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1.王宮潜入ミッション!秘密の牢屋で淫らなお風呂タイム!
魔界の王宮は、権力者たちが集う厳かな場所であり、格式高い悪魔たちが日々政治を取り仕切っている。そんな王宮に、ルシェルとノクスが「ちょっとしたイタズラ」を仕掛けようと忍び込むことにした。
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「なあ、ノクス。今日は王宮でちょっと遊んでみない?」
「いいね、ちょうど退屈してたところ!」
力強い鷹の羽根を広げたルシェルが、ノクスを軽々と抱え、夜の王宮へと舞い降りる。衛兵の隙を突き、音もなく裏口へと滑り込むと、ふたりは素早く暗がりへ身を潜めた。ノクスは犬の耳をピクピクと動かし、周囲の気配を探る。
「今回のイタズラ、何をしようか?」
「うーんと……」
侵入さえ成功すれば、あとは好き放題。計画通りに進んでいることに気を良くしたふたりは、クスクスと笑い合いながら王宮の廊下を進んでいく。警備の巡回が近づくたび、カーテンの裏や扉の陰に身を潜め、難なくやり過ごした。
実はルシェルとノクスは、魔界の王家の遠い親戚にあたる。万が一捕まったとしても、それなりにうまく言い逃れられる立場だ。だからこそ、こうした悪戯も慣れたものだった。
二人が考えた悪戯はこうである。
・玉座の間のシャンデリアに「ふわふわの羽毛」が降ってくる魔法を掛ける
・役人たちが国王の椅子に座ると、「オレのものだぞ!」と大声で叫んでしまう呪いをかける
・侍従長の机に「一日一回絶対に踊り出す魔法」をかける
「どれも最高じゃん!」
「でしょ?さ、やっちゃおうぜ!」
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すべては順調に進んでいた。
ふたりがたどり着いたのは玉座の間。王が臣下と対面するための正式な謁見の場だ。
馬蹄型の大広間は今は無人だったが、厳かな空気が漂っている。広間を囲むようにして二階部分にはテラスがあり、ふたりはそのカーテンの裏に身を潜めていた。
「どんな魔法を仕掛けようか?」
「やっぱり派手なやつがいいよね」
ひそひそと相談しながら、ふたりはジャンケンで決めようとしていた——
——しかし、その瞬間。
テラスの床に赤い魔法陣が出現し、ふたりの片手が一瞬で消し飛んだ。
「ぎゃっ!」
「うわっ!」
侵入者用のトラップ魔法が発動したのだ。
ルシェルとノクスがそれぞれジャンケンで差し出していた方の腕は、肘から先が消失していた。熱で炭化した皮膚が焦げた肉片とともに剥がれ落ち、焦げ臭い匂いが鼻を突いた。
だが、上級悪魔である二人にとって、これくらい軽傷である。血すら流れず、傷口はすでにじくじくと蠢きながら、ゆっくりと再生し始めていた。
「え、ちょっと待って!? なんでバレた!?」
「えっ、ルシェル、もしかして……俺の尻尾がセンサーに触った?」
「……かも」
「ダメじゃん!」
突如、甲高い警報音が鳴り響く。
『不審者侵入! 不審者侵入!』
——こうして、ふたりの王宮潜入ミッションは、開始早々に失敗したのだった。
前髪の一部も焼け焦げ、毛先がちりちりと縮れていたが、そんなことはどうでもいい。二人にとって問題なのは、千切れた腕よりも、この警報音の方だった。
慌てて逃げようとする二人だったが、すでに手遅れだった。四方から衛兵が押し寄せ、瞬く間に包囲される。
「ルシェル様、ノクス様……またでございますか!?」
屈強な魔物たちに取り囲まれ、あっという間に押さえつけられる。治りかけた傷口に触れられ、ノクスとルシェルは悲鳴を上げた。
「まだ何もしてないよ!」
「そうだぞ! 僕たちは迷子になって、たまたま謁見の間に来ちゃっただけ!」
「いいえ、どうせ今回も何かイタズラを企ててのご侵入なのでしょう? 申し訳ありませんが、謁見の間不正侵入の罪で、正式に逮捕させていただきます」
