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番の約束2

 シャワーを浴びて体を洗ってからお風呂に浸かる。これは温泉露天風呂になっているけれど、デッキにあるため屋根があるので雨の日や雪の日でも入れるようになっている。こういうのっていいな。  箱根の渓谷を見ながら思い出すのは昼食のときのこと。西賀にも言ったけれど、陸さんが僕のことを好きになってくれるなんて思いもしなかった。  何年前になるか忘れてしまったけれど、陸さんが愛おしそうにスマホを弄っているのを見かけてしまったときはショックだった。  僕とは婚約者だけど、心がないのはわかっていた。でも、結婚すればいつか好きになってくれるかもしれない。そう思ったんだ。でも、ほんとに愛おしそうな顔をしていたから、僕の入る隙なんてないんだと思ったら悲しかった。  だからこの想いは一生叶わないかもしれない。そう思っていた。仮にそのときの人と別れたとしても、振り向いてくれるとは限らないから。  僕はとくに綺麗でもないし、可愛くもない。ほんとに平凡なタイプだ。だから自分に自信なんてなかったし。そんな風だから西賀にワンチャンあると言われたって、そんなことないと思ってた。  なのに陸さんは僕を好きになってくれた。でも、夢じゃないよね? そう思って頬をつねってみると痛いからきっと現実なのだろう。ほんとに夢を見ているみたいだ。  そこでふと気づいた。これで心の通った本物の夫夫になるとして、番契約はどうするんだろう。結婚は紙切れ一枚で離婚ができるけれど、番契約は一生ものだ。  いや、アルファは他のオメガと契約を結ぶことはできるけれど、オメガは番契約をしたアルファしか誘惑しなくなるし、触れ合うのも拒否するというから他のアルファと契約を結ぶことはできないだろう。  だからもし離婚しても僕は一生他のアルファと契約は結べない。だから番契約は慎重になる。  もし番契約をしようと言われたとしたら、僕はどうしたいだろう。それでも番になりたいか? なりたい。万が一離婚になんてなっても僕は他の人を誘惑したいとは思わないだろう。僕は陸さんだけでいいんだ。それなら迷うことはない。陸さんと番になりたい。  だから陸さんから番のことを言われたら僕は番になりたいとハッキリ言おう。  陸さんと結婚できるだけでなく、番にもなれたら僕はなんて幸せ者なんだろう。なんて、番のことなんてなにも言われてないのに幸せな気持ちになるなんて早すぎるな。  それでも考えてしまうのは無理ないだろう? 好きだなんて言われたんだから。そう思うとお風呂の中で小さくジタバタしてしまう。  そんな風にお風呂の中で考え事をしていると、陸さんの声が聞こえてきた。 「千景、いくら露天風呂とは言え、そんなに長く浸かってるとのぼせるぞ。大丈夫か?」  声の方を見ると、部屋からデッキに顔を出した陸さんがいた。僕は慌てて体を隠す。すると陸さんは小さく笑った。 「大丈夫だよ、体は見えてない。頭だけだ」  良かった。見えてなかった。   「温泉を堪能したなら早くあがれ。もうすぐ夕食が来る」  え? もうそんなに時間たってたの? 早くあがらなきゃ。 「すいません、もうあがります」 「ん。じゃあ俺はベッドのところに行ってるからあがってこい」 「はい」  陸さんが部屋の中に入ると、僕は慌ててお湯から出て体を拭いて甚平を着て部屋に入った。

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