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第3話 首輪

3話 首輪 首輪 リョウは結局ガルゴの家から追い出され自宅へ向かっていた。追い出されて少し腹が立っているが好きにしていいと言った時のガルゴの表情を思い出す。思わずニヤニヤと口角が上がってしまい、誰も見ていないのに手で口を隠す。ガルゴが動揺したり、強い感情を見せるとリョウはすごく興奮した。ガルゴは自他共に認める芯のある人物であり、乱暴ではあるがそれはそういった性質なだけでリョウはそれでは満足できない。リョウはガルゴがもっと強い暴力性を持っていることを知っていた。さっきはそれが少しだけ見れて満足した。  ガルゴの掴む手がより強くなったこと、あんな顔をしたことを振り返りながら鼻唄を歌う。そっと掴まれたところ撫でてうっとりとする。きっと、アザになってるに違いないと鏡で自分の姿を見る瞬間を夢想する。  いつかきっとまた、その手で傷つけてもらうことを想像し、体を震わせる。  ――  ガルゴはベッドから飛び上がる。体は震え、心臓の音がうるさく。まるで耳元でどくどくと脈打っているかのようだった。  一際大きなため息をつき、辺りを見渡し全身から力が抜ける。ばたんとベッドに倒れ込み先程の夢を思い出す。  首輪をリョウにつけた。  逃げないように、他のところに行かないように。首輪をつけて眠るリョウを幸せそうにガルゴ自身が見つめていた。思い返すと気味が悪い、ガルゴはそんな悪夢を忘れようとゆっくり起き上がる。  水を飲もうとキッチンへ向かう。その間ずっと夢の内容が反芻された。白い肌に黒い首輪。夢の中のリョウは一糸も身に纏わず傷だらけの体をベッドの上で丸めていた。ガルゴが話しかけたり、髪にふれるとゆっくり目を開き微笑みを浮かべた。それがなんとも言えない美しさと、充実感をガルゴに与えた。まるでずっとここにいてくれるかのように感じられた。  夢の中では時々リョウはナイフを持ち自身を傷つけることをせがむ。そしてガルゴはその度に応じて傷をつけて白い肌に赤い線を作っていく。リョウはそれを見て嬉しそうに体をよじらす。頬を赤らめてまるで誘惑するようにガルゴの体に自身の体を擦り寄せる。まるで中学の頃のあの時のように。  そこまで思い出したところで、手が冷たくなり意識を現実に戻す。コップから水が溢れ手を塗らしていた。  あり得ないとガルゴは拒む。なぜあんな夢を見たのか。あんなことと拒絶する一方。あの夢の中は謎の幸福感に満ちてとても気持ちが良かった。しばらくキッチンでその幸福感の余韻に浸っていた。  いや、そんなことはいけないとガルゴはぬるくなった水を一気に飲み干し、着替える。今日の仕事の確認をする。さっさとこの事を忘れたかった。  その日の日程ではリョウに会うことはないだろうと安堵する。仕事をするにつれ夢は靄がかかったようになっていきよく分からなくなっていった。そのため、ガルゴはしっかりといつも通りの仕事をし、その日も帰路に着いた。少し残って仕事をしたのでいつもより遅く、これならリョウに会わないだろうと根拠のない言葉を繰り返し頭の中で言い聞かせながら車から窓の外を眺めた。夜はもう深く、住宅街は点々とした街灯だけであり暗くちょっと先は見えにくかった。  しかし、家の前にはリョウがいた。もう見慣れた光景だったためすぐにそこにいるのがリョウだと理解ができた。  ガルゴは目眩がし、同時にどっと汗をかき鼓動が早くなる。どうにか冷静さを取り戻し車を出て運転手を帰らす。いつも通りを意識しながら一歩前に踏み出して話しかける。 「どうしたんだ、こんな夜更けに。」 「ちょっと通りかかったら丁度ガルゴが帰ってきたんだよ……。」  リョウはうっすらと笑いながら答える。 「用がないなら帰れ……。」 「……。うん、おやすみ。」  そう言ってリョウは大人しくガルゴの横を通りすぎていく。  