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第1話

 学生時代に別れた恋人のことが、ずっと忘れられない。  春田(あきら)。  高校の数年間、(せい)とその男は恋人同士だった。  今でもふとした瞬間に、肩に寄りかかってきた頭の重みを思い出す。  去年見てそこそこ感動したはずの映画の結末や、先週飲んで珍しく当たりだと思ったスタバの新作の味はもう思い出せないのに、あのたった数年の記憶だけが、嫌になるほど色褪せない。  後悔や未練の残る恋愛というものは往々にして忘れがたいものだが、この忘れがたさはそれとも少し違うように思えた。  後悔とは「あの時こうしていたら、何とかできたかもしれない」という、一種の自惚れから生まれる感情だ。自分の選択次第で未来が変わったかもしれないという思い上がりが、後悔や未練を生む。  だが、別れてから八年経った今思い返してみても、「あの時こうしていれば」なんて打開策は、星には思いつきもしない。  全ての未練を捨てて来たみたいな顔で告げられた「別れてほしい」という一言に、ただ「分かった」と頷く以外、一体何ができただろう。

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