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第26話
数えきれないほど、セックスをしてきた。
孤独を埋めるためだったり、単に肉欲だったり。時に交渉の手段として。
特定の相手はいなかった。だから相手の名前は誰1人覚えていない。もちろん、物理的な快感はあった。最中は駆け引きめいた情動を楽しんだりもした。セックスそのものは嫌いではなかった。
俺にとっては、ちょっとしたゲームみたいなものだった。
だから綺麗な女を見れば値踏みする。時には男も。
どう攻略するか…と。
そこに愛があったためしはない。
軽薄で、冷徹な遊びでしかなかった。
それでいいと思っていた。
だが…
今はもう、違う。
狂いそうだった。
レオニス。
コイツが腕の中にいるだけで。
心も身体も欲しい。
何もかも、喘ぐ吐息でさえ。
舌を絡めてこぼれる唾液さえ、逃したくない。
何故なら――この男。良すぎる。
ここのところ刺激され続けたフェロモンもさることながら、恥じらう仕草も声も、汗のかおりも精液の味に至るまで、好みでたまらない。
これが惚れた弱みか――
思わず漏れた言葉。
男の竿を咥えたのは初めてだった。イきそうだと言われて、じゃあ飲まなければと何の疑問もなく思ったことに、口内で達された後驚いた。絶頂に強張る身体を押さえ込んで吸いついている間も、頭の中に嫌悪や憤りもなく満足感だけだった。
もちろん、本能ではやく挿れたいと何度も思った。本懐を遂げたいと。
雄は痛いほど勃ち、濡れてさえいる。だがそれよりも、俺が与える快感に身を捩るレオニスが見ていたい。キスに拙くも夢中で応え、不安げに抱きついてくる腕も、羞恥にすぐ閉じそうになる足も、なにもかもいい。そそられる。発情していなくても、興奮しただろう。
初心で慣れていない。それなのに…吸血鬼故か、身体はひどく好色で。
俺の愛撫に敏感に肌を泡立たせ、美しい身体を蠱惑的にくねらせる。ほんの少し触れただけで乳首に色がつく。雄はよく濡れるし、本人は気づいていないだろうが…後穴は、ほぐすと開こうと懸命にひくついていた。
なのにコイツときたら。
「耐えられるから」だと?
何を耐えると言うんだ、こんなにも全身で俺を欲しがっているのに。自覚していないのか。レオニスは俺が思っている以上に初心なのか?
俺はお前の仮面が欲しいわけじゃない
1番脆くて柔らかなところが欲しい
奥深くまで、入り込んで
からみついて離してやらない
2度と
レオニスの腕が本気で俺に抱きついてきて、いよいよ俺の雄も奴の後穴に擦りつけ分け入ろうとした時。
俺はふと気づく。
「男、初めてか」
そう耳に囁くと、もどかしげに身体を揺らしていたレオニスが息を飲むのがわかった。そして…ぎゅっと抱きつく腕の力を強めてくるのが。
(嘘だろ)
ドッと身体に熱が満ちる。
千年も生きてきて、未だに初めて? この美貌で? こんな好色な身体をしていて? 誰にも? 犯されたことが…ない?
