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第4話 思い出
4話 思い出
思い出
初夏になり、風が吹くときもちよくなるような気温になりつつある。テレビやネットでは温かくなるせいか陽気な特集が組まれたり注目されている。
そんなことよりリョウには最近気になることがあった。ガルゴが鬱陶しい。
ガルゴの様子がおかしいと感じたその日からずっとおかしいままだった。放っておけば治ると思っていたが、治るどころか悪化しているような気さえする。
ガルゴは最近リョウを何かと気にかけてくる。
勿論、心配されるのは嬉しいがリョウはそれがとても鬱陶しく、めんどくさく感じた。まるで、心配性の母親のようにいちいち話しかけてきて、何かあったか?、どうしたそれは?と聞いてくる。
最初はしっかりと返事をしていたが今やへいへいと返事を適当に返している。
今まで世話焼きなだなと感じることはあったがいくらなんでもいちいち毎回ずっと聞かれるとさすがに嫌になってくる。そのためリョウは気晴らしに町へ出かけた。すると余計ガルゴがしつこくなる。
これはもうどっちかが折れるまで続くなとリョウは感じ、意識的に遊びに行ってることを隠さず見せつけた。さっさともとに戻れとリョウはイライラしながら今日も夜の町へ出かけた。
適当なクラブで飲んで騒いでるいるとふと声をかけられる。
「あっれぇ~?リョウちゃんじゃーん!」
変な抑揚をつけた喋り方の金色で長髪の男が話しかけてくる。
「……ユズキ。どうしたのさ?なんでこんなところにいんの?」
金髪の男、柚月は大げさな身ぶり手ぶりをしながら話す。
「オレ彼氏できたから……遊べないって言ってたじゃ~ん?」
こくりとリョウは頷く。実際ユヅキはリョウと同じく遊び人でここら辺に入り浸っていた。しかし、ある日突然彼氏できました宣言をして来なくなった。
「オレさ~気を使ってさ~色々我慢して尽くしてたの~。それなのに!最近遊びに行ってないよね?行かないの?とか!!言われたのっ!!」
ユズキは怒りを抑えずどんどん声を大きくしながらリョウに迫っていく。
「それで?そのままここに来ちゃったの?」
「そう!ムカつくから遊びに来てやった!ねー!ねー!リョウちゃん~慰めて?」
ぶりっ子しながらユズキがリョウに抱きつく。そんなノリにいつもは乗らないがリョウもイライラしていたので、口元を少しにやつかせて乗ってやった。
二人で適当に話ながら店の外に出る。
「コッチコッチ!」
店を出るとリョウはユズキに引っ張られついていく。人気の無い裏路地に入っていき、迷路のような道を通っていくといかにも妖しげな店の前で立ち止まる。
「到着~入ろうねー!楽しもうねー!」
看板は蛍光色に光り、眩しすぎて目が眩む。看板には中国語やアラビア文字など沢山の言語が書かれており、結局何なのかよく分からない店だった。
まあ、ラブホみたいなもんだろうとリョウは別に気にもせずユヅキの後に続いて店に入る。
内臓も派手な赤やピンクでごちゃごちゃ装飾がされていて、見てるだけで騒がしい。それと香の香りで頭がふらふらする。ユズキは慣れているのかカウンターで受付をしてずかずかと入っていく。
ふらふらとついていくと、一室の前で立ち止まり鍵を開けて入っていく。それに続くと部屋からより強い匂いが香りリョウの頭を揺らす。
「あっれぇ?リョウちゃん大丈夫~?」
わざとらしく笑うユズキの顔が揺れて見える。リョウは頭が痛くなり目をつむる。
「もしかしてぇ?リョウちゃんお薬とかに弱い感じぃ?だからこの匂いもダメな感じぃ?」
すこし予想外だったのかユズキはうーんと考え、リョウの服を脱がしていく。
「まずお風呂にしよ~!リラックス!リラックス!」
ユズキは唸るリョウを脱がして、自身も脱ぐ。リョウを風呂場に押し込め、シャワーを浴びせる。
「大丈夫~?熱くない?」
気持ち悪さから頷くことしかできないリョウはもはや、どうとでもなれとユズキの好きにさせた。
ユズキは湯船に入り自身の上にリョウを座らせ、リョウの体の傷跡を撫でる。
