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番外編7
行ったレストランはイタリア料理で、陸さんは敢えてコース料理にしなかった。理由はパスタもピザも美味しいから両方選ぶためだと言う。確かにイタリア料理でもメインはお肉か魚だ。でもお肉も魚もいらないときはコースにしない方がいい。
「パスタもピザも美味いから、好きなのを選ぼう」
そう言って僕たちが選んだのは、サラダにはサーモンとルッコラのサラダ、パスタはうにのパスタ、ピザはシンプルにマルゲリータ、デザートに陸さんはマンゴーのジェラート、僕は定番のティラミスにした。
お店は1階で陸さんはテラス席を予約してくれていた。夜は海は真っ暗になってしまうけど、松明が等間隔に焚かれているのでちょっとした演出になっている。
「美味しい!」
僕はうにのパスタを口に入れた瞬間にそう言った。正直、日本じゃないから生臭さはないかなと心配だったけれど、それは杞憂だったようだ。
僕はうにが好きだけど、お寿司以外でうにを食べたのは初めてだった。
「お前はうにが好きだもんな」
陸さんはそう言って微笑む。陸さんの実家に行ってお寿司をとるときはお義母様が僕のためにうにを別にとってくれるから、陸さんも僕がうにを好きなのは当然知っているのだ。
僕は子供の頃からうにが好きで、お母さんには、うには高いのにとよく言われていた。お義母様はそんなこと言わないけれど、それは宮村家と天谷家の懐事情の差だと思う。でも、行く度にお母様が追加でうにを入れてくれているのは申し訳ないとも思う。
「うに、美味しいじゃないですか」
「確かに美味いけど、千景ほどは食べないよ」
「お義母様がいつも追加でうにをとってくれるから。お義母様、優しいから」
「優しいか? 確かに千景のことは可愛がっているけど、優しいとは思わないな」
陸さんが眉間にわずかな皺を寄せてそう言う。お義母様と陸さんって相性が悪いというか、単に陸さんがお義母様の前ではぶっきらぼうだからお義母様が怒るんだと思う。でも、それ以外のときのお義母様は優しい。この親子関係はなかなか難しい。
「まぁ母さんのことは置いておいてしっかり食べておけ」
「はい。でも、陸さんもしっかり食べてくださいね」
さっきから陸さんがあまり食べていないのを知っている。きっと僕に食べさせるためだろう。さりげなく、陸さんは優しいから。だからしっかり言っておかないとパスタのほとんどを僕が食べるなんてことになりかねない。
「ああ。食べるよ」
そう笑って陸さんもパスタに手をつけているのでホッとする。
うにのパスタに少し遅れて出てきたのがマルゲリータだ。シンプルで定番メニューだけど、だからこそ味がわかってしまうと思う。ここのマルゲリータは少しチーズが多めなようで、チーズ好きな僕としては嬉しい。味はというと、もちろん美味しい。
「ここのレストラン、美味しいですね」
「だろう? 珍しいキッズメニューもあるんだ」
「キッズメニュー? それは珍しいですね。聞いたことないです」
「俺もここ以外で見たことないよ。でも、おかげで子供の頃からここで食べていた」
あのコンドミニアムは随分前に購入したらしく、陸さんは長期休みのときにハワイに来ていたというから、この辺のことは陸さんは詳しい。
パスタとピザでお腹を満たした後はデザートだ。定番のティラミスはアメリカらしくなく甘すぎず美味しかった。マンゴーは少し甘みの強いフルーツだけど、フルーツの甘みは大丈夫らしい。
「もうお腹いっぱいです。美味しかったぁ」
「満足したか?」
「大満足です」
このメニューで味で量で満足じゃなかったら怖い。白人向けだから量は日本で食べるより多いのだから。
「なら良かった。また来よう」
「はい!」
そうしてハワイの夜は更けていった。
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