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第35話 内緒の作戦会議

 折角なので、|肌《スキン》として覚醒したカデルも交えて、四人で話すことにした。  部屋に来たカデルはラスが気に入った様子だった。 「リリムの従魔なのか? 可愛いなぁ。犬か」  ラスを素直に可愛いと褒めた人は、初めてかもしれない。 「犬じゃない! フクロウの羽と目を持つ狼だから。小さいけど強いから! 我、悪魔だから!」  必死に訴えているが、カデルに背中やら腹やらを撫でられて、気持ちよさそうにしている。 「一先ず、ラス。現状の説明をしてくれないか?」 「我が? まぁ、そうね。リリムが話して、訳わかんなくなっても、困るしね」  面倒そうにしながらもラスが承諾した。  話してはいけない話までされては困ると思ったのだろう。  ラスの話を聞いて、三人の表情が蒼褪め、固まった。 「女神様が、大天使に幽閉された……?」 「竜に閉じ込められているのでは、竜穴の封印が解けて竜が出てきた時、討ち取ったりしたら、女神様も消えるのだね」 「結界を張り直せるのは『神実』と『五感の護り』だけなんだな?」  三人の問いかけに、ラスが纏めて頷いた。 「今なら『魔実』であるリリムも必要だね。古い結界を壊して、新しい結界を張る必要があるからね」 「結界を壊せるのは闇属性だけ、か」  レアンが神妙な面持ちになった。 「世界を消滅させようとしている大天使メロウを、我々は討ち取らなければならないのだね」 「そそ。じゃないと、我が壊して作り直す世界もなくなるし、アメリアが護りたい世界もなくなるワケ」  とんでもない話をしているが、小さな姿で宙に浮いているラスだと、怖さがない。 「壊すって。やっぱりラスは発想が悪魔だね。女神と悪魔が協力して大天使を討つって、とんでもない構図だね」  シェーンが微妙に呆れている。 「その大天使が放った刺客が小天使で、ルカとカロンを狙っている訳か」  カデルの顔が険しくなった。 「小天使は、大天使メロウが『神実』を乗っ取って、『魔実』を殺すために放った刺客だよ。小天使アモルとクピド。ルカって子に憑いてるのは、アモルじゃないかな」  三人の顔が強張った。 「何故、僕を殺したいのだろうか?」 「リリムの『魔実』は悪魔属性だから神力の洗脳効果がない。その上、『神実』や『五感の護り』の力を増強するからねぇ。『神実』や『五感の護り』は属性が神になるから、操り易いんだよ。面倒なの排除して、使いやすい駒を残したいんじゃないの?」  ラスの説明が、実も蓋もない。 「それもう、天使の思考じゃないよね」  シェーンが完全に呆れている。 「ルカは『五感の護り』候補なのだね。助けると言っても、方法が難しいね」  レアンの言う通り、小天使を剥がす方法なんか、知らない。 「天使だけ殺しちゃえば? どのみち生かしておいたら、面倒だよ」 「発想が悪魔だな。そもそも、剥がし方がわからねぇだろ」  カデルが間髪入れずに突っ込んだ。 「カロンが剥がせばいいんだよ。神力を持ってる『神実』なら、簡単に剝がせるから。剥がしてすぐ殺しちゃったほうがいいと思うなぁ。生かせば次、誰かが同じように狙われる。繰り返すだけだよ」 「まぁね、ラスの言う通りだけどね」  シェーンが納得しながらも戸惑っている様子だ。 「人間て、よくわからないよねぇ。悪魔を殺すのに躊躇ないのに、天使を殺すのに戸惑うんだ。奴らは、天使の皮を被った悪魔だよ。大事にしている間に、あっという間にこの世界、消滅しちゃうよ」  ラスが完全に呆れかえっている。  三人が返す言葉もない様子で押し黙った。 「それなら、僕が小天使を殺《や》ろう。闇属性だし、ちょうどいい」  リリムは、さっくりと返事した。 (僕は悪役令息で未来のラスボスだ。天使如き殺せなくては務まらない。天使殺しなんて肩書はむしろ、箔が付く)  リリム夜神にとっては願ってもない機会だ。 「それがいいね。我も手伝うし」 「うん、よろしく、ラス」  肉球とハイタッチする。  ぷにぷにで気持ち良い。 「待ってくれ、リリム。そう簡単に決めていい話ではないよ。この国で、女神や天使がどれだけ大切に崇められているか、知らないわけではないだろう? 天使殺しが知れたら、どれほどの汚名を着ることになるか、考えてくれ」  レアンが必死に説得し始めた。 「レアンの言う通りだよ。下手をすれば死罪だ。しかも、リリム個人の問題じゃ収まらない。ヴァンベルム家の問題にもなりかねないんだよ」  シェーンの顔がいつもより険しい。  リリムは、ぼんやりと『魅惑の果実』の設定を思い出していた。 (この国は女神アメリアを信仰するライト教で国家統治しているのだったか)  ライト教には多くの神や天使があるので、国により信仰する神が異なる。  