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第49話 原作者きた

 リリムがカロンから手を放して、頭を抱えた。 「そもそも、私が書いた『魅惑の果実』が面白かったからコミカライズやゲームに繋がったんだろ? 何で今のままじゃダメなんだよ。どのキャラより渾身の出来栄えが、リリムだろ! 感想もレビューも、リリムが残念です。主人公パーティ強くて格好良いのにリリムだけヘタレでダメ人間が目立ちます。あれ全部、誉め言葉だろ!」  頭を抱えたリリムが膝を折って蹲った。 「ちょっと……、落ち着けよ。色々あるんだなって、わかったからさ」  よくわからないが、目の前にいるリリムは原作者なんだろう。  慰め方もわからないが、とりあえず肩を撫でてみた。  闇が弾けて白い光に包まれた。  目の前のリリムが、白い天使になった。 「もしかして、大天使メロウ?」  メロウと思われる天使が、床に蹲って泣き出した。 「どうしても格好良い悪役令息が必要なら、新キャラ作るから、リリムをダメ人間のままにさせてくれ。私の最高傑作、かまってちゃんクズ人間リリムがいるから、『魅惑の果実』は面白いんだ」  天使が床に突っ伏して、めそめそしている。 「えーっと、とりあえずさ。漫画になったりゲームになったりしても、原作を作ったのはメロウ……夢野先生じゃん。他の媒体がどんなに変わろうと、原作は変わんねぇじゃん。俺、原作ファンだからさ。ダメ人間のリリム、良いと思うよ」  リリムのダメさが、かえって主人公カロンの純朴さや、レアンの純白さを際立たせていたと思う。  そういう意味で、陽向はリリムがそこまで嫌いではなかった。 (夜神くんの意見は一般論、というか、リリムへの応援だったな)  突っ伏していた天使が、ちらりと目だけを上げた。 「例えば、具体的に、どの辺が?」 「具体的に? ……んー」 「その場限りの慰めで、適当な言葉しか言わないなら、要らない!」  天使がまた泣き出した。  とても面倒な性格だなと思う。 「例えば……、リリムってさ、フェリムとかカロンとか、あとモブとか、弱そうで反論しない奴とか、立場が弱い奴しか虐めないよね。その辺、最低だと思う」  天使の顔が、ちょっと明るくなった。 「あと、虐める時の台詞とか、今時こんなこと言う奴いるか? って思う最低具合で……。最近は、主人公が虐められるけど最後に幸せになって、虐めてた奴が詰む的なシンデレラストーリー、流行ってるけどさ。『魅惑の果実』の連載が始まった頃って、まだそういうの流行ってなかったから、先取りだったんだなって」  天使が顔を上げて、頷く。  笑顔になった。 「リリムぐらい性格悪いとさ、レアンとかカデルが、カロンを助けてくれた時、スカッとするっていうか。アイツ死んでもいいなって思うクズさだよね」  天使が何度も頷く。  激しく頷きすぎて、ヘドバンみたいになっている。  首が捥げそうだ。 「そう! そういうリリムを! 私は残したい!」 「残せばいいんじゃないの? 原作まで書き換えなきゃいけないの?」  天使の顔がまた歪んだ。  目が潤んでボロボロ泣き出した。 「原作を残すのは、私の仕事だよ。これはこれ! それはそれ! 原作と、漫画ゲームは別物! それでいい! だけど……。この世界のリリムは、めちゃめちゃ格好良くて、可愛い。もはや主人公バリの存在感。私には、大変に受け入れ難い」  天使が乾いた顔をした。  涙まで乾いて、無表情になっている。 「まぁ、そうだね。でも、それを言うなら、レアンは腹黒だし、カデルは俺様どころか爽やかな優しいお兄さんだし、フェリムは全然淡々としてなくて熱くて、可愛い人形とか作るけど」  天使が無言のまま、大粒の涙を流した。  カロンの肩がビクリと震えた。 「……どーして、こうなった」 「俺にも、わかんない」  縋るように問われても困る。  むしろ、こっちが聞きたい。  神木陽向がカロンになった時には、既にこういう世界だった。 「あのさ、この世界が原作世界なの? 俺はてっきり、コミカライズ版の世界に近いのかと思ってたけど。そもそもこの世界を元に戻さないと、原作、どーにかなっちゃうの?」  仮にそうだとしたら、かなり絶望的だ。  違い過ぎて、どこを直せばいいのか、わからない。 「この世界はアナザーワールドで、独立した世界だから、ここで生きる人々を今更どうにかする必要はないんだけど。この世界の消滅は、回避しないといけない。この世界の消滅は、原作の削除(デリート)を意味する」 「は? この世界の消滅を目論んでんのは、アンタだろ?」  天使が、ポカンとした顔で首を傾げた。  あまりにも呆けた顔をするので、カロンも首を傾げた。 