「いいね、お風呂気持ちいいね!リョウちゃん!リョウちゃん!」
身体中を撫で回しながら陽気にユズキはリョウに話しかける。
「……ユヅキ。なんなんだよ、ここ。」ずっと疑問だったことをひねり出して聞く。
「楽しくなるところ!」
リョウはユズキにまともな返答を求めたことを後悔しながらため息をつく。風呂場は香りが薄く、息がある程度しやすい。リョウが大きなため息をつくと後ろから首を噛まれた。
驚き振り返ろうとするがそのまま首の下や横、肩に噛みつかれる。それはかなり長い時間続き、どんどん体を噛まれていく。お風呂の中で体勢を変え噛まれるのでお湯がどんどん流れ減っていく。
「……ユズキ!くすぐったい。」
あまりにもずっと噛まれるのでもどかしくなりユヅキのものを触ろうとしたが。
「ダーメ!リョウちゃん!我慢して~、リョウちゃん体調悪いんでしょ?これで満足するから~。ね?」
ユズキはそのままリョウの首をあやすようにまるで猫の毛繕いのように舐める。リョウは体調を崩したのはこんな店に連れてきたユズキのせいなのにと大きなため息をつくが、目を閉じて好きにさせた。
お湯が減ったバスタブでは少し上半身が寒く感じたがユズキの体触れる度に体温が心地よく眠気がやってくる。
「あれぇ?……ねむちゃった?」
ユズキはリョウの顔を覗き込む。
「リョウちゃーん……?ふーむ。仕方なし。」
ユズキはリョウを抱え風呂場を出て、丁寧に体を拭き服を着せ髪を乾かす。
「なんだが良くないことをしてる気分…!」
ユズキは彼氏の顔を思い浮かべ、結局リョウとセックスしなかったことに安心しながらリョウの髪を梳かす。
「およ?安心?ナニコレ?……リョウちゃーんもしかしてぇ?オレ達生きるの下手すぎ?」
眠ったままのリョウに話しかけていると、急にテーブルに置いたリョウのスマホが鳴る。
ユヅキが人差し指と親指でスマホを持ち上げ画面を覗くとガルゴと表示されている。
「だれ~?もしもし~?」
躊躇わずそのまま通話開始のボタンを押す。
「…!もしもし?誰だ?」
「オレ~?オレリョウちゃんの友達~。」
「……そうか、リョウはそこにいるのか?」
「いるよ~?」
ユズキはチラッとリョウが起きていないか確認するが起きておらずそのまま電話を続ける。
「リョウちゃん寝ちゃって~、君リョウちゃんの友達~?」
「あ、ああ。昔馴染みだ。リョウは起こせないのか?……それか場所を教えてくれないか迎えにいく。」
ユズキは自身の髪をくるくる指で巻きながら考える。ガルゴって名前を登録しておくなら仲はそこそこ良い方、でもろくでなし野郎ともつるんでるのがリョウちゃんだしなと悩んでると、リョウがこちらを向いていることに気がつく。
リョウは無言でこくこくと頷いている。ユズキがスマホを返そうとすると首を横に振られ、戸惑いながらもユズキはガルゴと話す。
ユズキはガルゴに場所を教えるとスマホをリョウに投げつけて言う。
「起きてるなら自分で頼めよ~。」
「まだ寝る……。」
「うっそぉ!また寝るの?」
少ししてまたリョウのスマホが鳴り、ガルゴが店の近くに着いたと言う。店の周りは狭く車が入れないので、できるならリョウを連れてきて欲しいと言われ、おそらく狸寝入りであろうリョウを抱えてユヅキは店を出る。
少し歩いてユズキはガルゴを見つける。ここら辺にはない少しお高めの車と、真面目そうな地味なスーツを着た人物を見て、ああ多分この人がガルゴだなとユヅキは感じ声をかける。
「こんばんは~お届け物でぇーす!」
わざわざここら辺に来るほどリョウに入れ込んでるんだなと少し憐れみながらユズキはリョウを引き渡す。
ガルゴという男はリョウが眠っているのを見て少し顔を弛める、そして狸寝入りであろうリョウその二人をユヅキは見て目を少し細めて手で口元を隠す。真っ黒な目で彼らを少し眺めてからくるっと背を向けて歩き出す。
「それじゃ。」
ガルゴは手をヒラヒラさせて帰るユズキの背中を見て言う。
「ああ、ここまでリョウを運んでくれてありがとう。」
ユズキはそれに返事をせずに夜の町へ帰っていく。
――
ガルゴは家に着くとリョウを客室のベッドに寝かせる。そして、そっと髪を撫でたかと思うとすぐに部屋から出ていく。