その中でもミレニア王国は豊穣と平和の女神アメリアを国の守護神と崇め、その恩恵として『神実』を授かっている。  天使は女神の意志を告げる重要な存在であり、教会に守られている。 (一番厄介なのは、この国において女神も天使も実在すると全国民が信じている状況か)  日本のように神そのものが概念ではなく、実態をもった生き物に近い。  特に天使は神の使者として、教会関係者の一部と、『神実』や『五感の護り』が接触してきた歴史がある。  実在する存在として認識されている。 「確かに、実態のある生物を殺すのは、殺人と大差ないか。殺人は、良くないな」  リリムの言葉にレアンはじめ三人が、安堵の息を吐いた。 「拘束して連行するか。しかし、拘留する場所がない。どうしたものか」 「これだから人間は、愚者だよねぇ。仕方ないなぁ。我が食べてあげるよ。我のお腹の中に入れといて、アメリアの裁きを待ったらいいんじゃないの?」 「食べては、いけない。ラスがお腹を壊すかもしれない」  天使を食べて、腹痛でも起こしたら事だ。 「リリム、多分そうじゃねぇぞ」  カデルが思わずといった具合にツッコんだ。 「リリムとカロンで弱らせて小さくしてくれたら、暴れもしないだろうしさ。それで手を打ってあげるよ」 「僕とカロンで小さくできるのか?」 「光属性と闇属性の力が混ざり合うと、特殊な力が生まれる。普段は相いれない力も、『神実』と『魔実』なら可能だ」 「そんな力があるのか」  ラスがちょっと悪そうな顔で笑った。 「我もまだ見たコト、ないんだよねぇ。その力を見せてくれるなら、愚鈍な人間の中途半端な提案に手を貸してあげてもいいよ」  ラスがレアンたち三人を流し見た。   「たとえ悪魔に愚鈍と罵られようと、リリムを天使殺しにするわけにはいかない。ラスがお腹を壊す程度で済むのなら、見たことのない力とやらを試してほしいね」  レアンが負けじとラスに噛みついた。  ラスとレアンの間に火花が散って見えた。 「ちなみに私もカロンと同じ光属性の魔術師だが、私とリリムでは、ダメなのかい?」 「レアンはただの『五感の護り』で、神力ないでしょー。いくら光属性でも無理だよ。神力持ってる『神実』じゃないとねー。むふふ」  ラスに含み笑いされて、レアンの顔から表情が抜けた。  また火花が散って見える。 「まぁまぁ、カロンになら出来るってんなら、いいじゃねぇか。頑張ってもらおうぜ」  カデルがレアンの肩を叩いて落ち着かせていた。 「そうなると、カロンをこの場に呼ばなかったのは、やっぱり正解かな」  シェーンが心苦しい苦笑を見せた。 「カロンはアドリブこそ力を発揮するタイプだよ。上手くすれば、ルカの中の天使を引き摺り出してくれるかもしれない」  レアンの含んだ物言いに、カデルが噛みついた。 「まさか、何も説明せずにカロンを囮にする気か? 流石に、賛成できねぇぞ」 「僕も賛成し難い。それではカロンが危険だ」  カロンを囮にする作戦をシェーンとレアンがあまりに自然に提案するので、危うく流れに乗るところだった。  この二人は、こういうところが危ない。 「我は良き作戦と思うなぁ。どのみち、ルカから天使を引き剥がさないと、攻撃も出来ないんだからねぇ」  ラスがシェーンとレアンに賛成した。  レアンとラスが顔を見合わせて分かり合っている。  喧嘩するのも仲良くなるのも早い。 「天使は、折を見てルカの体を使ってカロンに食らいつく。カロンを傷付けたくないなら、そのタイミングを見逃さないことだね」  ラスが親切そうに提案した。  リリムは、前屈みに歯噛みした。 「ならば僕はカロンから離れない。明日から、ずっと一緒にいる」 「それがいいんじゃない? 『神実』の近くに『魔実』がいたほうが都合がいいよ」  レアンとシェーンが異を唱える前に、ラスが賛成した。 「なら、ルカの側にはシェーンが付け。いつも大体、一緒にいるだろ。シェーンが離れる時は、レアンだ。リリムがどうしてもカロンから離れる時は、俺がカロンの側に居る」  カデルが、妥当な提案をしてくれた。リリムは迷わず頷いた。 「なぁに、ほんの数日さぁ。気配は大きくなっている。ルカの中の小天使は、すぐにでも動き出す。皆がアモルに構っているうちに、我がクピドを探しておいてあげるよ」  ラスが楽しそうにムフフと笑った。 「ラス、とても楽しそうだ」 「そりゃ、楽しいさぁ。女神様の命令の元、堂々と天使を狩れるんだ。悪魔が天使狩りなんて、普段なら裁きが下る行為だよ? 長年悪魔やってるけど、こんなの初めてだよ。世界の歪みに感謝だね」  楽しそうにする顔は、やはり悪魔なのだなと思う。 (状況を話さず危険に晒す分、何が何でも僕が陽向を守る。絶対に傷付けない)  自分に固く誓って、リリム夜神は決意を新たにした。

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