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第1話 お願い

1話 お願い 「ちょっといいか?」  そうメッセージがきたのが五分前、こんな時間にと少しイラつきながらガルゴは「断る。」とだけ送ってため息をついた。  相手が相手だった、仕事終わりに相手にするには少し面倒くさかった。 「いや、ガルゴの家にもういる。寒い。」  そう返ってきて、眉間のしわが深くなる。ガルゴは刈り上げの金髪をかき回して、仕方ないと帰る支度をする。  まだ夜は寒い季節だ。体調でも壊されても困ると言い聞かせ、メッセージを送ってきたリョウの顔を思い出す。  車を走らせ少しすると見慣れた家とめんどくさい男が見える。男は手を振りながら、こちらを待っている。少し長い黒髪を揺らしながらへらへらと笑っている。 「いやあ、泊めてくんない?」  停車して外に出るや否やそう口にする。眉を下げて手を合わせてあどけなく笑いながら言う。  「無理だ帰れ。行きなり押しかけて泊めろってか?疲れてるんだ……。」  「えー!!家追い出されちゃったんだよー、このままじゃ財布もないし寒くて死んじゃう!」  リョウはパーカーとズボンのポケットを叩きスマホの他には何も持ってないとアピールして訴えかける。それを冷ややかに呆れながら見てガルゴはため息をつく。  「はぁ、また女絡みか?懲りない奴だなお前は。」  「あはは!ほぼ正解!今回は今カノと元カレが揉めちゃって、色々合って俺が追い出されちゃった!」  「ふん、自業自得だな。遊び人。」  「ふーんだ。いつものことでしょ?それで?泊めてくれる?」  「調子にのんじゃねぇーよ。」  「えー!泊めてよー!なんでもするからさー!」と大声でわめきたてる。  「うるせぇ……わかったから黙れ。」 頭を抱えながら仕方なくガルゴは彼を泊めることにする。思い返してみると何度もこんなことがあったなと、その度に丸め込まれてきたとガルゴは思い出すがこれ以上悩む必要ももうないと思考を止める。  「やったー!なら、お礼で言うこと聞くね!なんでも言ってよ!」とリョウは目を細めてニヤニヤ笑う。  「チッ。別になにもしなくて言い。いや、するなよ何もするなよ。」ガルゴはめんどくさそうに自身の家にリョウを招き入れる。  ガルゴの家は白と黒を基調としたシンプルな内装であり、この家に住む本人はあんまり家具に興味がなく機能性を追求したような部屋である。  黒色のソファを指差して言う。  「あそこ使え。毛布は持ってきてやる、感謝しろよな。」  「ういー、どうも~。」と気のない返事をしてガルゴを見るリョウ。  「どうした?」  「いやぁーその、お風呂もお借りしたくてですね?その、色々あってここにきているからさ。ほら。」と言ってリョウはパーカーの前を開ける、中には何も着ておらず肌がそのまま見える。肌には古傷や新しい傷が沢山ある。  「急いでたからね……ほら、逃げてきたようなものだし?汗流したいなーって。あと服も…。」  「ああ、いいぞ。着替えとかは前お前が置いてったやつとかがあるからそれ着ろよ。」  「やったー!ガルゴやっさしいー!」  そう言ってリョウはガルゴに抱きつこうとするが、それを慣れたように避け、ガルゴはさっさと風呂にはいることを促す。  それに素直に応じてリョウは脱衣所へ向かっていく。その背中を見ながらため息をまた大きくつく。リョウの体が脳裏に浮かぶ。中学の頃より多くなったその傷跡を思い出す。忘れっぽいから覚えておくためにつけてると楽しそうに笑うリョウ。今までいろんなやつにつけられたその傷を愛おしそうに大切そうに撫でるリョウ。中学や高校の頃の会話が今も鮮明に思い出せる。  自然と拳に力が入りその傷みはっとしてガルゴはリョウの着替えを用意しに重い足で自室へ向かった。  以前置いてった服を用意して、テレビを見て待っているとトタトタと駆けてくる音が聞こえる。 「この服ガルゴの家にあったんだー!ずっと無くしたんだと思ってたー!」 「はぁ……この前置いてったんだよ。暑いからいらないとか言ってよ。」 「そうだっけ?