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第6話 二人

6話 二人  ガルゴは学園祭では少しクラスメイトと話したあとに、いつものように教室で窓の外を見るリョウの元へ行った。そして客が多い昼頃に一般客に混じって一緒に回って遊び楽しんだ。  去年では考えられなかった「普通」な学生生活の一幕が目の前に広がりガルゴはその時とても幸福だった。  だからこそ隣にいるリョウも同じだと信じて疑わなかった。一緒に笑い合って一緒にふざけているリョウがどんな気持ちでいるのか、ガルゴをどう思っているのかガルゴは気づいていなかった。  ――  冬になりかけて風が冷たく、落ち葉がその辺を転がっている季節になるとガルゴにはある程度話すクラスメイトの存在ができてきた。  いつもは眉間にシワを寄せて厳つい顔をしているが、笑ったりすると眉が下がって幼く見えると言われたり、ふと見せる顔が綺麗など言われて女子にちやほやされたり。体格のよさや身長、女子からの評判のよさなどを男子から羨ましがられ、ふざけ合ったりした。  そのせいか授業をサボることが少なくなり、放課後もクラスメイトが話しかけてきて流れで一緒に帰ることが多くなる。  少しずつ偏見がなくなり、話しかけてくる人が増える度嬉しい反面、リョウに会いに行けないことが気がかりになりつつガルゴは学生生活を楽しんだ。  そんなある日いつもは話さないようなちょっと半グレのようなやつらに話しかけられた。他から見れば以前のガルゴもその半グレ集団と同じような存在だったが絡みは全く無かったのでガルゴは少し驚くも誘いに乗った。  少しついてきてくれと言うので大人しくガルゴはついていく。相手は3人だったが体格もかなりこちらが有利だったため、危機感はあまり持っておらず。何かあれば殴って逃げればいいかとノコノコついって行った。  ずっと無言のまま大きな通りを歩いていき、少しずつ狭い道に入っていく。すると、少し褐色の先頭に立つ男子が振り向いて話しかける。 「お前ってさぁ、リョウと友達なんだろ?」 「……まあ、そうだな。」 「リョウってほら、あれだろ?春頃に先輩殴ったていう。」  男子は大げさな態度で声に抑揚をつけて話す。 「あれから先輩がずっとイライラしててよぉ。ああ、殴られたのは俺らの知ってる先輩だったんだよ。それでよ、弱みでも握ってやろうみたいな?」  男子はニヤニヤしながらガルゴを見ている。それをガルゴは見下しながら相手の動向を探るしかなかった。  ろくでもないやつに絡まれたなと少しノコノコついていったことを後悔しながら今さらだと男子らについていく、するととある店の前に足を止めて入っていく。 「面白いもん見せてやるよ……何にも知らなそうだしな。」  そう言っていかにも学生が入るような店ではない店に入っていく。  少し前からギラギラした修飾の看板が多くなってきたのを見てなんとなく察していたがガルゴは大きなため息をつく。なんのためにここに連れてこられたのか分からないがめんどくさそうなことになるとハッキリ分かり眉間にシワが寄る。  しぶしぶ、3人のうちの1人に背中を押され中に入る。店はいわゆるストリップバーという場所なのか、少し小上がりになった所で女性がはだけながら踊っている。その周りを沢山の客が楽しそうに笑っている。  3人は受付には行かず入り口付近の階段を登って行くので、照明の眩しさに目を細目ながらガルゴはついていく。  2階には同じようなストリップバーがあった。しかし、踊っているのは女性ではなく男性だった。女装した男やバニー姿の男がいやらしく腰をくねらせながら踊っている。ガルゴは思わず後ずさるが、3人が指差して言う。  ガルゴは嫌々ながら見てしまう。リョウがダンサーの中に混じりいかがわしい格好で踊る姿を。薄々1階にいる時に気づいていた。しかし、考えないようにしていた。  3人はニヤニヤしながらガルゴの焦り、顔を白くする様子を見ている。 「どうよ?親友が腰ふって踊ってるのは?」半笑いで誰かがガルゴに話しかける。ガルゴは蹴飛ばされ前に出る。警備員が睨み付けてくる。  誰かが言う。「もっと近くで見てみれば?意外とイケるかもよ?」そんな言葉が笑い声と共に耳に入る。  逃げたい。  こんなところにいるべきではない。  知らない。  知りたくない。  そんな、言葉が頭のなかで反響している。  ガルゴは無我夢中で駆けた。  階段を下りた。  早く別の場所へ。  気がついた時には、自宅の前にいていつものように鍵を開けて入る。気が抜けたのか大きなため息をついてガルゴは項垂れる。頭痛がする。ガルゴは両手で顔を覆い落ち着こうと深呼吸をする。  