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番の約束3

 僕がお風呂からあがってすぐに夕食が運ばれてきた。テーブルに列べられていくのは立派な懐石料理だ。  旬菜盛、造り、吸物、煮物、焼物、替り、酢物、ご飯にお漬物、小吸、水菓子。どれもが美しく飾られている。美味しそう。  今日の焼物は金目鯛西京焼きで、替りはステーキだ。こういうところだからきっと和牛あたりだろう。  仲居さんがさがったところで食事に手をつける。旬菜盛には車海老もあり、僕は真っ先に口に入れた。美味しい!  「陸さん、美味しいです!」 「ここの食事は美味いんだ。気に入ってくれたなら良かった」  ここは絶対に庶民では手が届かないだろうところだ。でも、宿泊費はそれに見合うサービスだって言っていたから、これだけの豪華な懐石料理が出てくるんだろう。  僕は美味しいものを食べるのが好きだから、この懐石料理は見た目だけでなく美味しく頂く。  次に造りはと見ると、桜鯛、中トロ、イカだった。まず最初に中トロを口にすると、口の中でとろりととけてしまう。イカもとても柔らかくて新鮮なのがよくわかる。イカって固くなるから新鮮かどうかがすぐにわかる。   「これ、懐石料理でもランクが高そう」 「そうだな。安い懐石ではないな。そこらの料理店ではここまでのは出てこない」 「会食で使うようなお店と比べてもですか?」  僕は会食なんて出たことないからわからない。 「店による。ほんとにいいところだとこれくらいの料理は出てくるけれど、安いところだとここまでのは出てこない」  そうなんだ。じゃあやっぱりランクとしては高いんだな。 「今度、料亭にでも行くか。考えてみたら、子供の頃から結婚は決まっていることだったから顔合わせも結納もなかったからな。顔合わせでもあれば料亭を使ってもおかしくないんだが」  そうだ。僕たちの場合は顔合わせなんて必要なく、会うのは宮村家の別荘だったり、それか宮村家だったのでそういったのがなかった。  そうか。普通はそういうときに料亭っていう選択肢があるんだな。そういう機会のなかった僕は、いまだ1度も料亭に行ったことがない。だから、行ってみたい。 「料亭、行ってみたいです。あ、でもあまり高くなくても……」 「ランクのいいところじゃないとこれくらいの料理は食べられないぞ」 「んと、それなら中くらいで」  そう言うと陸さんは笑った。 「それならクリスマスか千景の誕生日にでも行くか。もちろんランクは上で」  お祝いのときか。いや、クリスマスはまだしも僕の誕生日にだなんて贅沢だ。と、そこで思う。クリスマスって仕事忙しいのでは?  「クリスマスって忙しくないですか? お菓子業界大変なときだと思うんですが」 「うちの会社でクリスマスが忙しいのはクリスマス前だ。当日になると材料の入荷も必要ないから落ち着く。それに俺はその現場にはいないからな」  言われてみて気づく。確かにそうだ。クリスマス当日で忙しいのはお菓子屋さんの方だ。 「だからクリスマスは食事に行けるから楽しみにしてろ」  ここでこんな贅沢をして、クリスマスにも美味しい懐石料理を食べに行けるなんて幸せだな、と思いながらも手を進める。  僕の中のメインのステーキを口に入れるとほろほろととけていき、噛む必要がないんじゃないかというくらいだった。これ、絶対に国産のいい和牛だ。でも、ステーキってソースを和の食材に変えるだけでこんな懐石料理に合うんだな。  もう口に入れる全てのものが美味しくて、量が多いと思っていた食事だけどデザートの水菓子までしっかりと完食した。 「美味しかったです。こんなに美味しい懐石は初めてです」 「そうか。じゃあ宿をここにした理由もわかってくれるか」 「そうですね。これだけの立派の部屋で露天風呂があって、これだけの美味しい懐石料理まで食べられるのなら、ここを選んでしまうのもわかります」  ここの宿泊料がいくらかはわからないけれど、きっととんでもなく高い。でも、これだけのサービスなら安いはずがない。でも、価格に見合うだけのサービスなのだと思う。  それにしてもクリスマスに懐石料理に連れて行って貰えるなんて贅沢な約束までしてしまった。うん、すっごく楽しみだ。

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