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第47話 本当に守りたいもの
「アメリア様を解放するには、やはりメロウを殺す以外の方法はないのでしょうか?」
アンドラスは、それ以外に方法はないと話した。
だから、ハデスにも意見を聞いてみたかった。
「あの封印は、命の鎖ですな。封印と自分の命を繋げて強固にする。おおよそ天使が使うような術ではない、呪われた封印術ですなぁ。メロウの命を奪うか、アメリア様の命が消えるか。どちらかしかありますまい」
ハデスが厳しい顔をしている。
やはり他に方法はないらしい。
(ならば、僕の手で殺すしかない。その為に魔王になったのだから)
メロウを殺した後は、カロンに討取ってもらう。
それで『魅惑の果実』の物語も破綻せずに終結に向かえるはずだ。
(魔王になった僕を殺しても、カロンは罪に問われない。『神実』であるカロンがリリムを討取らなければ、意味がない)
陽向が好きな物語を守るために、陽向と別れる決意をした。
あの笑顔を守るために。立派な悪役になるための努力が、実を結ぶ時だ。
「けほっ」
オズとオセに紅茶を出したフェリムが小さく咳き込んだ。
「フェリム、大丈夫か?」
「えぇ、ちょっと瘴気を吸い込んだみたいです」
光魔法に性質が近い水属性のフェリムには、冥界の瘴気が堪えるようだった。
リリムは立ちあがり、フェリムを抱き寄せた。
「口を開けて、舌を出して」
「はぃ……」
フェリムが素直に口を開ける。
魔王になってから、リリムは少しだけ背が大きくなった。
加えて風変わりな衣装のブーツの底が厚いので、余計に背が高く見える。
いつの間にかフェリムより高身長になっていた。
フェリムの頬を包んで、舌を吸い上げる。
くちゅくちゅと唾液を絡めて、強く唇を重ねる。
魔力を流し込むと、フェリムの肩の力が抜けた。
「もう、苦しくないか?」
「はぃ、楽になりました」
フェリムが目を潤ませて、蕩けた顔をしている。
「リリム様とフェリム様、またちゅぅしてる~」
「エッチなちゅぅしてる~」
紅茶とお菓子を頬張りながら、オズとオセが笑う。
「これはエッチなちゅぅではなくて、苦しくならないための解毒だ」
「そうですね。一日一回の解毒、ですね」
フェリムが嬉しそうにリリムに抱き付いた。
一日に一回か二回、今のように口移しで魔力を流し込んでやらないと、フェリムは咳が止まらなくなる。
「フェリムはやはり、地上に戻るべきだ。色々と助かっているが、冥界に長く留まるべきじゃない。スパも整ってきたし、そろそろ……」
リリムが竜に乗って冥界に来た時、気が付いたらフェリムが後ろにいた。
いつの間にか竜に乗っていたらしい。
冥界に着いてから気が付いたので、帰すタイミングをすっかり失っていた。
「ダメですよ。カロンたちが迎えに来るまで、帰りません。私が側に居ないと、リリムはきっとまた間違うから」
「僕がまた、間違う?」
リリムに抱き付いたまま、フェリムが顔を上げた。
「今はまだ、気が付かない振りをしていてもいいですが。その時が来たら、誤魔化してあげませんよ」
フェリムの指が、リリムの唇をちょんと押した。
「だから今は、私だけのリリムを堪能させてください」
フェリムがリリムに強く抱き付く。
「私はリリムよりリリムをよく知っていて、誰よりも大好きです。だから、どうなればリリムが幸せかも、リリムよりよく知っているんですよ」
胸の奥が、きゅんとして、甘いのに苦く締まった。
リリムはフェリムを抱き返した。その髪を優しく撫でる。
「フェリムに側に居て欲しい。これは僕の我儘だ。本当ならフェリムはカロンの側に居るべきなのに」
「リリムは『魔実』なんだから、守護者の私が側に居ていいんですよ。魔王なんだから、もっと我儘、言ってください。今だけでも、私を求めてくれるの、嬉しいですから」
本当に、我儘だし狡いと思った。
自分がこの腕に抱きたい相手は、フェリムではない。
それなのに、フェリムを離せない。
(僕はいつから、こんなに身勝手な生き物になったんだろう)
自分を誤魔化して、弱い心に負けて、フェリムの気持ちに甘えて。
わかっているのに、そんな自分を直視できない。
どうすれば、今までの自分に戻れるのか、わからない。
(魔王になると、自分で決めた。地上とは決別した。なのに、見苦しい未練が、心の奥から消えてくれない)
そんな自分は嫌いなのに、愛おしくて堪らない。
今までに感じたことがない感情ばかりで、戸惑う。
「地上の討伐隊は時期に冥界に辿り着きましょう。目的さえ忘れなければ、魔王様はきっと大丈夫ですぞ」
ハデスが微笑んだ。
元魔王とは思えない優しい笑みだと思った。
「目的……、大天使メロウを、討取る?」
「自分が何を守りたいのか、忘れずにいること、ですな」
腕の中に抱くフェリムと、微笑んでくれるハデス、嬉しそうにお菓子を食べるオズとオセも、今は大切な仲間だ。
(守りたいもの、か。僕が何より守りたいのは……)
浮かんできそうな笑顔を胸の奥に仕舞い込んで、リリムは目を瞑った。
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