悪戯の常習犯であるノクスが持ち前の演技力で必死に言い逃れしようとするが、衛兵たちは呆れた様子でため息をつく。
やがて拘束され、魔物のゴブリンが呼ばれる。
臭くて汚いゴブリンに手綱を握られ、牢獄に引き立てられていく二人だったが……やがて、ニヤニヤしながら顔を見合わせた。
「このまま牢獄行きか……おい、ルシェル、どうする?」
「んー、牢獄でイチャイチャする?」
「ナイスアイデア!」
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王宮の地下牢に放り込まれたルシェルとノクス。
トラップ魔法で消失した腕は、すでに元通りになっていた。傷口の再生には時間がかかる場合もあるが、今回は驚くほどあっさり治ったようだ。しかし、ルシェルにとってはそれよりも、指にはめていたシルバーリングが溶けて消えてしまったことの方がショックだった。
「ボクの指輪が~……」
鉄格子にもたれながら、ルシェルはしょんぼりと肩を落とす。
「また王宮の宝物庫からくすねりゃいいだろ」 「そうだけど……あれ、気に入ってたのに……」
地下牢の空気はひんやりと冷たく、湿気を含んでいた。レンガの溝から地下水がじわじわと染み出し、床には小さな水たまりがいくつもできている。天井からは時折、水滴がぽたりと落ち、静かな牢内に微かな音を響かせた。
「この牢屋ジメジメしてる……最悪」
ルシェルは壁に手をつこうとして、すぐに引っ込めた。濡れたレンガに触れた指先が、ぬめるような冷たさを帯びている。
「……ん?」
指先についた水滴が、わずかに光を帯びていた。違和感を覚え、目を凝らしてレンガの壁を見つめる。表面に滲む水滴の形が不自然に歪み、ゆっくりと揺れている。
「ノクス、これ……」
ルシェルが指を差すと、ノクスも壁に目を向けた。よく見ると、レンガの間に埋め込まれるようにして、薄く魔法陣の刻印が浮かんでいる。普段なら気づかないほど微細な魔法の痕跡——これは、王家の者にしか見えないものだ。
「……あー、これ、結界魔法だな。王族専用のやつ」
ノクスが壁を指でなぞると、一瞬、指先が青白く光る。まるで水面を揺らしたように、レンガの表面が波紋を広げた。
すると、レンガの表面が淡く青白い光を帯び、波紋のような魔力の揺らぎが広がる。埋め込まれた紋様が次々と浮かび上がり、絡み合うように複雑な光の模様を描いた。
「……やっぱり、俺たちの血に反応してるな」
「ってことは、ちゃんと王族扱いされてるってこと?」
「そういうこと」
ルシェルはくすっと笑い、壁の向こうを探るように気を巡らせた。
「ーーこの向こう、隠し部屋がある」
「牢の裏に隠し部屋……王族しか解けない魔法……絶対ヤバい」
「ワクワクしてきた!」
ふたりは顔を見合わせ、ニヤリと笑った。
「じゃあ、せーのでやろうか」
「おう」
二人が指を滑らせると、魔法の紋様がゆっくりとほどけるように消えていく。すると、レンガの質感がまるで水のように揺らぎ、波紋を広げながら徐々に透明になった。
やがて完全に消失した壁の向こうには、思いがけない光景が広がっていた。
そこは、囚人を閉じ込めるための無機質な空間ではなかった。 壁には深紅のベルベットの布が掛かり、天井には仄暗く妖艶な光を放つシャンデリアがぶら下がっている。部屋の中央には、やけに大きな円形のベッド。艶やかなシルクのシーツが敷かれ、枕にはふわふわのファーが添えられていた。
ベッドの隣には低めのガラステーブルがあり、その上には高級そうなワイングラスと、香りの強い魔界産のフルーツ。奥の壁際には大きな鏡が取り付けられ、その前には長椅子が置かれている。
さらに視線を巡らせると、部屋の片隅には妙に目立つ金色の装飾が施された扉があり、その横には温かそうな蒸気が立ち上る浴槽まで見えた。
「……これ、ヤバくない?」
「うん……これ、牢屋っていうか、そういう……いや、ほら、ボクたちがよく知ってる……」
「……分かる、読者も察してる」
ご丁寧にも別室には、赤いレザーが貼られたX字の拘束台、内側にずらりと棘が並んだ鋼鉄の棺、三角木馬、木製の断頭台──さらには、巨大な水槽に入れられたスライムや蠢く触手まで完備されていた。
