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あみだくじ 7

 ああ。  ああっ。  カフェの重い扉から噴き出る濁った空気と共に外に押し出され、卵塚は高鳴る胸を左手で押さえた。あまり過剰な反応をしてしまっては引かれるかもしれない、それでも会計中の後ろ姿を振り返ってにやける口を抑えられなかった。  やっぱり、そうだった。  でも確信があったわけじゃない。  最初は迷惑そうだった視線が、料理の皿が空に近づくにつれて自分に向けられて、段々舐めるように滑り出してから予感がした。  素直に従ってよかった。  スマホを確認すると、休憩時間は残り十五分ほど。店までの徒歩を考えると話せるのは数分。でも充分。だってもう一番大きな壁は倒れたんだから。  涼しい風鈴のような音を鳴らしながら扉を押し開け、芦馬が隣に並ぶ。不服そうな目線は本来の年齢通りの不貞腐れた幼さを感じた。  エロいと思ったけれど、可愛いかもしれない。 「それで?」 「ホテル行く?」 「ふざけるな。仕事中だろ」 「だから。終わった後に決まってんじゃん」 「お前……高校生じゃないんだから」  たった数十分前に出会ったとは思えない遠慮のない会話が脳を弱火で焦がしていく。理性まで焼き切れないようにと背筋を正す。  だって、相手は三つも年下なのだ。  誤差とはいえど、リードはしたい。 「芦馬さんはこの後予定あんの?」 「さっきの店で仕事するはずが、潰れた」 「ねえ」  歩き出しながらそっと手の甲を触れ合わせると、怪訝そうだった眉が微かに緩んだ。望んでいた体温に縋るように数秒、撫であう。 「帰らないってことは、対象内ってことでいいんだよね」  止まりそうに鈍い足を、導くように手を前に振り払う。 「しばらくフリーで溜まってる。ゾーンも広がるだろ」 「うっわ。オレじゃなかったら殴られてる」 「”待て”も出来ない奴とヤル気ない」  直球の表現が飛び出し、心臓の周りが痒くなる。  ああ、早く抱きしめてもらいたい。  いや、オレが包んでもいいな。  分厚いコートの下にどんな裸体を隠しているのか、想像するだけで昂ってくる。けれど焦らない。間違えたら終わりだ。  離れたままの手は揃わないまま、店に向かって歩を進める。 「オレ結構芸達者よ。芦馬さんの腰砕く自信しかない」 「じゃあ口数減るといいな。萎える」 「ええー、黙ったらつまらないじゃんね」 「ひとつ、確認なんだが」  交差点で二つの影が止まった。
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