕食だけで満足しておくべきだった。
「甘えていいのか?」
そう思ってシュンとしたけれど、陸さんは嬉しい言葉をくれた。
「はいっ! いくらでも甘えてください。1人分作るのも2人分作るのも変わらないから。逆に余らなくていいんです。あ! もちろんお友達と会ったりするときは気にせず出かけてください」
「じゃあ甘えさせて貰うが、お前も自分のを作るついででいい。お前こそ出かけるときは気にしなくていいから」
「はい!」
僕が食べて欲しくて言ったのに、陸さんは僕の負担にならないように気を使ってくれる。やっぱり優しい人だな。だから僕の陸さんへの気持ちは加速してしまう。
でも、これでお昼も作らせて貰える。それがどれだけ嬉しいか陸さんは知らない。知らなくてもいい。僕がひっそりと気持ちにしまっておくだけで幸せなんだ。
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