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第48話 ハーレム幻影【KK】→

 リリムが冥界に去って一週間が過ぎた。  カロンはといえば、シェーンによる連日のスパルタ魔法訓練でヘロヘロだ。 (でも、弱音吐いていられない。レアンやカデルやルカは、矢面に立って頑張ってくれてんだ。俺たちが冥界に行く算段、立てるために)  本当なら、リリムが飛び立った時点で追いかければ良かった。  カロンがグズグズ泣いて引きこもったせいで、国を巻き込む大事に発展した。 (俺のせい……、リリムが追い込まれてんのは、全部俺のせいだけど、後悔ばっかしてんな! 二日も泣いてたんだから、前を向かないと)  自分の頬をパンパン叩いて気合を入れる。 「そんなに叩いたら、腫れるぞ」  声を掛けられて、振り返る。  カデルが苦笑しながらカロンを眺めていた。 「カデル! 戻ってきたの? 王様の説得、出来たの?」 「何とか纏まりそうだ。ルカとレアンも、そのうち戻ってくる」  駆け寄ったカロンの頭を、カデルが撫でた。 「良かった。地上から冥界に行くには、教会の許可が必要なんだよね?」 「正式にはな。リリムみたいに、悪魔の従魔がいたり、竜のペットがいない限りは、人間が通れる入り口は一つしかないからな」  冥界への入口は教会が管理している。  行こうと思って、おいそれと行ける場所ではない。 「リリム……」  闇属性の魔術師で悪役令息、闇堕ちラスボス候補のリリムには、冥界との接点が多すぎる。 (俺や『五感の護り』は光属性や自然属性で、神に近い存在だから、冥界が遠く感じる)  しょんぼりするカロンに、カデルの腕が伸びた。  ふわりと抱き寄せられて、カロンはカデルの胸に倒れ込んだ。 「リリムが心配な気持ちはわかるけど、そんな顔すんな。俺はリリムより、カロンが心配だ」 「俺? 俺は元気だよ」  つい数日前まで泣き腫らしていたが、シェーンのお陰で気持ちが奮い立った。 「まだ、目が腫れてる。夜、一人で泣いてるだろ。俺がいなくなっても、カロンは泣くのか?」  カデルがカロンの瞼に口付けた。  一人になるとリリムを思い出して泣いたりする夜もあるが、前ほどではない。 「今はそんなに、泣いてないよ。カデルがいなくなったら、同じように心配するよ」 「同じように、か。 俺だけを心配するカロンにしたくなるな」  カデルの手が、カロンの服の中に忍び込んだ。 「え⁉ カデル?」  素肌を撫でられて、ゾワゾワする。 「今なら、俺がカロンの(シード)になれるだろ。カロンを俺だけの果実にできる」  唇が重なって、舌が口内に侵入する。  カロンは思い切りカデルを突き飛ばした。 「こんな時に、何言ってんだよ! カデルらしくない!」  顔を上げたら、目の前にルカがいた。 「え? なんで、ルカ? カデルは?」 「カロン、キスしよ。僕とカロンは、将来、結婚するんだよ。カロンは僕を(シード)にして、僕の子を産むんだ」  ルカがカロンの首に腕を回す。  唇が重なって、口付けが深くなる。  息が出来なくて、くらくらした。 (何? 何だ? また変な術に巻き込まれてんのか? いつの間に?)  何とかルカを引き離す。 「お前、誰だよ。ルカじゃないだろ!」  目の前のルカが目を潤ませた。 「なんで、そんな酷いこと、言うの? 僕はカロンが好きって伝えただけなのに」 「え? いや、ルカが嫌いなんじゃなくて」 「カロン!」  後ろから声がして、誰かが抱き付いた。 「フェリム? なんで寮にいるんだよ。リリムと一緒に冥界に行ったんじゃ」 「ずっと探していた、私の運命の人。貴方の前でなら、私は笑えます」  フェリムが後ろから顔を寄せる。  顎を掴まれて、強引に口付けられた。 (わかってきた。