37 / 106
もやもや2
「結婚式以来だな」
中学入学から高校卒業まで仲の良かった来生が言う。片手にはビールを持って。
今日のクラス会は高校3年のときのクラス会で、会場は川崎市内のターミナル駅近にあるレストランを貸し切っている。当初、都内のホテルというのも考えたらしいけれど、神奈川に住んでいるのが多いから、どちらからもアクセスの良いこの場所にしたらしい。
高3のクラス会とは言っているけれど、学校は中高一貫校で、だからクラスメートもなんだかんだ6年間一緒だったメンツで、高3のと言ってもほぼ中学からのクラスメートと変わらない。
来生はその中でも仲が良かった。だから結婚のときは披露宴に来て貰った。
「結婚式のときはありがとうね」
「そんなのはいいよ。中学のときから千景の結婚のときは出席するって決めてたし。でも、意外にも一番乗りじゃなかったな」
「うん。陸さんの仕事が忙しくて」
「まぁ、もう相手決まってるから急ぐ必要もないか」
そんな風に来生と2人で話していると、他のクラスメートが乱入してくる。須合だ。
「お、天谷じゃん。って、あ、もう天谷じゃないのか。なんだっけ、宮村だっけ。菓子屋の」
「うん、宮村だよ。でも、天谷でいいよ。言い慣れてるでしょ」
「うん。ずっと天谷って呼んでたからな。で、どうよ、結婚生活」
「どうって言われても、なんて答えたらいいのかわからない」
クラスメートは僕に陸さんっていう婚約者がいたことは知っているけれど、そこに愛情がないということは知らない。知っているのは来生くらいだ。だから結婚生活を気軽に訊いてくる。
「天谷。飲んでるかー」
片手にワインを持ってそう乱入してきたのは|度会《わたらい》だ。
「飲んでるよ。度会は飲み過ぎじゃない? 大丈夫?」
「大丈夫。大丈夫。クラス会なんてたまにしかやらないんだから。楽しいしー」
結構酔っているようだ。まぁ元々テンションの高いやつだけど。
「このメンツが揃うのって天谷の結婚式以来だよな。学校では6年間ずっと顔見てたのにさ」
僕と来生は特に仲が良かったけど、須合、度会とも結構仲が良くて修学旅行なんかでは4人で一緒に回ったりしていた。だから、須合も度会も僕に子供の頃から婚約者がいたのは知っていた。
「で、新婚生活はどうよ。俺らの中で一番乗りだよな。いいなぁ。俺なんて結婚できるのかどうか」
そういうのは須合だ。
「お前の場合はオタクだから無理だよ」
そうツッコミを入れるのは度会だ。
「でもさ、俺たち4人の中では結婚一番乗りだもんな。結婚ってどんな感じ?」
どんな感じかと訊かれてどう答えたらいいのか悩んでしまった。結婚と言っても僕の場合はオメガで、3人はベータだ。だから結婚するとしたら女性とするんだろうし、そうした場合立場が僕とは違う。
「赤の他人と住むんだから気使うんじゃないの?」
そう訊かれて悩む。赤の他人だから、というよりお互いに干渉しないという約束だから気を使ったというのはある。今は自由にさせて貰っているけれど。それでも、そうだな。確かに全く気を使わないわけではない。
「そう、かな? でも、自由にさせて貰ってるから」
「相手って幼馴染みだろ? だからかな?」
「どうなんだろう?」
「ヒート起こしても大丈夫か?」
「馬鹿。オメガで結婚してるんだから、もう番になってるだろ」
3人はベータだけど、オメガの僕のことを気遣ってくれた3人だ。だから、そこを気にするんだろう。
「まだ番じゃないよ」
思わずポロリと言ってしまった。案の定、須合と度会は目を丸くしてびっくりしている。あ、でも、さすがにほんとのこと言ったらまずかったかな。そう思ってどうしようか考えていると来生がフォローしてくれた。
「番になるのは簡単だけど、仕事が忙しいと千景がヒート起こしてるときに休み取りにくいだろ」
さすが頭の良い来生だ。思わずホッとしてしまった。
「あ、そっか。パートナー休暇取りづらいか。相手が大企業の御曹司だと逆に大変か。俺たちみたいな一般人とは違うもんな」
と地元では有名な不動産会社の跡取りである須合が言う。須合が一般人なら一般的なサラリーマン家庭の僕なんかどうなるんだろうか。と思ったのは内緒だ。
「でも、番になった方が他のアルファが惑わされることはなくなるんだろ。そしたらヒート近いときとかヒートのときは気をつけろよ」
この3人は学生時代、僕を守ってくれた3人だ。今もこうして心配してくれる3人には感謝だな、と思った。
ともだちにシェアしよう!

