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第2話 野良猫
2話 野良猫
野良猫
休日のリョウはいつも家でごろごろしては、気まぐれに相手を探して町に出たり。恋人がいる時には呼び出して遊び尽くす。
中学の頃にはこういった生活が身に付き繰り返してきてた。今日もベッドの上で大きな伸びをしてめんどくさそうに起き上がる。恋人と別れて久しく、元カノの面影はもう自室にはなく物が散乱してる。
クローゼットに無理矢理積めた服の中から今日の気分のものを引っ張り抜き、着替える。歯を磨いたり顔を洗うと、水を飲み出掛ける。
朝日から逃げるように日陰を通って町に出る。
「はぁ……」
鬱陶しい日の光に思わずため息が出る。すると、ふとガルゴを思い出す。リョウは少し考えるがさっさと止めて、横断歩道を渡る。
ガルゴとは少し前に飲みに行ったきり話してないと思い出す。ガルゴは学生の時から真面目で真っ直ぐだったが、社会人になるとよりその性質が強まった。
ガルゴはその見た目や言動から少し乱暴なイメージを持たれることが昔から多く、社内で過ごしているとそらは今も続いているようにリョウには感じられた。
「ふぅ……。」
日陰に入り落ち着く。リョウには今のガルゴは少しつまらなかった。昔の方が自由だったし、その乱暴さも魅力だった。今はがんじからめで、爆発しそうな乱暴さでリョウから見てもいかにも危険そうだった。
だからといってガルゴが元に戻ることは望まなかった。家を継ぐのを決めたのはガルゴ本人で、社会人になれば人は嫌でも変わるだろうと考える。そこまで考えて、リョウは変わらない自分を自傷的に鼻で笑った。
――
ガルゴは今日出社し、仕事をこなしていた。昼休みになるとふと気になってリョウにメッセージを送る。めったにこちらからは送らないが時々送ることがある。
野生の感、もしくは長年の付き合いによる経験からの感で何か無茶やったりする前にリョウを止めるためのものだった。ふと、あの頃の赤い記憶が甦る。
すぐさま現実に意識を戻し、メッセージの返事を待つ。しかし昼休み中には返信は来ず、仕事に戻ることに。メッセージが帰ってこないことはよくあることだったのであまり気にしないように仕事していく。
資料に目を通したり、打ち合わせに参加したりなどしているうちに夜になり深けていく。メッセージはいつまでたっても来ない。
――
リョウはネットであった人らとのパーティーに参加していた。パーティーといってもお喋りは無く、ホテルで複数人と楽しんでいた。昼間から自分より大きい男の下で笑ったり、初な年下をもてあそんだ。
部屋には代わる代わる人が出入りした。皆考えることは同じで足りなくなったら入って、満足したら出ていく。そんな欲に従順な楽しみを貪り、そろそろ疲れたし飽きたなと感じるとふらりとリョウはホテルを後にする。
家に帰りシャワーで適当に体を洗い、ろくに乾かさずベッドに横たわる。
「ふぅ……」
ベッドに横たわるとより疲れが大きく感じられリョウはそのまま目を閉じる。
――
ガルゴは夜になり確認するもメッセージが帰ってこないことにため息をつきながら、何回も同じようなこと繰り返してるため諦めも半分に心配する。リョウの趣味を否定するつもりはないが、だとしてもガルゴはリョウが心配だった。しかしそれは、ただリョウを心配するという純粋な気持ちならどれ程よかったかとガルゴは思う。
血まみれのリョウとナイフを持った自身を思い出すガルゴ。中学の時にあった出来事は今でも重くのしかかる。
夜も遅くなり仕方なくそのままガルゴはスマホを閉じ帰宅する。思い出した記憶から逃れるために酒でも飲むかと考えていると、家の近くに見覚えのある姿を見かける。
「……!」
窓の方を注目すると、やはりリョウがそこにいた。
ガルゴはさっさと降りて、運転手を帰す。
「リョウ……!どうして、ここに?」
「別にぃ……?」
少し驚いた表情を見せたガルゴを面白そうに観察するかのようにじっくり見ながら答える。リョウはいつもふらりと居なくなっては現れる。最近というより、社会人になってからはあまりそういったことが無かった。忙しく気にしてなかったが、またそういう行動をしてガルゴは少し呆れる。
