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第17話 観測
17話 観測
ガルゴは直った二つの携帯を弄りながら何か情報はないかと探す。メール、電話、検索履歴から何から何でも見た。個人情報だとか気にしてる場合ではなかった。
ユウジが居なくなって翌日。朝、すぐさま携帯を受け取り調べていた。その間ずっと心臓がおかしくなったのかと思うくらい変な動悸が止まらず、息の仕方も忘れたように下手くそな呼吸をしていた。
リョウの携帯には連絡先は少ししか残っておらずそれぞれに掛けてみたが、電話に出なかったりリョウではないと分かるとすぐに切られた。
しかし、リョウとユズキがやり取りしたメールが最後らしく。それ以降は未読だった。
二人のメールにはカラオケの位置と部屋番号のやりとりで終わっており、携帯を見つけた店と合致しやはりあそこで何かあったのだろうと体が強張り、余計呼吸が荒くなる。
そして、ユズキの方にあった最後の電話相手に電話をかけてみても返事が無く。結局カラオケで何かあったことぐらいしか推測できずため息をつきソファに寝転んだ。
「はぁ……。」
ソファに寝転ぶとさっきまでの嫌な緊張が少しは解け、気持ちが楽になる。しかし、どうしようもできないというもどかしさから、ガルゴはフラフラと町へ歩いていく。
町をブラブラ歩いたって何もなるわけではないのにと自虐しながら浮浪者のように歩き回る。繁華街はいつも通り煩く人と人の間をすり抜けていく。
ふと、警備か何か警察をちらほら見かけたがガルゴにとってそれらはさっさと歩き去る人々と同じく見えた。
ガルゴはそのまま足を進め適当なバーに転がり込み、酒を呷った。高い度数のものを何杯も呷り、店を出る頃には壁に手をついて移動するしか無いくらい酔っていた。
どんな時間でも騒がしい繁華街のチカチカと光り、常に誰かの声や歌などが聞こえてくる道を歩きたく無くなり、狭い路地へと逃げるように入っていった。まともに考える事などできず、涼しくて薄暗い道をノロノロとどこに続いてるのかも分からない道を歩き回る。
どんっと誰かにぶつかる。一瞬物にぶつかったかと思ったがそれが何か怒鳴るので人だと判断した。
それの怒鳴り声はどんどん大きくなり耳障りに感じた。煩くて煩くて。頭の酔いが更に回るような気がして止めてほしくなった。
しかし、幾ら経っても怒鳴り声は続き、終いには胸ぐらを掴まれ頭を揺すられた。それがもうガルゴには耐えられず、それを止めるために音の出るそれを思いっきり殴った。
――――
暗いリビングで、足元にあるものを手探りで見つける。
「……首輪?」
スベスベした革の質感とズッシリとした金具の重みを感じながら、それがユズキに付けられていたものと分かる。
「ユウジさん……。」
突然声をかけられ体を跳ねさせる。
「っ!?」
「しぃ……ユウジさん。逃げよ。」
暗闇から現れたユズキは震える体を抑えながら弱々しくも笑いかけ、ユウジの手をひく。ユズキは明らかに弱っていて、痣が所々にあるし足も引きづって歩きにくそうだった。
「え?だ、大丈夫なの?ユズキ?」
彼のことを抱きしめて確認する。
「うん、玄関の方見てきたけど逃げれそうだった。ユウジさんは先に行って。リョウちゃんと一緒に追いつくから。ネ?」
「え?な、なんで?みんなで逃げれば……。」
「ムリだよ。」
ユズキは自身の足をぼくに触らせてきた。震えてる上に触ったら分かるが熱く、しかもデコボコとした傷跡のような感触が伝わってくる。
「歩くのもやっと……。それにリョウちゃんはお薬でおかしくなってるから……きっと歩くことも難しいんじゃないかな?」
ユズキは微笑みながら言う。眉は下がり手は冷たく震えているのに。
「ぼ、ぼくが抱えてく!ユズキはぼくが手を引くから!」
きっと布団の中にいる人物がリョウなのだろうと寝室に行こうとしたが、抱きつかれ止められる。
「ダメ、早く逃げて!いつ帰ってくるか分かんないだよ!?」
「でも……!」
「でもじゃない!!早く!」
今まで見たことのない真剣な顔でぼくの手を力強く握りしめてくる。痛みを感じるほど握られたのは初めてで怖じ気つく。
「なら、ユウジさんが助けを呼んできて?ネ?それならいいでしょ?」
きっとどんな返事をしてもそれを曲げないだろうと思わせるくらい声に気迫があった。そんな彼の思いを無駄にしたくなくて、ユズキがぼくを思ってくれていることを無下にしたくなくて、ぼくは頷いてしまった。
「……ほら、コッチ。」
そのままトボトボと玄関の方を歩き出す。
「オレ、ここから出たことが無いから分からないけどそこまでへんぴな所じゃないと思うから……どうにか逃げて。」
玄関の扉をユズキが開く。それだけで心臓が激しく脈打ち、頭の中が警告を放つ。
「深呼吸して……。」
いつの間にか乱れた呼吸を整えるようにユズキは手を握って片方の手で背中を擦ってくれる。
「……っ、はぁ、ふぅ。」
「大丈夫だよ。」
「……うん。大丈夫。」
ぼくはそのまま駆け出した。
――――
とても不味い事が起こっていた。家族に新しい役が加わったことはまだマシなことに思えるくらいに。俺は携帯を見て、震えるしか無かった。
カラオケ店で破壊しトイレに流した二人の携帯。両方しっかりと壊したはずなのに、ユズキの方の携帯から着信があった。
これは非常に不味い。誰だ?誰が直した?誰が電話をかけている?ユズキを探しているという青年を捕まえ閉じ込め、それで安心した家族との生活が再びおくれると思った矢先に起きた。
誰だ?ユズキを探すのは?誰だ?俺達家族を邪魔するのは?
