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番の約束8

 翌日の朝食も素晴らしかった。朝は作るのが面倒くさいのでパンにしている身としては和食というのが嬉しい。ほんとは作らないといけないんだけど。だけど昨夜の夕食といい、ここは料理が美味しいなと思う。 「朝食も美味しいですね」 「美味いだろう? この食事であの部屋なら多少高くてもここに泊まりたいと思うんだよ」  確かに、あれだけの広い部屋に温泉、そして美味しい食事。一泊いくらか怖くて聞いてないけど、多少値が張るのは当然だと思う。 「よし、そろそろ行くか」 「はい」  旅館を出て車でガラスの森美術館へと行く。仙石原の方へと車は進み、しばらく行くとガラスの森美術館に着いた。建物の外観は西洋のお伽話に出てきそうな可愛い建物だった。  案内図を見るととても広くてびっくりした。ここ、全部見るには何時間かかるんだろう。まずは受付棟を抜け、光の回廊を通ってメイン施設であるベネチアングラス美術館へと行く。  部屋に入って真っ先に目についたのは色ガラスのシャンデリア。こんなところにまでガラスを使っているのがすごい。そして展示されているのはガラスだけかと思いきや中世イタリアの家具・調度品も展示されていて見応えがある。  建物はこのベネチアングラスだけでなく、他にも現代ガラスの美術館もある。でも今日は誓いの鐘がお目当てだから展示物はサラッと回るに留めて、広い庭に出ることにした。  そして驚いたのが、庭にもガラスで作られたものがあるということ。花の中にガラスで作られた花まであって立派だとしか言いようがない。 「すごいですね、ここ」 「すごいだろう。敷地内の至るところにガラスが飾られているんだ」 「ここ、全部回るのって大変そう」 「そうだな。かなり時間がかかるな。気に入ったのならまたくればいい。箱根まではそんなに時間かからないから」 「来たいです!」 「紫陽花の季節も見物だぞ」 「わ〜見たいな。薔薇の季節も綺麗そうだし」 「じゃあまた来よう」 「はい!」  そんな話しをしながら僕たちは誓いの鐘に続く小径を歩いていた。木々に囲まれたその小径は狭くて、ほんとにこの先にあるのか不安になってしまう。でも、所々に看板が出ているのだから間違いはないのだろう。  途中にはガラスの東屋があって、ここがガラスの森美術館だということを思い出す。東屋を後にまだまだ下っていくと、四隅に円柱を持つ泉があり、飾られているのはダイアナだった。  そして女神像の前に経つのが今日の目当ての誓いの鐘だった。そこはもっと広いのかと思ったら意外とこじんまりとしているところだった。もちろん鐘の周りにもガラスが飾られているし、周りの草木の間にも面白い形をしたガラスのモニュメントがある。 「これから先、なにがあっても千景を守ると誓うよ」  陸さんが鐘を鳴らしてそう誓ってくれる。だから僕も誓うんだ。 「これから先、ずっと陸さんの隣にいます」  結婚式のとき僕は心から誓ったけれど、今日、再度誓う。この先なにがあっても陸さんの隣にいようと。 「ありがとう。千景」 「いいえ。僕こそ、ありがとうございます」  そして2人だけで誓いあい、戻ろうとしたところで藤棚があった。もちろん今は時期じゃないから藤は咲いていないんだけど、そこにはガラスでできた藤が咲いていた。 「すごい!綺麗!」 「強羅公園もそうだが、今度は紫陽花の季節に来るか」 「来たいです!」 「じゃあ来年にでも来よう」 「はい!」  そんな風に何気なく未来のことを約束できることがとても嬉しかった。  

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