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百日目の姫君 1-2

 清人は父親の幼なじみで、アルファだった。父と同い年なので、今年で四十歳になる。清人は小さくて鈍い子供で、自分のほうがアルファにふさわしかったと、未来は事あるごとに飛鳥に言っていた。が、思春期になって性別が確定すると、清人と未来の立場は逆転した。清人は背丈も成績も未来を追い抜かし、未来は華奢で中性的なオメガそのものの外見になった。 「こんなところで言うことじゃないけど」  飛鳥は声をひそめて清人に耳打ちした。 「俺、オメガだった。検査の結果が正式に出たんだ」 「そうか。未来はなんて言ってた?」 「俺のほうに似てしまったか、って」  飛鳥は十年前に乳癌で死別した母を思い出していた。母の志織は、未来よりも四歳年上のアルファの女性だった。 「身体は大丈夫なのか? 来年受験だろう」 「ずっとだるいのが続いてたから、覚悟はしてた」  清人は目に蔭を落として苦笑すると、飛鳥の肩に手を置いた。飛鳥の心臓がかすかに跳ねる。 「辛いことがあったら言ってくれよ」  清人は誰にでも均等に優しさを分けてくれる。でも、清人を好きな者にとって、その優しさは毒だった。自分がオメガだと知って喜んだと言ったら、清人は絶対に変な顔をするだろう。 「清人さん」  飛鳥は清人の耳元に内緒話をするように手をかざした。 「お父さんのかわりに、俺が清人さんの子供を産んであげるよ」  清人は一瞬目を瞠って飛鳥を見下ろした。そして、息を吐いて笑う。 「俺がおむつをあてた子に、子供を産んでもらうなんてなあ」  飛鳥にしか聞こえないような声で呟いて、清人が腕組みをしながら微笑んでいる。いつもこうだ。清人は飛鳥の言うことをいつも本気にしない。
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