その日は会社を休み街を彷徨いた。ユズキを探していた青年のようにきっとそいつも街を回り、探し回っているはずだ。捕まえなくては。車には事前に色々と用意しておいた。
シャベル、テープ、スタンガン、ロープ、薬。何があっても捕まえなくては。
電話には出ていない。逆探知でもされたらたまったもんじゃない。見たことも、声も知らないやつだが、きっと話しかけてくる。前の青年がそうであったようにと自身に言い聞かせグルグル町を巡った。
昨日、あの青年を捕まえてから一日しか経っていないのに町がとても異様に見えた。
警官が多い気がする。
何かあったのだろうか?
それとも、もしかして。
いや、そんなことはないはず。
青年と会ったコンビニに車を止め外に出る。警官はこちらを見てはいない。ほら、大丈夫だと少しそのコンビニの周りを歩いてみた。
少し歩き回り周りの様子を見てみる。どうだ、誰も俺のことを気にしていない。その後はフラフラと気ままに歩き回った。
――――
トウマが車を降り散歩を始め数十分経った様な頃。丁度ガルゴはつっかかってきた男を殴りつけていた。その騒動はかなり酷いものとなった。
先ず、ガルゴはその男を滅多打ちに殴りつけ男が抵抗しなくなり、連れの他の男が逃げ出そうとしたのを後ろから蹴りつけ、そのまま転んだその男も動かなくなるほど蹴り上げ踏みつけた。また、止めに来た警官にすら一度抵抗し、パトカーに乗せられることになった。
トウマはそんな騒動を知り、一般人と同じように何も知らないガルゴのことを心の中で批判するのであった。
トウマは何事も無かったように車に乗り込みいえまで走らせる。そしていつも通り家に帰り、完璧な日常を家族と過ごすことを頭に描き帰宅した。
鍵が開いていた。
「は?」
リビングに誰も居ない。まさか寝室にいるのではと、勝手に移動した犬と自室へ勝手に入った父に注意をしなくてはと呆れながら寝室に向かう。
「……。」
今度は声も出なかった。
足元に何もなくなったように崩れ落ち蹲る。
「……はぁ………っは、はぁ……っ。」
両手で顔面を掴み目の前を覆う。
「……うぅ。はぁ……う……。」
トウマはその日家にある家族のものを全て破壊しゴミ袋に詰めた。
「……はぁ、うっ、うぅ……。」
それも大粒の涙を流しながら。
一方、最初にトウマの家から逃げ出したユウジは宛もなく彷徨い。どのくらい経ったか見覚えのある道に出て、知っている家へと助けを求めた。
それはガルゴの家だった。しかし、ガルゴは不在で返事が無くユウジは困り果て、近くの交番がどこにあるか思い出しながら町をまた彷徨い始めた。
「早くしないと……二人が……。」
逃げ出してユウジは最初、いつの間にか朝になっていたことに驚き、そして人がまだ活動しておらずユウジは大いに焦った。助けを求めようにも人が居らず、逆に不審者だと思われ警察を呼ばれては話を聞いてもらえるかどうか。しっかりと話をして助けを求めたかった。
しかし、ユウジは頭にできた傷のせいでどうにも考えは纏まらず、足も重かった。
ユウジが逃げてから、ユズキは寝室へ向かいリョウを布団から引っ張り出した。
「リョウちゃん、ほら帰ろ?ね?」
「……。」
布団から出たものはいいもののリョウの足は震え、ユズキに引きずられるようにしながらしか動けなかった。ユズキはリョウの体を支えながらも少し進んでは休み、少し進んでは休みを繰り返した。リョウは自ら動くことがほとんどできないのかちょっとした段差にすら足を引っ掛けるので、ユズキはリョウをおぶさる形で持ち上げて移動したがそれはユズキの傷だらけの体には重労働だった。
二人で逃げ出しているリョウとユズキはあの家を出て、痣だらけの体を必死に動かしていたが、少し行った先でユズキが立ち止まり動けなくなっていた。
「っは……う……。うぅ……。」
いつあの男が帰ってくるか分からないため、人気のない道を選び歩いていたが、ユズキはその傷んだ足をさすり蹲っていた。
「っは……痛い。痛いよぉ。」
ユズキはリョウの体を片手で握りしめながらポロポロと涙を流しうめく。捕まってすぐにユズキの足は男によって逃げないようにと散々になるまで包丁で切られ踏みつけられていた。
怪我を負ってから数ヶ月が過ぎ、ユウジと再会できた事、ユウジを逃がすという目的があったからこそ平気に立ち回れたが、その熱は徐々に冷めユズキの顔を涙で濡らすしかなかった。
赤い傷跡は動かしたことでかさぶたが皮膚が引っ張られ肉の赤い中身が見えるようになっていた。
「……ごめんね。ごめんねリョウちゃん。お、オレのせいで……。」
そんなユズキをリョウはそっと寄り添い涙を拭いはじめた。暗い路地で二人は体を寄せ合うことしかできなかったが、ちょうどその頃建物の間から朝日が登ろうとしていた。
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