カデルもルカもフェリムも、このセリフは全部、『魅惑の果実』でカロンが告られる時の台詞だ)  BL小説である『魅惑の果実』は、『神実』という果実である主人公カロンが(シード)を選んで、結婚する。  そこまでの過程で、ハーレム状態になる。  カロンは、それぞれのキャラに告白され、終盤に入る直前、レアンを選んで結ばれた。 「これ以上、誰かに触られるくらいなら、無理やり奪っちゃおっかな」  すぃ、と顎を撫でられる。  見なくてもわかる。これはシェーンの台詞だ。  顔を上げたら、案の定、シェーンがカロンを見下ろしていた。 (この世界のシェーンが、俺相手になんか絶対に言わない台詞と、しない顔だ)  潤んだ瞳で、蕩けた表情で、今にも食いつきそうな唇が近付く。  顎を掴まれて、逃げられない。  カロンは大人しくシェーンにキスされた。 「私は、カロンに選んでもらえるだろうか。私の愛しい人は、カロンだけだよ。私の生涯の総てをカロンに捧げる。カロンを守る騎士になると誓う」  瞑った目をゆっくり開ける。  真っ直ぐな瞳が、愛おしそうにカロンを見詰める。 「レアン……」  この世界にはいない、完全無欠な純白の王子様。  神木陽向が憧れたレアンだ。 「君の熟れた唇を、私だけに奪わせて」  この世界の腹黒レアンを知っていると、今の台詞が違う意味に聴こえてくる。 (骨の髄まで全部、喰われそう。つか、骨すら残さず砂にされそう)  怖気を感じながら、優しく触れるレアンの手に身を委ねる。  レアンの唇を受け入れる。甘い舌が、カロンの唇を舐め上げた。 (こっちのキスのほうが優しいのに、腹黒レアンにされたキスのほうが嬉しかったな。何でだろう)  リリムと間接キスがしたくて、レアンはカロンにキスをした。  この世界のレアンの性格を知る前だったら、きっとショックだったと思う。 (あっちのほうが、レアンらしい)  純白王子が闇に飲まれた。  真っ黒い塊が、人の形になっていく。 「やっぱ、最後は、リリムだよな」  黒い影がリリムの姿になった。  顎を上げて悠然と笑む顔が如何にも、小説に登場するおバカなリリムだ。 「お前みたいな田舎者には、本物の価値なんてわからないだろう。だから『五感の護り』に僕を選べないんだ。物を知らない愚鈍め。どれが本物か、教えてやる」  リリムがカロンの顎を掴んだ。   「今となってはもう、お前はリリムですらない。俺にとって本物のリリムは、利睦だけだ」  リリムの顔が分かり易く歪んだ。  怒りを顕わにした目が、恨めしくカロンを睨んだ。 「ふざけるなよ、木こり風情が。『五感の護り』に選ばれず、悪魔にそそのかされて、愚鈍な自分に気が付けないまま、浅はかに利用されるから、リリムなんだよ。詳細なバックボーンなんか必要ない、ダメ人間になるのに理由なんか、いるか。ダメな奴は、最初からダメなんだよ!」  目の前でリリムが怒鳴る。 「何、言ってんだ?」  その台詞はまるで、登場人物(リリム)というより、原作者の心の声に聴こえる。  リリムがカロンの胸倉を掴み上げた。 「ダメだけど、構ってほしい。ダメだけど、特別になりたい。世の中のほとんどの人間が思ってる願望だろう。その代表が、リリムだ。そういうつもりでリリムを作った。世の中によくいるダメ人間を書いた! なのになんで、漫画になるからって格好良くしなきゃいけないんだ。物語が崩れるだろ。その後のBLゲームに繋げるために攻略したくなるキャラにしてください? 知るか!」 「え? 『魅惑の果実』って、BLゲームになんの?」  思わず聞いてしまった。  それはとても興味があるし、ちょっとプレイしてみたい。 (いやでも、今の俺って、リアルでキャラを攻略中だな)  異世界で、リアル『魅惑の果実』プレイ中だ。  原作とはキャラもストーリーも、かけ離れているが。

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