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デートみたいで8
ソファでゆっくりしているとウトウトしていたようだ。ハッと目が覚めると目の前に陸さんがいて、陸さんは憂いの表情で窓の外を見ていた。その表情があまりに悲しそうで、見ている僕の方が辛くなる。なんでそんなに悲しそうなんですか? 僕ではあなたの癒やしになれませんか? そう思って見ていると僕の視線に気がついたようでこちらを見た。
「目が覚めたか」
「あ、はい。ごめんなさい、僕寝ちゃって」
「疲れてたんだろう。それよりそろそろサンセットだぞ。露天風呂に行くか?」
「行きます!」
「じゃあ行くか」
そう言って僕たちは5階の男湯へと戻り、露天風呂へと直行する。立ち湯にしようかと迷って、さっきは立ち湯だったので今度は掛け流しにすることにした。どちらも露天風呂で海と一体になっている感じがするのは一緒だ。陸さんは最初立ち湯にいたけれど、少ししたら掛け流しにやってきた。座って入れるこちらは楽だ。
海を見ていると空があかね色に染まってきた。高いところにあった太陽は少しずつ沈んで行き水平線ギリギリになった。
綺麗だな、そう思って沈んで行く陽を見る。少し寂しげだけど、太陽が沈んで行くこの時間が僕は好きだ。それも海に沈んでいくのが好きだ。新婚旅行のハワイでもサンセットを見た。でも、海に入っているわけではないから、ここのように海との一体感は感じられなかった。それが感じられるここはいいなと思う。こんなに綺麗な景色を陸さんと見られるなんて幸せだ。でも、陸さんが一緒に見たい人は僕じゃない。
辺りが暗くなってくると海との一体感から、浮いている感じが怖くなってきた。
「そろそろあがるか」
「はい」
怖くなってきたところで陸さんが声をかけてくれたから助かった。
「少しはリラックスできたか?」
「はい! でも、陸さんはお疲れなのでは? 大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫だ。さ、帰るぞ」
そう言って陸さんは湯からあがるとロッカールームへと続く通路を歩いて行く。僕はその後を追いかけていく。
「あぁ、プリンは食べられるかな」
「プリン?」
「あぁ。プリンだけじゃなくソフトクリームにもなっていて美味しいらしい。ただ時間が17時までなんだ」
そう言われて時計を見るとあと15分くらいで17時になってしまう。
「急げば間に合うか」
「多分」
「よし、急ごう」
そう言って僕たちはプリンなるものを食べるために急いで服を着て、建物の外へと出た。プリンのお店に着いたのは、あと数分で17時になるところだった。
メニューを見るとプリンだけでもたくさんのメニューがあり、プラスしてソフトクリームもあるから選ぶのに困る。
「陸さんはどれにしますか?」
「俺は抹茶プリンにする」
陸さんはあまり甘くないだろうメニューを選んだ。隣で僕は悩む。
「いくつか買って行くか?」
「いいんですか?」
「構わない。好きなのを選べ」
そう言われて僕は、陸さんの選んだ抹茶プリンを含めて7種類ほど買って貰った。
「こんなに買って良かったんですか?」
「お前が家で食べれるだろう」
ほらね。そうやってさりげなく僕のことを考えてくれる。無愛想に見えるかもしれないけれど陸さんは優しいんだ。だから僕は陸さんが好きなんだ。
プリンを買った僕たちは車に戻り、買ったばかりのプリンを食べる。僕はコーヒー牛乳プリンにした。コーヒー牛乳が好きだからだ。プリンを一口、口に入れるとふんわりとコーヒー牛乳の甘い味が広がる。
「美味しい!」
「うん。美味いな。もっと買っておけば良かったか?」
「2人だからこれで十分ですよ。痛んじゃったらもったいないし」
「そうか。また来たときに食べよう」
え? また来れるの? ほんとに? また連れてきてくれるの? 僕はポカンと陸さんを見つめた。
「もう嫌か?」
「いえ。また来たいです」
「じゃあそのうち来よう」
そんな。いいんだろうか。それこそほんとにデートみたいだ。でも、こんなの夢みたいで、夢オチだったなんてことはないだろうか。陸さんが優しいのは前からだけど、最近貼られていた透明のバリアが少し薄くなった気がするのは気のせいだろうか。
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