それこの前の夏頃のこと?」 「ああ、そうだよ。ほら、さっさと寝ろ。俺もさっさと入って寝るから。」 「えー!もっとお話……。」  ガルゴは見向きもせず風呂場に向かう。ガルゴが風呂からあがるとリビングは明かりが消え、ソファにリョウが眠っている。リョウは黒い髪と顔を少し出して布団にくるまり丸くなっている。夜も遅く、時々外から車が走る音が聞こえるだけで、あとはリョウの寝息と自身の心臓の音だった。  ガルゴは自室へ向かい、ベッドに倒れ込む。 「ちっ……なんでこんなことになったんだか……。」  ――  翌日、ガルゴが目を覚ましリビングへ向かうとテーブルに置き書きが残されリョウはいなくなっていた。 「ありがとねー!またね!」と置き書きにはあり、ガルゴはそれをくしゃくしゃにして捨てる。 「……好き勝手しやがって。」  しかし、再会は早く。会社の喫煙所でリョウのことを見かける。 「おい……」 「……なぁに?」とリョウはタバコをふかしながらニタニタ笑う。ガルゴが喫煙所に入るとより口元をつり上げながら言う。 「代表取締役であろうお方がこんなところに……今やタバコを吸ってるってだけで嫌われる時代ですよ?」 「うるせーよ。」  それからはどちらとも口をきかず黙ったままタバコを吸っていた。  ガルゴとリョウは中学からの仲だが、ガルゴは家の仕事を受け継ぎ取締役となった。リョウは中学の頃からフラフラと生きていたが、ガルゴが拾い仕事を与えた。 「それじゃ」と手をヒラヒラさせてリョウが先に出ていく。ガルゴはそれをタバコの煙越しに見つめる。  ――  その夜、ガルゴが帰宅する時間にリョウは駐車場でタバコをふかしていた。 「なんだ?なんか用か?」 「いやぁ……昨日の礼でもしようかと。ほらお酒飲みたくない?」酒を飲むようなジェスチャーをしてニタニタする。  目を細めてガルゴはリョウを見る。 「へぇ……珍しいな礼なんて。どういう風の吹き回しだ?」 「別にぃ……ほら、どうするんだ?」 「……行かないとは言ってねぇだろ?」  仕事専用の専属の運転手にリョウは行き先を伝え、後部座席に二人は座る。 「久しぶりなんじゃない?こうやって二人で飲みに行くのは」とリョウはうっすら笑いながら問いかける。 「そうだな……。」  ガルゴは学生時代を思い出す、二人で遊び明かしたりしたが、社会人となり家の警備会社を継ぐと立場が変わりまともに話すことは稀であり。飲みに行くなんてこれが初めてかもしれないと考える。ガルゴはゆっくりリョウの方を見る。リョウはガルゴの方を見ているが繁華街に入り窓の外が明るくなって顔が影になる。 「ねえ……ガルゴ、お願いがあるんだ……。」 「なんだよ?」 「いや、やっぱりなんでもない……ほら、もう少しで着くよ。」  ガルゴは聞き出そうとしたが車が停車したことにより口を閉じる。 「ほら、いい感じの雰囲気でしょ?」とリョウは店を指差して楽しそうな声で言う。 「ああ……。」  運転手に帰る時間を言いつけて二人は店に入る。店は落ち着いた雰囲気で、カウンター席に数人が座り酒をのみ。個室からは少し賑やかそうな音がする。リョウは個室予約してあるからと店員と話す。  二階の個室に案内され、向かい合うように座敷に座る。 「ふふ……ここ焼き鳥が美味しいんだよ。まずはビールでぐいっといっちゃおう」 「ああ……お前、来たことあるのか。」 「まーね、君と来るならどうせなら美味しい店がいいだろ?」  その後は近状のことを話したり、酒が入れば昔話に花を咲かせた。帰る頃には二人で完全にできあがり、ふらふらと夜風に吹かれながら車に乗る。乗った後は会話はなく、うつらうつらしながら途中までリョウを届けてガルゴも家に帰る。遅くまで付き合わせた運転手にボーナスを約束しふらふらと一人部屋の中に入る。  ふと、ソファに見慣れないものがあると気づく、それはリョウの着替えだった。昨日来たとき洗濯したもので渡そうと置いておいたが忘れて家を出たことを思い出す。  ガルゴはため息を着き、さっさと着替えて眠る準備をする。

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