知りたくなかった。  ガルゴは今はそんな言葉が頭の中を満たしている。  ――  仕事中、ガルゴを見た。  なんで?  なんで、こんなところにいるの?  ガルゴはひどい顔をした。  そんな目で見ないで。  リョウは何度も一人で問い続ける。シャワーを浴びながら嗚咽を漏らし、温かいお湯が出ているはずなのにリョウの体は冷たくなっていく。  リョウは項垂れていたが、ゆっくり顔を持ち上げる。ニッコリと笑みを浮かべ、鏡を見る。そこにはいつもと同じようなリョウが映る。  それを確認すると、さっさとリョウはシャワー室から出て素早く着替える。そして急いで電話をかける。 「ガルゴ……ちょっといいか?」  ――  ガルゴは突然リョウから電話がきたことに狼狽えながら、何とか返事をして答える。どんな約束だったかは覚えてないが、ガルゴはリョウの言うことに従い、呼び出された場所に行く。  通学路のちょっとした裏路地に続く分かれ道にリョウはいた。ガルゴは戸惑いながらも声をかける。  暗いでせいでリョウの顔がよく見えない。手を引かれガルゴはよたよたとついていく。なんで呼び出されたのか、あの時店にいたことを問いただされる?それとも、他の何か?歩いていてもリョウの顔はまだ見えずガルゴの不安が積もる。  真っ暗な道は時々電灯が心細く光っているだけで、車が通りすぎる音と二人が歩く足音だけが響き、よりガルゴは戸惑いリョウの手を強く握る。  無言で夜道を歩いてくととあるアパートの前でリョウが止まる。 「どうしたんだ…?」  探るように恐る恐る聞くと、くるっとリョウはガルゴの方を向き。 「一緒に遊ぼうかガルゴ……。」  ニッコリ笑いかけながらガルゴの手を引きアパートの一室に入っていく。  入ってすぐに分かった。  そこはおかしかった。  空気が、臭いが、変な感じがして気持ち悪い。思わずガルゴは顔をしかめるが、土足のまま入っていくリョウに続く。  リョウが扉を開ける。  普通ならそこはリビングとして使われている場所なのだろうが、ここは違った。  人が沢山いる。色んな人が笑い、そして喘いでいた。  ある人は人の上に覆い被さり、覆い被されている人は満足げに笑いながら喘ぐ。  中には手に小さなナイフを持ってたり、鞭を持っていたり。異世界だった。ガルゴはいきなり知らない場所に投げ出され迷子にでもなったような気持ちがして、恐る恐るリョウの方を見る。    リョウは笑っていた。  ガルゴは後ずさり、リョウから手を離す。  するとリョウはガルゴの体にぐいっと近づき、より口角を上げて目を細めて妖艶に笑う。 「ガルゴ……遊ぼ。」  そう言ってリョウはあの時のような腰つきでガルゴに体を擦り付ける。腕や足が絡まり体温が伝わる。 「やめろ……。」  低い声でなんとか捻り出した言葉を口にする。リョウはそれを聞いて少しつまんなそうな顔をするが、すぐにまたニコニコとした顔に戻る。 「なら、別の方法で遊ぼっか?」  リョウはふらっと離れて自身のポケットから折り畳み式のナイフを取り出す。 「ガルゴ……これで俺のこと好きにして?」  こてんと首を傾げながらナイフをガルゴに握らせる。  ガルゴには全く理解が出来なかった。手がずっと震えている。ナイフを握らされてどっと汗が背中を濡らす。 「なんなんだよ……なんで……。」  困惑しているガルゴをよそに、興奮しているリョウが服を脱いでいき肌を見せる。傷だらけなその体は新しい傷も多く、まだ赤い所と肌の白さのコントラストはガルゴの目をチカチカさせた。 「ほら、ここに…傷つけてよ。」  リョウは胸を指でゆっくりなぞり笑う。 「リョウ……嫌だ。」  うつむき拒否する。リョウなら分かってくれるはず、明日になればいつも通りの友人に戻れる。そんなことが頭に駆け巡った。  ガルゴには受け止めきれなかった。  少ししてからリョウの返事がないことに気付き、恐る恐る顔を上げる。  そこには、真っ黒な目でガルゴを見つめるリョウがいた。 「あ……。」  ガルゴは失敗した。  そう思った。  そう己のなかで失敗したと思った。  バランスが崩れた。もしかしたら元々無かったのかもしれない。ガルゴがそう感じていただけかもしれない。  そう思った後にはもう遅く。  素早くリョウがガルゴの手を掴みナイフを自身の胸に当て切り裂かせる。 「ぁああっ!!」  恐ろしくて叫んだ。すぐにナイフを手放しカランと音がなる。 「……リョウ、リョウ!」  人を切った。肉の感触。リョウが血を流している。  リョウは笑っていた。

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