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第5話 あの時
5話 あの時
あの時
ガルゴとリョウの出会いは中学二年生になった頃だった。学年が上がりみんな浮き足だっていた時期に水をさすようにリョウは事件を起こした。
三年と喧嘩して両方かなりやりあったらしい。それがガルゴが最初に聞いた噂だった。噂はクラスのやつが話しているのが聞こえたため定かではないがそういったことを話していた。
というのも、ガルゴ自身母親から受け継いだ髪や顔立ちから、他から怖がられ避けられていた。そのため噂話をする相手などいなく、リョウについてはそんな事件を起こす同級生が居たんだなと軽いものだった。
噂も少しすれば次の話題へ移り、忘れかけてきた頃にリョウはまた噂となった。ある日リョウが呼び出されその日から停学になったらしい。
再び流れた噂はさらに大きく過激になった。
女遊びしてばかりでバーやクラブに通っているらしい、年上の女性と歩いているところを見た、喧嘩で複数人相手にして全員病院送りにした、家族にも手をあげているらしい……など嘘か本当か話題はリョウで持ちきりになった。
それを聞いてガルゴは馬鹿馬鹿しいと今の学校が嫌になっていた。他とあまりつるみが無かったからかガルゴはその噂に飲まれているクラスメイトや他学年の人に疎外感や、気持ち悪さを感じた。
ガルゴはその当時、家族への反抗心や他からの目の嫌悪感からムシャクシャしていたのも相まって教室や学校に居たくなくなりサボることが多くなった。
リョウと出会ったのもちょうどサボろうと学校をふらふらしていた時だった。リョウの噂が少し静まってきた頃。
無理に増築を繰り返した学校は授業で使わない限り全く人気のない教室が何個ある。ガルゴはいつものようにため息をついて適当な椅子に座り窓際を見る。
風が吹いている。閉め忘れたのか一つ開いている窓がある。涼しい風が入ってきてガルゴの気持ちを落ち着かせる。
「……。」
虫が鳴いて青空が窓から見える、あっという間に夏になろうとしている。ガルゴは目を細めて背もたれに体重をかける。
静かだった。校庭から準備運動をする声が聞こえる。時々、学校の近くを通る車の音。ガルゴ自身の静かな呼吸音だけが聞こえている。
どんどんガルゴは音に耳を澄ましていく。すると、何か別の音が聞こえていることに気がつく。ふと、細めていた目を開け上を向く。
「あ、バレた。」
机に乗りガルゴを覗き込むように上から身を乗り出す男子。
「綺麗なのにもったいない」
そう言ってガルゴの眉間を指でほぐす。
「なんだお前?」
手を払いのけガルゴは立ち上がり睨み付ける。
机の上に座りながら男子は答えた。
「隠れてたら綺麗な人が来たから気になっちゃった。」
躊躇いもなくまた綺麗だと言ってガルゴに笑いかける。男子の顔にはいくつか怪我がありガーゼが貼ってあった。それを見てガルゴはハッとする。
「お前、リョウか?」
「……俺って有名人?」
「噂にはなってるな。」
それを聞いて少し眉をあげるが、すぐに悪戯そうなニヤッとした顔になる。
「サボりなんでしょ?なら俺と遊ぼう?」
「断る。」
「えぇ?早くない?即答かよ。」
つまらなそうな顔をするがスタスタと扉の前へ行き。
「ならバイバイ、またね。」
と言い残して行ってしまった。
ガルゴは教室に1人残り、リョウが噂にあるようなイメージより人懐っこそうだなとか停学の期間は終わったのかなどを考えながら昼寝をした。
また別の日、ガルゴはこの前とは別の教室でサボっていた。すると、ガラガラッと扉を勢いよく開けてリョウが入ってくる。
「お、先客……。」
わざとらしく今気づいたかのように振る舞いガルゴの横に座る。
「なんか用かよ?」
「お前、名前は?」
「……ガルゴ。」