なら――急がなければ
はやく はやく
俺が
押さえつけ、雄を押し込んだ瞬間俺が考えていたことは、自己中心的な独占欲だけだった。
「ア……」
思わず声が出る。
ぎゅっと締め付けられる感触に、奥へと吸い誘うような蠕動。用途が違うからこそ、複雑な動きをしてくる。
また、ほしい、ほしいと思うばかりになる。
この男を食い尽くしたい と。
否応なく、押し込む。
「アッ! あ…ン、ゥ……っ」
レオニスが呻く。ギリギリと背中に指を立てられ、痛いよりも興奮した。俺の汗で滑るのか、何度もガリ、ガリと引っ掻く。自分の血のにおいがしたが、かまわない。
尻に腰を押しつけたまま揺らし、馴染ませる。だがその度に中は俺を締め付けた。レオニスの未だソックスサスペンダーのついた膝が揺れる。
「レオ」
名を呼ぶ。
白い睫毛に縁取られた瞼が薄く開く。俺の汗が、奴の額や頬にポタポタと落ちた。鼻先が時折触れる。互いに浅い吐息は混じり合う。
「もっと…」
枯れた声でレオニスが呟く。返事代わりにキスをすると、それに応えてから
「もっと…呼んで…、レオ…と…」
可愛いことを。
ドクドクと繋がった箇所に血脈を感じた。狭いが馴染んだのを悟り、ゆっくりと腰を揺らす。はじめは小さく。
「あっ、…ん…」
重ねた唇の隙間から、喘ぐ声が漏れる。それを塞がないようにしながら、腰をすくうように何度も動かした。小さく肉同士がぶつかる音が響く。タッ タッ タッ…と。
「…っ…レオ……」
望む通り呼べば、喉の奥でレオニスが甘く呻いた。腰をくねらせ、足を俺の腰と腿に絡ませてくる。シルク綿の靴下のスベスベした感触が肌を擦った。
揺らす腰は止めない。俺も快感が欲しかった。ずっと味わっていたいと思うほど、コイツの中は心地いい。腰を掴んで緩急をつけながら突き上げると、レオニスの身体がしなる。
「あっあ、…スラッシュ…っ、…!」
レオニスの雄も勃ち上がり、蜜をこぼしていた。やはり、色ごとには長けた身体なのだろう。痛みや恐怖が強ければば勃起などしない。
それを見て箍が外れて来る。
俺は上半身を立てて、レオニスの膝を押し広げた。
「!」
どちらにも繋がっている部分が見える。
俺はレオニスが恥ずかしがるかと思った。
だが違った。
奴は俺の腕に指を絡め、膝を開かせながら…一瞬、笑った。
壮絶な妖艶さで。
アイスブルーの瞳は氷のようだが、そうじゃない。やはりこれは炎だ。高い温度で燃え続ける炎。
全身が総毛立つ。
たまらない。
魅了などなくても、俺が虜にされる。
犯しながらも、俺が食われているような感覚。
名を奪われて支配されるような。
レオニスの両腕を掴み、馬の手綱を引くように腰を打ちつけると笑みは消え、目尻を赤く染めながら悩ましげに眉を寄せる。柔らかな髪が振動のたびに形を変えた。
「アッ、…アッ! …だめ、ダメ…っ!」
「何がダメだ」
「ま、た…イっ…、…!」
やらしい身体だ。ゾクゾクする。
そう喘ぐそばからレオニスの雄が震え、射精する。自分の腹から脇へと雫が滑ってゆく。俺は突き上げるのをやめて、それを指ですくい舐めた。
いい味だ。やはり美味い。
「お、お前……」
ゼエゼエ言いながら、レオニスが見咎めたが、気にしたことじゃない。
「お前だって、俺の血を美味そうに飲むだろうが…おあいこだ…」
また身体を屈めて、押しつぶす。深く入り込み、レオニスは呻く。キスをすると、はじめは嫌そうに喉を鳴らしたが、すぐにまた俺の頬を愛しげに撫で、舌は応える。
また、腰を揺らす。
今度は自分のために。
もっと、もっと奥だ。
レオニスの1番深くに。
俺の印をつける。
誰も奪えないように。
レオニスの身体を抱きすくめる。短く吐き出される息と、小さな喘ぎを耳朶に感じながら。
そして、最奥に。
「!」
ぶるっと身体を震わせた瞬間、今はない尻尾先にまで電流が流れた心地がした。数度、余韻で強く打ち付けて…動きを止める。
静寂に俺とレオニスの荒い息を吐く音だけが残る。
じっと汗に湿った滑らかな身体を抱いたままでいると、白い指が髪を梳った。
「スラッシュ…、発情してると、言ってたが…」
「何だ」
指はもじもじと俺の髪をいじる。
「…人狼の発情は……もっと、性急で乱暴なのかと、思ってた」
「……俺が我を忘れると?」
「違うんだな」
むくりと頭だけ起こして、レオニスを見る。
未だ汗ばんで惚けた顔はしていたが、満ちた様子だった。次第に素に戻りつつあるのか、恥ずかしげでもあった。
「違う」
「そうか、安心し…」
「止まらないだけだ」
「そうか、止まら……え…?」
パチパチとあどけなく瞼が瞬く。
「終わってねえぞ、まだ」
俺は笑わなかった。
レオニスの腰を掴む手も、緩めていない。
言ったはずだ。後で可愛がってやると。
「逃さねえぞ、…レオ」
どうせ、外は大雪だ。
しばらくどこにも行けやしない。
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