「それより、お腹空いた。」
そして、そんなおかしなことを言い出した。お肉食べたいとそう言ってリョウはガルゴを見上げる。リョウは黒いシャツを着てうっすら笑みを浮かべながら何事もなかったような顔をして彼を見ている。
ガルゴは少しため息をつくが、リョウを連れて近くのファミレスに行く。
二人はかなり大きめのステーキを頼みガツガツと食べた。昔から肉好きは共通していてよく食べに来ていた。それにしても今日のリョウはよく食べた。
「そんなにお腹空いてたのか。」
「朝から食ってないし、体力使った。」
「食べろよ。普通に朝から。」
「めんどくさかった。それに食欲より性欲の方が勝ってた。」
「……そうかよ。」
その後食べ終わると、リョウが財布を持ってきてないことにガルゴは怒るが、聞く耳を持たずさっさと店を出てしまう。
「てめぇ……この野郎。」
店を出るなりそう言い放つが、リョウは手をヒラヒラさせておどける。
「俺ならいつものことでしょ?」
「そろそろ払えよ。昔から奢らされてるんたが?」
イライラしながら眉間にシワを寄せリョウを見る。それを見ずにさっさと前に行ってしまう。
「おい……。」
話しかけても何も言わずそのまま前を行く。結局ガルゴの家の前まで何も話さず。次に口を開いたかと思えば。
「泊めて」
ガルゴは目を閉じて深呼吸をする。言っても仕方ないとガルゴはリョウを家に上げる。
寝る支度などしていると先にソファに寝っ転がっていたリョウがガルゴの部屋に無断で入ってくる。
「寝ないの?」
「もう少しで寝る。」
「ふーん……。」
そう言うと跳び跳ねてベッドにダイブする。
「おい……。」
嫌そうな顔をしてリョウを睨み付ける。
それを面白そうにニヤニヤと見ながら、ガルゴの体をつついたりする。
「やめろ……鬱陶しい。」
少し離して蹴り上げると嬉しそうに足に纏わりついてくる。
「遊ぶなら後だ。」
そう言ってリョウを押し退ける。ガルゴはこういったリョウの行動をどうしたらいいか未だ考えあぐねている。子供っぽいだけならいいがそうではないし、頭を抱える問題だった。
それを聞くとリョウは大人しくなり、ベッドの上でゴロゴロし始めた。ガルゴの自室に物音だけが響く。紙をめくる音やガルゴが動き衣擦れの音がする。
それを見つめるリョウ。白く光る蛍光灯が眩しく目を細める。四肢をだらりとさせぼーっとしていると元カノの別れ際の言葉を思い出す。それを何度も反芻しながら考え込む。そしてふと気になった、ガルゴはどこまで許してくれるのだろう。
ガルゴはなんだかんだ言って色々世話してくれているがそれはどこまでなのか、そして自身の確認のためにガルゴの背中を見つめる。早く終われ、そう思いながら明日の支度をするガルゴをじっと見つめた。
少しして大きなため息と共にガルゴが振り返る。
「それで?何のようだ?」
「こっちに来て」
「はいはい……。」
少し身を乗り出し、ベッドに手をつく。寝間着が柔らかい素材のせいか、筋肉質な体がいつものスーツの時より分かりやすい。その太い腕をリョウは指でゆっくり撫で上げる。
「……ガルゴ。」
「なんだよ?」
少し困惑したようにリョウを見下げる。そのままリョウは腕を伝い鎖骨まで指を伸ばす。ゆっくりとした手つきで、反応を見るように彼を見上げる。喉に届きそうな頃にガルゴは大きく唾を飲み込みリョウの手を掴む。
「おい……やめろ。」
その目は少しだけ中学その頃に戻っているような気がリョウにはした。あの頃のまだ幼さと乱暴さを併せ持っていたガルゴ。そんなことを考えていると、リョウは顎を掴まれガルゴの方を向けさせられる。
「今日はもう寝ろ……。な?わかったか。」
と、なんとも言えない顔であやすように言うので、ちょっとしたいたずら心でリョウは腕をガルゴに回して。
「好きにしていいんだけど?」
すると、ガルゴは驚いた表情をし、手や顔を掴む力が強くなった。
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