ガルゴは目を見開く、あのリョウが大人しく帰り。何より暗くてよく分からなかったが一瞬近づいたことでその衣服が少し乱れていることに気がつく。何かあったことは確実だった。  しかし、言葉が出ず呆然と立ち尽くす。  そして「首輪……。」とぼそりと自分さえ聞こえないような小声で呟いた。  真っ暗な自宅の前で少しの間項垂れていたが、ふと思い立ったように家の中に入る。  ――  リョウはその日普通に仕事をこなし帰ろうと予定していた。昼になるとメッセージが届き、遊び仲間が夜遊ばないかと誘ってきた。少し離れたところに変わった店があると言うので気になり、簡単な気持ちで約束をつけて定時の後スーツを着崩れさせながら電車へと向かった。  駅で待ち合わせた仲間らと合流し、仲良く店へと向かう。そして遊び尽くした。店も沢山点々として酒を飲んだり、ヤリ合ったりした。  リョウは特に痴漢輪姦体験が気に入った。電車のセットに数人の男らと入り、痴漢され脱がされ輪姦される。電車に乗ってきたからこそか、より楽しめた。  最初は後ろから少し触れる程度だったが、からだのラインをなぞり、布越しに指先で弄られてあそこが膨らむと、カリカリと先端らへんを刺激される。少し反応して体をよじらせたり声をあげると後ろから、他の人に聞かれたらどうするんだ?と煽られる。  しかし、それで終わらずより激しく触られ。服の中もまさぐられる。後ろもその入り口をなぞったり、指を差し入れたりして解される。前や後ろは我慢汁でぐちゃぐちゃになり下着の色を変える。胸の突起や耳も弄られ、足に力が入らなくなっていく。扉に腕をつき体を支えるも、腰を突き出す体勢になり腰をがっしり捕まれ弄られる。  声を出さないようにしてるのと、公衆の面前という特殊な状態に体が強ばっているとぐいっとうつむいていた頭を上げさせられる。前にはいつの間にか一緒に来ていた友人の一人がいて前を弄られる。すると後ろからさっきからリョウを痴漢していたやつが自身の高ぶりを中にねじ込ませる。  そこから、他の男らか服を脱がされ触られ、全身で奉仕させられる。友人や知らない人に見られて、辱しめられ、最後にはほぼ全裸で床に横たわっていた。  普段味合うことのできない快楽を貪り、幸せそうに笑いながら友人らとそういう風にさんざん楽しんだリョウは友人と帰り、気分よく歩いていた。ふと、昨日リョウを追い出したガルゴに会いに行こうと思った。追い出されて虫の居所が悪かったが今は上機嫌。許してやろうとガルゴの家まで歩いていった。  しかし、出会ったガルゴは今まで一番つまらなかった。車から降りる際から様子がおかしく。目を見て分かった、その顔は似たようなものを中学生の時に見たことがあった。何かに怯えて、まるで迷子の子供のような目をしていた。だから、全ての気持ちが萎えて言われた通りに帰っていった。  乱暴さの抜かれた怯えた彼を見るとどうもリョウはイライラした。どうしてなのかと、思考を巡らす。  しかし、答えは見つからずため息をついてタバコに火をつける。ゆらゆらと揺れる煙をじっと見つめながら眠くなるまでボーッとしていた。  ――  ガルゴは珍しく自宅で酒を飲んでいた。仕事に影響がでないように家を継いでからは飲み会などを除いては飲まないようにしていた。しかし、自身の弱さを洗い流すようにグラスを飲み干した。  歯を磨こうと洗面所へ向かい鏡を見ると、そこには影がかかったような暗い表情をした自分が映り込んでいて思わずガルゴは渇いた笑いを漏らす。 「フフ……」  なんとなくそんな自分が滑稽で無様だった。そこまでガルゴ自身思い悩んだことはなかった。勉強や受験。家を継ぐこと、大きな仕事でもなんでもこなしてきた。怯えことなどなかった。ガルゴは反芻する、何も怯える必要は無い。何も怖くない。

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