「あんたが、大天使メロウだろ?」 「違うけど。私はただの原作者、夢野迷路だけど」  訳が分からな過ぎて、何も聞き返せない。 「じゃぁ、なんで、天使の格好してんの?」  かろうじて、見た目を指摘してみた。 「アバター、選んでいいって言われたから、天使にしてみたよ。原作者だけど神様はちょっと奢り過ぎかなぁって」  その謙遜がもう、意味が解らない。  ちょっとイラっとした。 「アンタ、何しに来たの? 攪乱? 紛らわしいんだけど」  原作者が大粒の涙をぼろりと流した。  秒で泣く人だなと思う。 「助けに来たんだよ。大天使メロウは漫画で出す予定の新キャラで、コミカライズ版の格好良くなったリリムとカロンが協力して倒す中ボスなんだよ」  原作者が原作者らしい情報をくれた。 「やっぱりコミカライズ版のキャラか。メロウが中ボスって、他にボスキャラがいんの?」 「いるけど、まだ作ってないよ。コミカライズ版は、簡単にチュートリアル流して、竜を倒した後の話になるんだよね。原作の続き的な。悪魔に利用されたリリムが生き延びて改心するの」  そこまで話して原作者の顔が一気に曇った。 「どの程度改心させるかで、揉めてるんだけどね。私はヘタレクズ要素残したい。出版社は格好良くしたい。そもそも、クズが急に格好良くなると思う? それって最早別人じゃん!」 「そうだね、別人だね」  この世界のリリムも、本当に別人だ。  中身が入れ替わるくらいしないと、クズがイケメンになるのは難しい。 「てことは、この世界は原作と漫画の内容が混ざっているような状況か。まだリリムのキャラ設定で揉めてるってことは、物語、書き始めてないよね?」    原作者が、こくりと頷いた。 「メロウはどうして、この世界を消滅させたいの? その設定、もう決めてる?」  原作者が苦々しい顔で黒い表情をした。 「嫌いだからだよ。この世界が嫌いだから。私が作った世界を崩そうとする輩は全員滅べばいい。何なら世界ごと滅べばいい。そういう気持ちをメロウに込めた」 「結局、アンタの願望じゃねーか! だから昔の自分のペンネーム使ったんか!」  被り気味に突っ込んだ。  肩を掴んでぶんぶん振る。 「え? そんな古いペンネ知ってんの? もしかして、その頃から読んでくれてる?」 「……第一話配信の時から、読んでる」  原作者が感動した面持ちでカロンを見詰めた。  有無を言わさぬ強さでカロンを抱きしめた。 「第一読者、発見。私の心のエネルギーが補充された。ありがとう、マジ救い」  ぱっと体を離した原作者が、にぱっと笑った。 「しかも男の子でBL小説読んでくれてるんだ。腐男子君?」 「そうだけど」  原作者がカロンの手を握って、ぶんぶんと大きく振った。 「腐女子ファンも嬉しいけど、腐男子ファン、更に嬉しいよ。推しって誰? カロンだし、レアン?」 「小説読んでる時は、レアンだったけど。今は、違うかも」  この世界に来てからの推しはと聞かれると、難しい。 (皆、微妙に性格が違うからな。この世界なら、リリムかな。……あれ? それだと俺は、夜神くん推しってことになるのでは?) 「この世界のレアン、腹黒だもんね。脇キャラならありだけど、メインヒーローじゃないよね」 「そうなんだよね! ああいうキャラ好きだけど、レアンじゃないよね」 「腹黒ポジはシェーンだったのに、あれじゃキャラ被りじゃん」 「でも、レアンの腹黒とシェーンの腹黒って、ちょっと違うっていうか。レアンのほうが闇というか病んでる感があるというか」  シェーンには育った環境や立場というバックボーンがあるだけに、健全な腹黒に感じる。 「レアンは病みキャラじゃないんだけどなぁ」 「むしろ闇や病みを祓う純白皇子なのにね」  同じ溜息を、カロンと原作者は零した。 「でもその分、リリムの性格が光属性っていうか、正義の味方っぽいよ」 「それが、そもそも間違ってんの。なんで闇魔術師が光属性で正義の味方してんだよ。リリムはクズの悪役令息なんだよ」  大きな舌打ちと共に、原作者が苦々しく顔を顰めた。 「うんまぁ、その通りだけど……」  悪役令息が悪役令息をしていないのだから、舌打ちしたくなる気持ちはわかる。   「だけどコミカライズ版では、リリムとカロンが協力してメロウを倒す予定だし、リリムはヘタレクズ返上して格好良くなるだろうし、この世界のリリムに近いんじゃないの? この世界のリリムは既に格好良いんだし、倒せるんじゃないの」  面白くなさそうな顔で他人事的に吐き捨てた。  この世界のリリムも、原作者はお気に召さないらしい。

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