「ほんと、なにもしないんだね。」
リョウは四肢をベッドの上に広げ呟く、ガルゴは狸寝入りを分かってる、その上で何も無くここまでリョウを運び戻っていった。ガルゴが手を出せばリョウはそれを受け入れることぐらいガルゴだって分かってるはずなのに。
「……。」
少し天井を眺めて唸るがリョウは諦めて眠った。
――
ガルゴが起きてコーヒーを飲んでいると、客室からのそのそとリョウが起きてくる。
「……おはよう。」
「おう、おはよう。朝ごはん食うか?」
「ちょっとだけ。」
そのままゆっくり歩き洗面所へ向かうリョウ。それを見てトースト一枚を焼いて、コーヒーを用意する。
リョウが顔を洗って戻ってくるとガルゴはテーブルに朝ごはんを置きリョウをソファに座らせ、自身もその隣に座りコーヒーをまた飲み始める。
リョウがゆっくり黙々と食べるのを見てガルゴは安心しながら、スマホに視線を移す。
昨日、高校の頃の同級生から同窓会の誘いが来ていたことを思いだし、メッセージを送る。
今回は誘いを断った。ガルゴは今や社長であり、リョウのことが心配だった。
すると隣からスマホを覗き込むリョウが聞く。
「え?!行かないの?前は行ってたじゃん?」
「……別に、都合が合わねぇんだよ。」
適当に誤魔化すと、リョウはふーんと興味が薄そうな返事をして食事に戻る。
ふと、ガルゴは高校の頃のリョウが気になった。リョウとは中学高校、大学とかなり長い時間一緒だったが高校の頃はリョウのサボりが多くなり、学校で会うことが少なく会話も少なかった。
そして昨日のことを思い出しリョウの友人も知らないなと思った。意外とリョウのことを知らないのではと少し心の奥から焦りのようなものを感じる。
リョウは遊び癖がひどくそれは治らないから仕方ない、そういうものだとずっと思っていた。そう思うことで知りたくないことを知らないでいた。
今まで気がつかなかった、リョウがそこら辺で遊んでいても帰ってくるから。でも、もし、何かあっても気がつけないのでは?それはと考えていると横から頬をつつかれる。
「ガルゴ、どしたの?」
キョトンとした顔をしてリョウが覗いてくる。
「眉間すごく皺よってるよ。」
「別に何でもない。食べ終わったのか。」
「うん。ガルゴ今日休みだったんだ。」
「……ああ、部下達から少し休んだらどうかと言われてな。」
「そうだね、しっかり休んでよ。」
そういうと食器を持ってキッチンへ向かって行った。
「それじゃ、俺帰るね。泊めてくれてありがとう。」
食器を洗い、少ししてリョウは帰ろうとする。
「……泊まってはいかないのか?」
ふと、そんなことを口走った。ガルゴ自身驚いたがリョウが勢いよく振り返りガルゴを見つめる。
「……いいの?」
「ああ、一人でいてもすること無いしな。」
「なら、一緒に遊ぼっか!」
リョウはまるで中学の頃みたいにガルゴに笑いかけた。
それから二人は一緒に映画を見たり、古いゲーム機を引っ張り出してお思い出を語り合って遊んだ。
お酒も飲んだ、あの頃のお金がなくて自動販売機の安い酒しか飲めなかった頃を思い出してコンビニで安酒を買い漁った。
飲んで騒いで遊びつくし夜になると眠気がやってくる。リビングで二人でうとうとしながらテレビをぼうっと見つめる。
テレビには見たいと思って何年か経ってしまった話題作が流れていた。女性が何かを言って少女を抱き締めた。聞こえているのに頭に内容が入ってこない。
眠気を醒まそうとガルゴはコップに手を伸ばす。伸ばした手はうまく伸びないまま隣に座っていたリョウに当たる。
リョウは瞼を半分下ろしながら俯きかけていた。その体をゆっくりガルゴの方へ向ける。
目が合う。
空中で行き場を無くしていた手をその垂れた黒い髪に通し、かきあげて頬に指先が手のひらがつく。
白い肌が揺れ、ちょっとだけ口角があがる。
部屋がより暗くなる、ゆっくり真っ黒なエンドロールが流れて、そして終わってもまだ手のひらは温かかった。
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