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デートみたいで3

 土曜日。午前10時30分。  少しゆっくりめに起きた僕たちは出かけることにした。と言っても僕はどこに行くのかまだ聞いていない。わかっているのは車で出かけるということと、海鮮ものが食べれるところ。それは生ものだろうか? 生ものが有名なところだというと都内だと築地。都内を出るとなると三浦半島、箱根、伊豆半島だろうか。いや、伊豆半島は遠いかな? 後は房総半島とか? いや、それにしたって範囲が広すぎて結局どこかわからない。  でも陸さんは生ものとは言わなかった。海鮮、と言ったのだ。だからわからない。  2度目になる陸さんの車。前回は陸さんがスマートに助手席のドアを開けてくれたので図々しくも助手席に座らせて貰ったけれど、今回も助手席でいいのだろうか。と考えていると、また助手席のドアを開けてくれたので助手席に座らせて貰う。陸さんってエスコートがとてもスマートで紳士的だ。こんなにスマートにエスコートされたらクラクラして好きになってしまうじゃないかと思う。いや、僕の場合既に好きなんだから今さらだけど。  でも、出かける先がどこかわからなくて聞いてしまう。 「どこへ出かけるんですか?」 「熱海だ」 「熱海? 日帰りで行けるんですか?」 「行ける」  熱海に日帰り……。  そう考えて新幹線なら都内から片道1時間以内で行かれることを思い出す。そうしたら車でも行かれるのだろう。どれくらいかかるのか車を運転しない僕にはわからないけれど。  今日はお天気もいいし、ドライブ日和なのかもしれない。この間は川崎までだからすぐに着いてしまったけれど、今日はそういうわけにはいかないだろう。どちらにしても僕にはよくわからないのだから陸さんに任せるしかないのだけど。でも、毎日、夜遅くまで仕事をして、週末に長距離(と思われる)の車の運転って疲れないだろうか? それが気になって陸さんの方に目をやるとサングラスをかけた陸さんが目に入って僕は言葉を失ってしまった。  薄いグレーのサングラスをかけた陸さんは、普段の格好良さが倍増していて、こんな姿を見てしまったら僕はノックアウトされてしまっても当然だと思う。いや、この姿を見たら誰だってノックアウトされるだろう。僕だけじゃないはずだ。  思わず陸さんをガン見してしまうと、陸さんは僕の視線に気がついたようだ。 「なんだ?」  感情の乗らない声だけど、それはいつものことだから気にしない。 「いえ。サングラスするんだなと思って」 「あぁ。陽射しが眩しいからな」  そっか。陽射しが強いと確かに目、しんどいもんね。そう納得するけれど、それでもそのサングラス姿は反則だと思う。それを指摘することはできないけれど。それをするには僕たちの距離はありすぎる。  いや、それでも結婚した当初よりは少しマシになっているような気がする。お互いに干渉ナシでって言ってたけれど、この間はコーヒー豆を買いに車を出してくれたし、今日だっていつものお礼だっていって熱海まで連れて行ってくれる。  話していても目に見えない透明なバリアは以前より少しは薄くなっているような気がするのは僕だけだろうか。  でも、お礼をしたいからするって言う陸さんは真面目なんだなと思う。陸さんが中学に入ったあたりから遊んで貰うことはなくなって、それまで仲良く普通に話していたのにいつの間にか僕と陸さんの間には距離ができた。会うのも年に1回になり、距離は広がるばかりだった。結婚した頃はそれがピークだった気がする。でも、結婚して半年。仲良くなれたわけじゃないけれど、以前よりは少しはマシになった気がするんだ。だから、それが少し嬉しい。  そして今日は大事なお休みの日に熱海まで連れて行ってくれるという。それが嬉しくないわけがない。お天気はいいし、もう2度とこんなことはないかもしれない。だから今日を思い切り楽しもう。そう思って前を向いた。  

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