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デートみたいで2

 世間はクリスマスイブで。とは言ってもクリスマスデートをしたりするわけじゃない。でも、結婚して初めてのクリスマスだからちょっと特別にしたくてケーキを作ることにした。とはいえクリスマスケーキなんて初めてだから簡単に作れそうなレシピを探し、スポンジは市販のを買って作ることにした。  カスタードクリームにバターを混ぜただけのクリームムースリーヌと苺のジュレだけでできるほんとに簡単なケーキだ。オーブンを必要としないのでチャレンジしやすいし、失敗をすることがない。  とはいえ、作ることには正直躊躇した。もしかしたら好きな人と美味しいディナーでも食べてきて、ケーキも食べて来るかもしれない。そうしたらうちでケーキは食べられないかもしれない。そう思うと作らなくてもいいかなと思ったけれど、そうしたら僕が食べれるだけ食べて、残りは捨ててもいいと思って作ることにした。  だけど陸さんは美味しいと言って食べてくれたんだ。しかも、貰って貰えるかわからないクリスマスプレゼントまで受け取ってくれた。陸さんは僕に何も用意してないと言ったけれど特別なものなんてなにもいらないんだ。陸さんがケーキを一口でも食べてくれて、プレゼントを受け取って貰えたらそれだけで十分なんだ。それが僕へのプレゼントになるんだ。  でもケーキを食べてくれてプレゼントを受け取って貰ったら、クリスマスディナーに代わるものを作りたいなと思ってしまった。週末の夜にでも作ろうかなと思った僕は欲深いだろうか。でも、ほんとに満足していたんだ。なのに陸さんは僕が思いもしないことを提案してくれた。 「いつも週末食事を作って貰っているし、掃除や洗濯もして貰っているから、そのお礼に出かけないか?」  そう言ったのだ。  お礼なんていらないのに。食事を作るのも家事も、僕がしたいからしているだけで感謝して欲しくてやっているわけじゃない。それなのにお礼なんてして貰っていいんだろうか。僕が戸惑っていると、気が乗らないと思ったみたいで、嫌ならいいと言われてしまった。違う! 違うのに。 「違います! ただ、僕がしたくてしているだけなのにいいのかなって思って」 「家事なんて面倒くさいだろう。それに千景は家政婦じゃない。なのに家政婦の代わりにしてくれて、それに俺は忙しいからしてくれているのは助かっている」  僕は自分を家政婦扱いされているなんて思わないし、主夫たるものするのは当然だ。わざわざ家政婦さんを雇う必要はない。とは言っても子供の頃から家政婦さんのいる環境で育った陸さんにはいて当然の存在なんだろうけど。家政婦さんのいない家の方が多いって知ったら驚くんじゃないだろうか。 「ほんとにいいんですか? 陸さんのお休みを奪ってしまうことになりますけど」 「それは気にしなくていい。千景の言葉を借りるなら、したいからする」  優しくそう言ってくれる陸さんが嬉しくて僕はうるうるしてしまった。 「はい! じゃあ楽しみにしています」 「それなら土曜日にでも出かけよう。海鮮は大丈夫だったな?」 「はい、大丈夫です! 大事なお休みの日にありがとうございます」 「それはいい。俺も久しぶりに運転したいからな」  陸さんがそう言うので、車で出かけるんだなとわかる。また陸さんのプライベートな空間にお邪魔させて貰えると思うと嬉しくてにやにやしそうになるので、必死に頬に力を入れた。  

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