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第5話
「あの、大丈夫です。俺、自分で払えますし」
「んー?気にしないでよ。あ、そうだ。良かったら潤くん、カットモデルやってくれないかな?」
お店のお勘定を済ませた和樹さんは俺に明るくそう提案した。
「...カットモデル、ですか?」
「うん。大丈夫、変にはしないから。一応、顧客はいるけど仕事上、マネキン相手にカットの練習は欠かせないんだ」
店を出ると和樹さんは財布から一枚の名刺を差し出した。
「勿論、無料。ちょうど高校生くらいの男の子のカットの練習もしたいな、て思ってたんだ。比較的、今は女性の来店が多いんだけど」
「....俺でいいなら」
和樹さんから名刺を受け取った。
食事代も支払ってもらったし、和樹さんのにこやかな感じも嫌じゃない。
「潤くん、家は近いの?送ろうか?」
「いえ、すぐ傍ですし、ちょっとコンビニ寄りたいので。大丈夫です」
不意にピコン、とスマホが鳴った。
どうやらLINEらしい。
「やば、俺、もう行かなきゃ。連絡先、名刺にあるから。何かあったら連絡してね。あ!カットモデルの日にち決めたいし、良かったら連絡先、交換できる?」
「はい」
俺と和樹さんは連絡先を交換し、左右に別れた。
コンビニでお菓子やジュースなどを買い、部屋に戻り、ただなんとなく換気したくてベランダの窓を開けた。
隣室の義兄の部屋もベランダの窓が開いているのだろう。
義兄に抱かれる誰かの切ない喘ぎが聞こえてきて、俺は静かに窓を閉じた。
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