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あみだくじ 6

 口をつぐむと、卵塚は食べ時とばかりにグラタンを平らげる。小さな氷を躍らせながら水を飲み干し、小気味よい音を立ててグラスを置いた。ひとつひとつの動作を審査するように追ってしまい、マグカップを口につけて誤魔化す。  食べる様、飲む仕草は、あまりに素を晒しすぎる。  伝票に伸ばしかけた指先から、白い紙をかすめ取る。無様にテーブルに突いた指先を数秒見つめてから、ゆっくり視線がこちらに移動した。  ああ、やはり気のせいじゃないな。  互いに図りあうような沈黙が通り過ぎた。 「……昼休み終わっちゃう」  名残惜しそうな呟きに、興味がないと偽るように伝票を見る。  立ち上がった卵塚が近寄り、そばにぴたりと足を止めた。それはプライベートゾーンを侵食するわかりやすい一歩だった。  高い腰元が目線にあり、服の皺ひとつにすら鼓動が反応しそうになる。  もったいぶるように耳元に顔を近づけた卵塚が囁く。 「ねえ、同類でしょ」  その声は今まで聞いていた少し高めの軽い声ではなく、脚を開いて誘う時のように湿っていた。首元に走った緊張をもみ消すように手を当て、素早く睨みつける。  男は顔を上げても愉快な笑顔のままだった。だが、頬は上気し赤く染まっていた。  来店を告げるベルの音、今朝のニュースを反芻する会話、手洗いに向かう足音、鼓膜は騒がしく情報を拾い集めるのに視覚は馬鹿正直に卵塚の唇に集中する。 「だったら?」  乾いた声色に辟易するが、精一杯の威嚇だった。  その日限りの相手でも先に値を低く定められるのは屈辱極まりない。今、互いに相手の夜の姿を想像する鍵を手に入れてしまったのだ。  脳裏に重なる妄想と、目の前の駆け引きにアドレナリンが噴き出してくる。卵塚は嬉しそうに黄金色の髪を耳に掛けなおし、下唇を緩く嚙んで見せた。 「ぶっちゃけオレは対象内?」  あまりに短絡的な質問に呆れて反射で口を開いてしまった。 「随分ストレートだな」 「だって、絶対ここで他人に戻りたくないし」  背後を通り過ぎる背広の男が訝し気な視線を投げる。通路を遮っているのは承知のはずだが、その焦燥をこちらに押し付けてくるキノコ頭に苛立ちが波打つ。  仕方なく、伝票を握って腰を上げた。 「出てから話そう」  にまりと持ち上がった唇は、大きな咥内を想像させる大きな曲線だった。  
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