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第30話 剣の練習、その前に

 次の日の午前、カロンは剣技の練習場に来ていた。  今日はリリムがカロンの部屋まで迎えに来てくれたので、ちょっと安心だ。  練習場には既にカデルの姿があった。 「おはよう、カロン。ちゃんと来たな。偉い偉い」  カデルが頭を撫でてくれた。  何となく照れる。 (カデルの触れ方は優しいというか、くすぐったくて、ドキドキすんだよな。(スキン)だからかな)  カデルは『五感の護り』(スキン)だ。  あまり自覚がないように見えるが、リリム夜神に言わせると。 『カロンには特に触っているように見える。カロンとの接触で、覚醒し始めているのかもしれない』  との話だった。  リリムはカデルにカロンほどのスキンシップを受けていないらしい。 『この世界は小説世界以上に、皆のスキンシップが濃厚だ。その一環かもしれないが、カデルは僕に必要以上に触れない』  カデルのことは置いておいて、他の皆の過剰なスキンシップは、もはやスキンシップではないのだろうと思った。 (全然、気が付いていない辺りが、夜神くんだけど。リリムが気付かないから、エスカレートするんだろうな)  リリム夜神が皆を誑し込んでいる理由の一つが、分かった気がした。 「今日はカロンが初日だから、準備運動を入念に行おう。まずはいつもの体操、腕立て腹筋と反復横跳び、ランニングだ」 「え、待って。それ、準備運動だけで俺、へばりそうなんだけど」  思わず苦言を呈した。  リリムがカロンの耳元に顔を近づけた。 「大丈夫だ。最初はラジオ体操だ。腹筋や反復横跳びは回数を減らす。カロンは作戦通り、なるべくカデルの側に居てくれ」 「わかった……」  今日の剣技の練習には、目的があった。  カデルを『五感の護り』として覚醒させること。  そのために、カロンはリリムと事前の打ち合わせをしている。 『早々に三人に覚醒してもらって竜穴の封印に行きたいが、あまり不自然にも出来ない。今、気が付きました! とか。何か感じました、今! とかが望ましいと思うんだ』  つまりは、その場で感じ取った(てい)で覚醒させたい、ということなんだろう。  本来であれば、『五感の護り』を見付ける所から始めねばならない。  リリムとカロンが『五感の護り』の面子を知っているのは不自然な状況だ。 (神託を受けたとかにすると、女神様が幽閉されている事実が明るみになった時に、面倒だもんな)  現時点で女神アメリアが幽閉されている事実を知るのもまた、リリムとカロンだけだ。  あまり大勢に話すと混乱を招きそうなので、二人の秘密にした。 (それはまぁ、良いんだけど。覚醒するのが俺じゃなきゃダメってことは、今更ないような気がするんだよなぁ)  リリム夜神曰く、『五感の護り』の覚醒は『神実』であるカロンがすべきなんだそうだ。  レアンとシェーンを自分が覚醒させてしまったことを、酷く後悔していた。 『僕が覚醒させるのは、順当ではない。僕はイレギュラーな果実だ』  カロン神木に言わせれば、今更だ。  リリムの『魔実』だけでなく、レアンやフェリムのキャラブレも、ラスボス変更も、女神の幽閉も、原作にないキャラが存在するのも、総てがイレギュラーなのだから。 (リリムの幼少期も、俺的にはイレギュラーだけど。そういえば、夜神くんは知っているのかな。聞き忘れちゃった)  ぼんやりしていたら、カデルがカロンの肩を叩いた。 「メニューが多すぎたら、辛いって言えよ。剣の練習前にへばったら意味ねぇからな」 「うん、ありがと、カデル」  カデルの優しさが沁みる。  こっちに来てからというもの、カデルの優しさに、ずっと癒されている。 「カロンは、どう見ても戦士向きじゃぁねぇもんな。『神実』は代々魔術師が多いって聞くし、護身程度に使えれば問題ないぜ。なんかあったら、俺が守ってやるからな」  守ってやる、と言われて胸キュンした。 「では、始めよう。まずはラジオ……、準備運動からだ」  リリムに声を掛けられて、カロンはカデルに並んだ。   「足を肩幅に開いて、両手を上げて伸ばす運動から。はい! いち、に!」  ラジオ体操なんか久し振りで、ほぼほぼ忘れているから、動きが遅くなる。  リリム夜神の指導の賜物か、隣のカデルは完璧にマスターしている。  カロンはリリムの動きを見ながら必死に付いていった。 「は……、はぁ……、はぁ……」  カロンは四つん這いになり、項垂れた。  結局、ラジオ体操を第二まで終え、腹筋と腕立て、反復横跳びを終えて、ランニングまでこなした。  付いていくのに必死過ぎて、辛いと声を掛ける隙さえなかった。 「大丈夫か、カロン。無理したか? これでも普段の半分以下なんだが」  リリムの言葉に愕然として顔を上げた。   「リリムだって魔術師でしょ? 剣士じゃないよね? なんで耐えられるの?」 「最近のリリムは剣士もいけるぞ。魔術剣士になれるかもな」  カデルが爽やかに笑った。  魔術剣士といえば、魔術師と剣士の素養を併せ持った、高位の術師だ。  この国では一握りしかいない存在だ。 (さすが、生徒会長。能力がある人間は、どんな世界に来ても特別になれてしまうんだ)  一般生徒でしかない神木的には、かなり辛い。  能力以前に、根性も持久力もない。 「水分補給が必要だな。僕が水を取ってくる。カデルはカロンを見ていてくれ」 「あれ? 持ってきたつもりだったが、なかったか。すまん、リリム」 「大丈夫だ。大丈夫だから、カデルは、なるべく近くで、カロンを見てやってくれ」  近くで、を強調しつつカロンに目配せしながら、リリムが校舎に走っていった。

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