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君のことを考える1
2月上旬。
今日は遅ればせながら陸さんの誕生日を祝う。陸さんの誕生日は平日だったので帰宅が遅いので当日に祝うことができないので、その代わり土曜日の今日お誕生日を祝うべく食事メニューを考えていた。もちろん、プレゼントも用意した。
「陸さん、お誕生日おめでとうございます」
お昼ご飯を食べたところで陸さんに誕生日プレゼントを渡す。プレゼントは本革のカバー付きのシステム手帳と名入れ万年筆。仕事のスケジュールは寺岡さんが把握しているけれど、陸さんだってちょっとしたメモを取りたいときだってあるだろうから、そのときに使えるものとしてシステム手帳と名入れ万年筆を選んだ。
最初はよく使うから名刺入れにしようと思っていたけれど、ある日陸さんがいい名刺入れを持っているのを見て却下した。
システム手帳ももしかしたら持っているかもしれないけれど、革のカバーをつけたので大丈夫かなと思うことにした。そしていいペンなんてもう持ってると思うけど、名前を入れることで陸さんのペンになると思って。名前入りのペンを使っている人は少ないんじゃないかなと思ったから。
陸さんが丁寧に包装紙を開けていくのを見ている。気に入らないってことはないよね? と少し不安になる。
出てきたシステム手帳と万年筆の入っているケース。ケースを開け、万年筆を見る。
「名入れか」
「はい。陸さんだけの万年筆です」
「システム手帳はいいな。色々メモが取れる。今は適当に買ったやつを使っているから助かった。月曜日から早速使わせて貰う」
良かった。使って貰える。そうわかってホッとする。持っていたり、気に入らなかったりしたらどうしようかとほんの少し心配だったから。特にシステム手帳は。
「それでお誕生日のお祝い料理は夜にしますね」
「もうこれだけで十分だ」
「いいえ。やっぱり美味しいもの食べないとダメですよ。まずはケーキ食べましょう。ベイクドチーズタルトです。甘くない方がいいかと思って生クリームやチョコレートは使わないシンプルなものにしました」
ケーキは朝から作った。とはいえ、タルトはビスケットを使っているのでさほど大変ではなかったけれど。それに、ベイクドチーズタルトは生クリームを使ったような甘さはないので陸さんでも食べられるかなと思った。
見ていると多少の甘いものは食べられるみたいだけど、そういうものは量は少ないし、できるだけ甘さ控えめなのを選んでいるのも見ているからチーズケーキなら食べられるかなと思ったのだ。
「今コーヒー淹れますから待っててくださいね」
今日のコーヒーは陸さんの好きなブルマンだ。
「何から何まですまない」
「いいえ。お誕生日なんですから」
これで陸さんは31歳になった。31歳か。バリバリと仕事が出来る年齢になってきていると思う。いや、もう既にばりばりと仕事をしているけれど。なにしろ天下の宮村製菓の常務取締役だ。
帰宅は毎日22時以降。21時台に帰ってくるのは少ない。そんな多忙な陸さんだから週末は家でリラックスして欲しいし、食事も美味しいものをゆっくりと食べて欲しいと思って週末の食事を作っている。
それでも今日はお誕生日祝いの料理なので、夜は簡単なコース料理にした。
前菜に生ハム乗せのガーリックチーズのブルスケッタ。サラダはサラダチキンのシーザーサラダ。スープはシンプルにコーンポタージュ。メインはチーズ乗せイタリアンチキン。そして、さっきのケーキ以外にパンナコッタを用意した。
あまり時間をかけずに、でもちょっといつもと違うメニューを選んだつもりだ。少なくともいつもはブルスケッタなんて作らない。
「コーヒーはいりました」
そう言ってソファーの前のローテーブルに置くと陸さんは早速口をつける。
「うん。やっぱり美味いな」
そう言う陸さんの顔は優しい表情をしていた。結婚した当初は見られなかった顔だけど、最近はたまに見れるようになってきた。この顔を見ることができる今は幸せだと思っている。
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