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再スタート3

「千景。悪いが今日はリモートではできないことだから出社しなきゃいけない。急ぎの仕事だけ終わらせたら帰ってくるから」  そう言って陸さんは仕事へと行った。今回ヒートになって陸さんが僕の項を噛んでくれて、僕たちは番になった。そして陸さんに散々抱いて貰った。  今日はヒートは大分落ち着いてきているし、1人で熱を逃がせばなんとかなるくらいだったので陸さんを送り出した。  そして陸さんを送り出して、溜まってしまった洗濯をしようとしたのがまずかった。部屋着から匂う陸さんのフェロモンの匂いにあてられてしまった。  その部屋着を持ってベッドに横になる。部屋着に顔をうずめ、大きく息を吸って陸さんのフェロモンで肺をいっぱいにする。そのフェロモンは僕のオメガ性を刺激するくせにこの世で一番安心できる匂いでもあった。  陸さんに抱きしめられたい。僕の頭はそれでいっぱいになる。でも、陸さんは仕事に行った。早く帰ってくるとは言ってたけど、何時頃帰ってくるかはわからない。とにかく陸さんの匂いに包まれたいと思った僕はウォークインクローゼットに行った。  ウォークインクローゼットの中には僕の服もあるけれど、陸さんの服もいっぱいあるので部屋着一枚分よりもたくさんの陸さんの匂いに包まれて僕は恍惚となる。  陸さんに抱きしめられているみたいで僕はしばらくそこに座り込んでいた。だけど、次第に自分の匂いも鼻につき、陸さんだけの匂いじゃないことが気になってくる。僕が包まれたいのは陸さんの匂いであって自分の匂いじゃない。そう思った僕は陸さんの服だけに包まれようと考えた。  陸さんの匂いのするニットやTシャツなどを持ち、自分の部屋のベッドに運ぶ。でも2、3枚では足りなくて再度ウォークインクローゼットに戻り、今度は両手いっぱいの陸さんの服を持って自分の部屋に戻った。  自分のベッドに築かれた陸さんの服の山。この山をどうしようか考えて自分の寝るスペースだけあけて、その周りを陸さんの服で取り囲む。  上手く取り囲むと、いそいそとベッドに横になる。陸さんの匂いに包まれて安心するけれど、足元に置かれた陸さんの服がもったいないと思い、布団のように自分の体にかけた。  そうすると、自分の中の何かが、これだ!と伝える。これで正解らしい。陸さんの匂いに包まれて僕は目を瞑る。すると、今まで感じたこともない安心感に包まれる。 「早く帰ってこないかな」  この匂いの中は最高に安心できる。でも、陸さん本人に抱きしめられたらもっともっと安心する。だからそれまではここに包まれていよう。  洗濯をして掃除もしようと思ってた。でも、この匂いに包まれてしまったらそれどころじゃない。洗濯も掃除も明日やればいい。今の自分がすることはこの中にいることだ。だから陸さんが帰ってくるまでこの匂いの中にくるまっていよう。そっと目を瞑ると安心感に包まれ、僕はゆっくりと眠りに落ちていった。

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