牢獄にしては妙に整いすぎたこの『えっちな悪魔様大満足♡』仕様の部屋を一通り見渡し、二人は顔を見合わせる。
「……じゃあ、せっかくだし……?」
「いや、その前に風呂だ!ゴブリンの臭いが染み付いて、それどころじゃねえ!」
「それな!まずは体を清めないと、気分も乗らないよ!」
ルシェルはぱんぱんと服についた埃を払いながら、豪奢な浴室へと向かう。
金色の装飾が施された扉を開けると、中は驚くほど広かった。黒曜石の床に、蒸気が立ち込める大理石の浴槽。壁際には香り高いオイルや、泡立ちの良さそうな石鹸がずらりと並べられている。
「……なんかもう、牢獄っていうより、貴族の秘密の遊び場じゃん」
ノクスが呆れたように言いながらも、さっそく服を脱ぎ始める。
「ま、ありがたく使わせてもらおう!」
ルシェルも続いて服を脱ぎ捨て、二人は湯気の立ちこめる浴槽へと足を踏み入れた。温かい湯が肌を包み込み、ゴブリンの嫌な臭いがゆっくりと洗い流されていく。
「ふぅ~、極楽極楽……」
「なあ、ここってさ、誰が使ってたんだろうな?」
「さあ?でも、どうせ王族の誰かでしょ? ここ、王家の者しか解錠できないみたいだったし」
「ってことは、俺らも王族ってことで、堂々と使っていいってこと?」
「……まぁ、そういうことにしとこう!」
気持ちよさそうに湯に浸かるルシェルとノクス。しかし、次第にお湯はとろみを増し、ピンクを帯びていく……
「こんな所にまでトラップ魔法が!?」
「そうみたい…でも、これってもしかして……」
「媚薬風呂という名の、発情トラップ~~!?」
とろみを帯びた湯がじわじわと肌に染み込み、体がじんわりと熱を帯びていく。喉が渇き、息が上がり、心臓がドクドクと早鐘を打つように脈打つ。
「っ……なんか、変に気持ちいいんだけど……」
ルシェルは腕を擦りながら眉をひそめた。肌が妙に敏感になり、触れるたびにゾワリとした快感が背筋を駆け上がる。
「ヤバいって、これ……っ」
ノクスもまた、浴槽の縁に手をつきながら荒く息を吐いた。汗ばむ額、火照る頬、そして落ち着かない身体。これは確実に、やるしかない。
湯気に混じる甘ったるい香りが、さらに二人の理性を溶かしていく。
ノクスがルシェルの顎を持ち上げるようにして唇を寄せると、ルシェルは小さく笑って応じる。
「牢屋でキスとか、悪魔的でしょ?」 「こんなことしてたら、余計に刑が重くなるかもな?」
「……それも面白いかも」
そのまま二人は甘く深いキスを交わし、牢屋の中とは思えないほど熱を帯びた雰囲気に。
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何回戦か済ませて空腹の二人が、夕食を何にするかで喧嘩を始めた頃、王宮の役人がやってきた。 繰り返すが、ルシェルとノクスは魔界の王家の遠い親戚だ。役人の方が地位は下、魔力も下である。
「ルシェル様、ノクス様、どうぞもうお帰りください」
「えっ、なんで?」
「この牢屋は、実は王族がこっそり愛人と密会するための場所でして……急な予約が入ったのです」
「……やっぱり、そういう用途の部屋だよね」
「急な予約だなんて、色々察するね」
「おい、これからここを定期的に使わない?」
「いいね!それこそ悪魔的な牢屋の使い方じゃん?」
こうして、王宮への潜入は失敗に終わったものの、二人にとっては楽しい時間となったのだった。
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牢を出て、王宮の中庭で伸びをするルシェルとノクス。 魔界の夜空を眺めながら、秘密の部屋からくすねたワインと魔界産の芳しいフルーツを摘んでいると、急速に魔力と体力が回復していく。
「ねえ、やっぱりこの後、王宮の晩餐会に潜り込もうか?」
「それ、楽しそう!」
こうして二人の悪戯の日々は、今日も終わることなく続いていく……
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