リョウは興味が薄いのかふぅんと言って窓の外に視線をやる。
ガルゴもそんなリョウにあまり気を止めずボーっとしていた。
窓を開けていたので風が吹いて二人の髪を揺らす。ガルゴが来た時に開けておいた。この前の風が心地よかったのでこの前と同じくらい開けて昼寝をしていた。
その日からガルゴとリョウは時々二人で授業をサボった。特別何か話すことはなかった。話してもすぐ終わり後はゆっくりと時間が流れていくのを待っていた。
そんな日々が続いて、夏も本番になりつつあったその日。
いつものように教室でガルゴは先に昼寝をしていた。ガラガラと扉を開けリョウが入ってくる。ガルゴは横目でリョウを見ると目を見開いた。
リョウの頭には包帯が巻かれ、その顔は白色で目は鋭かった。今まで怪我をしていてもヘラヘラと笑って入ってきていたリョウだったのに、その日のリョウはまるで別人のような雰囲気だった。
「どうしたんだ?」
思わずガルゴはそう口にする。今までどっちかに傷ができても、何も聞かず気にしないようにしていた。お互いに踏み込みすぎないでバランスを取っていた。
リョウは無言のままズカズカとガルゴの隣に座り窓際に顔を向ける。ガルゴは戸惑ったままどうすることもできずリョウを見た。リョウは入ってきて一度もガルゴに目を合わせない。軽い挨拶もない。
少しずつ時間が経っていき、気まずい時間が流れ何も言えないまま授業時間が終わろうとしていた。教室の外が少しずつ騒がしくなり始める。
外の音が騒がしくなればなるほどガルゴは何かしないとという気持ちが強くなって汗をかく。捻り出そうとも何を言えばいいか分からない。
リョウに何かあったのか、別に話さないならそれ程のことではないのか、そんなことをぐるぐると考えていると、部屋が少し暗くなる。日の光が部屋に入って来なくなりほの暗い教室になった。そんなことは気にしてないのかリョウはそのまま窓の外を見ていた。
すると、リョウが突然遠くなっていく感じがしてガルゴは思わず手を伸ばす。
その時リョウがちょうど体を傾けこちらを向いた。
ガルゴの手がリョウの頬に触れる。
指先をすぐさま引っ込めようとしたが固まって動かない。するとリョウがゆっくりガルゴの手に頬を擦り寄せる。
そしてリョウはガルゴに向けて優しく微笑んだ。ガルゴはその時リョウとの大切なバランスが崩れていくのを感じ、何もできなかった。
そのまま少ししてからリョウはガルゴの手から離れていき帰っていった。ガルゴの手にはまだ温かさが残り唖然とし、リョウが帰っていった扉を見つめていた。
ふと顔を周りに向けるといつの間にか教室には日の光が差し込んでいる。
そして何故かその日を境にリョウがよく話しかけてくるようになった。ガルゴは最初は戸惑ったが遊んでいくと馬が合い、学校や放課後でも一緒にいるような仲になった。
リョウはサボっていた時とは違い一緒に遊んだりすると楽しそうに笑い。やることも二人でバカっぽいことをしたり、ふざけあったりといかにも普通な中学生だった。
放課後ゲーセンによったり、大人のふりをして酒や煙草を二人で挑戦したり。買い食いをしながら一緒に帰ったりした。休日も一緒に約束をして遊びにいったり、楽しい日々が続いていた。
なぜ突然話しかけるようになったのかはガルゴは聞かなかった。先にバランスを崩したのはガルゴ自身だと考え、踏み込まないようにした。
勿論、リョウが怪我をしている日なんていくらでもあった。それでもガルゴは何か言うことはなかった。
そしてリョウとガルゴが一緒に遊ぶことが日常になった頃。学校は文化祭準備で浮き足立っていた。
ガルゴも少しは文化祭の準備を手伝ったりして、そのお陰なのか少しずつクラスメイトと話すようになっていった。
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