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第16話 フィナンシェとマカロン
シェーンが『五感の護り』として覚醒した次の日。
リリムたちは三人で馬車に揺られていた。
カロン=ラインが住むカヌレ村に向かうためだ。
「リリム、焼き菓子を持ってきたけど、食べる? クッキーとフィナンシェ、リリムが好きなマカロンもあるよ」
シェーンが上機嫌で小さなバスケットを開けた。
中にはお菓子が詰まっている。
ちょっと、ときめいた。
「ありがとう。じゃぁ、フィナンシェをもらう。いただきます」
シェーンがお茶会で準備してくれるお菓子は、いつも美味しい。
旅先でも同じ菓子が食べられるのは、嬉しい。
「レアンは、食べないのか?」
上機嫌なシェーンとは裏腹に、レアンは機嫌が悪い。
人前で不機嫌な顔など見せるタイプではないので、珍しいと思う。
「私は、遠慮するよ。それより何故、付いて来たんだい? 『神実』探しなら、私とリリムで充分だったのに」
「その台詞、何度目? 俺も一緒のほうが、きっと見付けやすいよ。俺は耳 だから、風魔法と併せて広範囲の声や音を拾える」
とても素晴らしい能力だと思った。
「私の目 だって、千里眼と併せて使えば広範囲を見渡せる。リリムと二人でも充分、事足りたよ」
レアンの能力も素晴らしい。
やはり『五感の護り』は個々の能力が高い。
(主人公の『神実』と『五感の護り』は、小説の中でも強くて格好良いからな)
だからこそ、強い主人公陣営に見合うだけの悪役令息としての実力を身に付けたい。
リリムは決意を新たにした。
「シェーンの目敏さは、昔から変わらないね」
レアンがさりげなくリリムの腰を抱き寄せた。
その声も顔も、やはり不機嫌だ。
(レアンはシェーンの前だと子供っぽい顔をするのだな。感情表現が素直だ。同い年だからだろうか)
誰に対しても同じ顔で微笑んで同じ態度なのが、小説世界のレアンだ。
この世界でも大体、小説と同じだと思っていたが。
(いや、小説とは少し違うかな。僕を『魔実』として覚醒させたやり方は強引だったし、ちょっと腹黒さを感じた)
悪い印象ではないが、小説の中のレアンとは違った。
(同い年で従兄弟のシェーンには、甘えているのかもしれないな。そういう相手がいるのは、良いことだ)
リリムはシェーンとレアンを見比べた。
物腰柔らかで優しい印象が似ている二人だが、何となくシェーンのほうが兄感がある。
(レアンには、やっぱり皇子感がある。オーラがあるとは、こういう人を言うのだな)
何となくレアンを見詰めていたら、視線に気づかれた。
「熱い視線を向けてくれるのかい? 嬉しいな。リリムも私と二人きりで、旅行がしたかっただろ?」
頬を包まれて、額にキスされた。
最近のレアンはスキンシップが頻回だ。
「旅行ではなく『神実』を探す旅だが。僕はシェーンが一緒に来てくれて良かったと思う」
レアンの表情があからさまに曇り、シェーンが明るい顔になった。
「レアンが素直に気持ちを表せる相手が側に居るのは、良いことだ」
「え?」
「ん?」
レアンとシェーンが揃って似たような反応をした。
仲が良いなと思う。
「レアンが素直に不機嫌な顔を見せられる相手は、シェーンくらいだろう? それだけ、いつも気を張っているのだろうし、学院を離れた時くらいは、リラックスできたほうがいい」
使命感のある旅とはいえ、常に気を張っていては疲れる。
レアンは第一皇子だから、日常でも息を抜ける場面が少ないのだろう。
レアンとシェーンが顔を見合わせた。
同時に、吹き出した。
「あーぁ、リリムにそんな風に言われてしまうと、いつまでも子供のような態度では、いられないね」
レアンが苦笑した。
馬車に乗ってから、初めて笑った気がする。
「僕は見なかったことにするから、気にしなくていい。せめて村に着くまでは、気を緩めてくれ」
「観てくれていいよ。もっと私の素の顔を知って、私のことばかり考えるリリムになってくれて、いいんだよ。むしろ、リリムが私を甘やかして、癒してくれるかい」
レアンがリリムの額や頬に口付ける。
リリムの頬に掛かるレアンの手を、シェーンが掴んだ。
「リリム、こちら側に座ろうか。レアンのスキンシップが、しつこすぎるようだから」
腕を引かれて、体がよろめく。
引き摺られるようにシェーンの隣に移動した。
ちょうどお菓子のバスケットが近くにあったから、覗き込んだ。
「シェーン、行きは私の隣で納得したはずだが?」
「そんなにキスするとは、聞いてないよ。リリムだって困ってるから」
レアンとシェーンに視線を向けられて、顔を上げる。
ちょうどマカロンをパクリとした瞬間だったから、何も話せなかった。
早く話そうと一生懸命もぐもぐしていたら、シェーンが笑い出した。
レアンが困った顔で照れている。
不思議に思って首を傾げた。
「最近のリリムって、可愛いよね。小動物みたい」
「マカロンを食べているだけで、そんなに可愛いなんて、知らなかったよ」
菓子を食べて可愛いなんて言われたのは、初めてだ。
(そういえば、リリムは顔が良いという設定だったな。だからか)
主要登場人物の中では、主人公と同じくらい小柄だし、身長が高いレアンやシェーンからしたら、子供っぽく映るのかもしれない。
(年齢も二個下だから、そのせいだろうか)
ちょっと恥ずかしく思いながら、リリムは一生懸命マカロンをもぐもぐした。
「はぁ、おかしい。なんだか気が抜けたね。リリム、レアンの隣に座ってあげて」
シェーンに促されて、リリムは元の場所に戻った。
「その代わり、濃厚なスキンシップはナシでね」
シェーンの目が、笑っているが笑っていない。
「わかったよ。手を繋ぐくらいは、いいかな。肩か腰を抱くとか」
レアンの手がリリムの肩や腰を掠める。
ちょっと擽ったい。
「次に触ったら、今後こそ返さないよ」
シェーンに注意されて、レアンのスキンシップが止まった。
「やっぱり、二人きりが良かったな」
「俺は三人で良かったよ。ね、リリム」
シェーンに振られて、リリムは頷いた。
「僕はきっと、あまり役に立てないから、シェーンが来てくれて良かった。レアンにだけ負担をかけるのは、忍びない」
魔法もまだまだ自在ではないし、『魔実』として覚醒して間もない。できることは少ない。
『五感の護り』の中でも魔法の実力上位の強キャラ二人がいてくれるのは、心強い。
「うん……。今は隣にリリムがいてくれるだけで、良しとするよ」
リリムの髪を梳いて、レアンが笑んだ。
その笑みが憂いて見えて、リリムは首を傾げた。
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