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小さな幸せ7
日曜日。
ゆっくりと目を覚まし、朝食を食べるためにキッチンに行くが、リビングにもキッチンにもあいつのー千景ーの姿が見えなかった。料理以外の家事でもしているのかと思ったけれど、その気配はない。そこで冷蔵庫を開けると、いつも千景がカットしているフルーツが見当たらなかった。
朝起きて冷蔵庫を開けると、いつも千景がカットしてくれているフルーツが何かしらある。だけど、今日はフルーツはなにもカットされたものはない。
恐らく、いつもは千景自身が食べるついでに俺の分も一緒にカットしてくれているのだろうが、それが今日は見当たらない。なので自分でなんとかしようと見ると、キウイが目に入った。恐らく、今日食べるために昨日にでも買っておいてくれたのだろう。キウイは剥かれてもいないし、カットもされていないので自分で剥く必要がある。料理はできないけれど、これくらいは出来る。
キウイを剥いてカットしたところで簡単に朝食を済ませ、洗い物は食洗機に入れる。それでも千景は出てこない。10時を回っているし、どこかへ出かけたのだろうか。でも、それならフルーツがカットされていないというのがわからない。
別に千景がどこへ出かけようがそれは千景の自由で俺に許可を取る必要もない。干渉をしない、と言ったのは俺だからだ。それでもいつもと違う朝に違和感を覚える。単にフルーツのことを忘れて出かけただけかもしれない。
昨日、週末の昼も作っていいかと訊かれたから、作ってくれと頼んだ。正直、それだけのために出かけるのも面倒だったから助かるのは事実で。
そんな話をしたのは昨日のことなので、今日は作って貰おうかと思っていたところで姿が見えないのではどうしようもない。もしかしたら買い物に出ているのかもしれないと思い、リビングで映画を観ているが終わっても帰ってこないので今日は諦めて食べに出ることにした。今日出かけるなら今日は作れないと昨日言ってくれたら良かったのに、と勝手なことを思ったのは内緒だ。
簡単に昼食を食べるために、近くのカフェに行く。家からだとここが一番近くて、遠くまで行くのが煩わしいときはここで済ませることが多い。他のカフェに比べてここはフードメニューが結構揃っていて食事をするのに最適だ。
今日はサンドイッチにサラダ、鶏の唐揚げがセットになっている昼メニューを食べ、その後は近くの本屋に行って最近出たばかりの好きな作家の推理小説を買って家に帰る。
買い物ならさすがにもう千景は戻っているだろう。そう思って家に帰ってもリビングにもキッチンにも千景の姿はない。でも、そこで甘い花の匂いがしてきて気がついた。ヒートを起こしているんじゃないだろうか。そう考えるとカットされたフルーツがないのも、リビングやキッチンに姿がないのも納得できる。
オメガに3ヶ月に1回訪れるヒート。オメガがヒートを起こしているときにアルファが項を噛むと番となる。番契約は、番解消が簡単にできないため、紙の結婚よりも強固な繋がりと言われている。
うちの母さんや友子さんが望んでいるのは俺と千景の結婚だけでなく、その先にある番、そして子供を作ることだ。そんなことを望まれても俺は和真を失ってまだ1年も経っていない。だから千景と番になって子供を作ることなんて考えられない。
けれど、いつも笑っているあいつがいない家というのはなんだか何かが足りない気がする。お互いに干渉しないと言ったって家にいれば顔を合わせることだってある。でもそれがないので、何かが足りないと感じたのだ。
ヒートを起こしているのなら今日の夜も自分でなんとかする必要がある。料理ができない俺が簡単に済ませるのなら下のスーパーで弁当を買ってこよう。千景のいない週末にそう考えた。
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