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第45話 望む展開
「カロンはリリムに名指しで、倒しに来いって言われたんだよね」
「……うん」
「だったら、カロンが行かなきゃ、ダメだと思わない?」
頷けなかった。
自分がリリムを討つなんて、できるはずがない。
「リリムの目的はさ、最初からずっと同じなんだよ」
「同じ?」
カロンは、顔を上げた。
「大天使メロウを討つこと。『魔実』として覚醒して、ラスという従魔がいて、女神アメリア様とも話が出来て、リリムは俺たちにない情報を持っていた。そんなリリムが、『神実』であるカロンに倒しに来いと言った」
「それって、大天使メロウを討つのに、俺たちがリリムの元に行く必要があるってコト?」
冥界の魔王の元に『神実』と『五感の護り』が集う状況が必要、ということだろうか。
「少なくとも俺たちは、そう考えた。だからレアンたちが国を説得してる。討伐報酬は討伐隊の長である『神実』の願いを叶えること。カロンの望みを叶えてもらうことだ」
シェーンが確信的に笑んだ。
自信満々の笑みは、シェーンが隠す本来の好戦的な性格そのものだ。
「俺が、リリムの帰国を願ったら、叶えてもらえるの? ヴァンベルム家は、なくならないの?」
「そうなるように、レアンたちが苦心してるんだよ」
ぽろぽろと涙が流れた。
さっきまでとは違う涙だ。
「それにさ、もし女神アメリア様が復活したら、国だって納得せざるを得ないでしょ? 全部、女神様がどうにかしてくれそうだよね」
シェーンの言葉が急に緩くなった。
「だけど、リム……、リリムは。俺にサヨナラって言ったんだ。お別れだって。もう、戻ってくる気は、ないのかもしれない」
そういう決意の言葉だったと、カロンには聞こえた。
「それさぁ、かなり悔しいよね。カロンにしか言わなかったんでしょ? その場にいたレアンにも、いなかった俺なんか当然、言われてないわけだからさ」
「それは、そうだけど」
言ってほしかった言葉ではない。
あんな別れの挨拶、してほしくなかった。
「カロンは、その言葉だけで、リリムを諦められるんだ?」
「諦めるも何も、リリムが言ったんだよ」
意志の強いリリムが放った言葉だ。
どんなに努力しても覆せる気がしない。
「なら、このまま泣きながら寝てれば? 俺は冥界までリリムを取り戻しに行くよ。俺はサヨナラなんて言われてないし、言われても諦める気はないからね」
シェーンが椅子から立ち上がる。
自然とその姿を目で追った。
「どっちにしろ、今のカロンが一緒に来てもお荷物だよ。さっきの俺の風魔法すら、避けられない。今の魔法レベルじゃ、魔王になったリリムには勝てないよ」
シェーンが指を弾いた。
小さな風が、カロンの鼻を跳ねた。
「その気があるなら訓練してあげようと思ったけど、無理そうだね。もう少し骨のあるタイプだと思ってたけど、見込み違いだったよ。ごめんね」
シェーンがカロンに背を向けた。
(だって、リリムがお別れだって、サヨナラって。笑顔が好きだって言ったのに、だからお別れって、言ったんだ)
そう考えて、違和を感じた。
(俺の笑った顔が好きで、だからお別れって、なんでだろう。どうして、好きなのに側に居ないんだろう)
これまでのリリム夜神との会話を思い返す。
『……笑わない、から』
この世界に来て、間もない頃。
この世界に呼んだことを、リリム夜神はカロン神木に謝った。
大きく歪んだこの世界は、もう神木陽向が好きな『魅惑の果実』ではなくなっている。
そんな世界に呼んだことを後悔したと話した。
この世界に来たばかりの時は、小説の内容と違い過ぎて、驚きの連続で、笑えなかった。
日本で夜神と小説の話をしていた時は、いつも笑っていたと思う。
(だって、楽しかったし、嬉しかったから。夜神くんが小説を読んでくれて、感想を話し合えるくらい内容も理解してくれて。夜神くんも楽しんでくれてるのが、嬉しかったんだ)
あの時の笑顔を夜神は、ずっと覚えていてくれた。
(俺が、笑えるために。俺が好きな『魅惑の果実』の世界を守るために。だから夜神くんはリリムとして、悪役として討たれようとしてる?)
そもそもリリム夜神が目標にしていた闇堕ちラスボスは、小説の設定ではない。
あくまで、小説を読んだ神木陽向が話した予測だ。
それを本筋だと思い込んでいたと話していた。
(思い込みだと気が付いても、夜神くんは目標を変えなかった。それって、俺が好きな展開を作るため。俺のためなんじゃ……)
だからリリムは陽向にサヨナラをして、カロンに倒しに来いと告げた。
魔王として『神実』に討たれるために、自分も夜神利睦とサヨナラしてリリムになりきると決めたのだとしたら。
『笑った顔が好きだ。だから、お別れだ』
あの言葉の本当の意味を、ようやく理解した。
(元の世界にいた時なら、一読者なら、リリムが魔王になる展開、きっと面白いって思ったよ。だけど、リリムが夜神くんで、俺がカロンで、この状況じゃ、ちっとも面白くない。今の俺が欲しい展開は、そうじゃない!)
カロンは顔を上げた。
「待って、シェーン! 訓練する! 俺のこと、強くして!」
身を乗り出して、シェーンの服を引っ張った。
(もし利睦が、俺が望む展開のために魔王になったのなら。今の俺が望む展開を話したら、受け入れてくれるかもしれない)
これからも一緒に、この世界で生きたい。
隣にいて欲しい。
闇堕ちしない、魔王でもない、ただのリリムに側に居て欲しい。
そう話したら、わかってくれるかもしれない。
(納得してもらえなくても、リリムが側に居てくれるほうが俺は笑えるんだって、ちゃんと伝えなきゃ。俺の気持ち、伝えなきゃ!)
物語の展開もキャラブレも新キャラも、どれだけ原作と違っても、どうだっていい。
この世界を守れて、リリムが一緒に生きてくれたら、それでいい。
それだけで、元の世界にいた時以上に、笑っていられる。
シェーンの服を掴む手に、力が入った。
「自分の手で、リリムを取り戻す。そうじゃなきゃ、レアンやシェーンに持っていかれる。そんなの、嫌だ」
カロンを振り返ったシェーンが口端を上げた。
「いいね、カロン。そういうカロンが、俺もレアンも好きだよ。泣くのは、おしまい。訓練室に行こうか。時間がないから、手加減しないよ」
力強く頷いて、カロンは立ち上がった。
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